2015年05月29日(金)
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■(1)〜大前研一ニュースの視点〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
中国経済・中国自動車・アジア投資銀行〜失速に向かう中国経済を考える
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中国経済 中国経済の失速鮮明 中国自動車市場 4月の新車販売台数 199万4500台 アジアインフラ投資銀行 南アジアの発展へ協力強化 アジア投資 今後5年間で約13兆2000億円投資
------------------------------------------------------------- ▼失速する中国経済とその影響 -------------------------------------------------------------
ロイターは13日、「中国経済の失速鮮明」と題する記事を掲載しました。
中国の4月の鉱工業生産、小売売上高、固定資産投資はすべて予想を下回ったと紹介。 政策緩和にも関わらず景気が回復に向かっていない現状が鮮明になったと指摘しています。
東洋経済オンラインでは、中国経済の失速について「超高層ビルの呪い」と指摘していました。
かつて米国はエンパイアステートビルを建築後に大恐慌に見舞われましたし、 同様にブルジュ・ハリファを建てた後、ドバイではドバイ・ショックが起こり、 ペトラスタワーを建てた後マレーシアはアジア通貨危機の打撃を被りました。
中国では世界第2位の高さになる超高層ビル・上海タワーがまもなく完成予定ですが、 これが中国経済の失速を示唆しているということになります。
超高層ビルというものは、経済の調子が良いから建築するもので、 その後経済が落ち込む可能性が高いという意味では、 「超高層ビルの呪い」もある程度蓋然性は高いと言えるでしょう。
実際今の中国経済を見ると、オーストラリアから中国向けの鉄鉱石は大きく減少し、 毎月8兆円規模のお金が中国から逃げています。
中国経済の雲行きが怪しくなり、中国では政府系の関係者までお金を国外に持ち出しているのが実情です。
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中国汽車工業協会が11日、発表した4月の販売台数は前年同月に比べ0.5%少ない199万4500台で、 実質2年7カ月ぶりのマイナスとなりました。
中国は自動車販売で世界最大の市場ですから、自動車大手の戦略にも影響を与え始めています。
最近GMとフォルクスワーゲンは工場を増産できるよう体制を整えていますが、 GMなど主力車種を100万円値下げしてでも、工場をフル稼働させるよう努力しています。
ビジネスウィーク誌の記事では、トヨタはRAVE4という電気自動車を中国市場から撤退させたいのに、 中国が首を縦に振ってくれずに困っていると指摘されていましたが、 このような状況はトヨタなど日本企業にとってもいい迷惑でしょう。
------------------------------------------------------------- ▼アジアインフラ投資の主導権を握る中国とインド -------------------------------------------------------------
中国の李克強首相は15日、北京の人民大会堂で訪中したインドのモディ首相と会談しました。
中国主導で創設するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の運用を巡り、 中印両国が連携して南アジアの発展に向けて協力を強化していくことで一致しました。
会談では、総額100億ドル(約1兆1900億円)規模の事業協力でも合意したとのことです。
アジアインフラ投資銀行の株式は、中国が約25%、インドが約15%を保有します。
中国が筆頭株主になり、インドが2位になり、主導権を両国で握るという構図が明確になってきました。
中国とインドといえばBRICsでの関係もありますが、 今回のアジアインフラ投資銀行においては更にその関係性が強くなったと言えます。
インドのモディ首相はTIME誌の表紙を飾るなど注目を集めていますが、 その理由の1つは中国経済が破綻した後、世界経済をけん引できるのはインドだと考えられているからでしょう。
国内ではそれほど評判が良いわけではないのですが、インド経済の状況はまずまずですし、 幸先の良いスタートを切ったと思います。
来日した際には、日本のことを最大の友人と評していましたが、 いつの間にか中国との関係性を強化してしまいました。
日本も米国も下手にインドに手を出すことができない状況になったと言えるでしょう。
そのような中、日本では安倍首相は21日、アジア開発銀行(ADB)と連携し、 アジアのインフラ整備に今後5年間で約1100億ドル(約13兆2000億円)を投じると表明しました。
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)には言及しなかったものの 「いかなる国の恣意的な思惑にも左右されない、フェアで持続可能なマーケットを作り上げよう」と語ったとのことです。
突然、降って湧いたように「13兆円」という金額が飛び出てきて、私には全くその裏付けが理解できません。 13兆円という金額は非常に大きいものです。
日本の紐付きODA投資にならないのならば、アジアの国にとっても非常に大きな力になるでしょう。
しかし、残念ながら私には「しっかり考えられた裏付けがあるプロジェクト」とは思えません。 AIIBに対抗して数字を「言ってみただけ」だと思います。
あるいは、みんなの願望を並べてみたら13兆円になったというだけでしょう。
日本国内の経済も大変な状況なのに、よく安倍首相は軽々しく発言できるものだと感じてしまいます。
13兆円の裏付けも、どのような見返りがあるのかも全く私は理解できません。
--- ※この記事は5月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
------------------------------------------------------------- ▼今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか? -------------------------------------------------------------
今週はアジア投資に関する話題をお届けしました。
今後5年間でアジア開発銀行と連携し、約13兆円を投資すると表明した安倍首相。 しかし、その裏付けや効果までは言及されていません。
主張を支える論拠は何か? またその論拠はファクトから導かれたものか?
このような論理構造を持って説明することは、 相手にメッセージを理解してもらうために重要です。
ファクトベースでのコミュニケーションを行うこと。 これは問題解決者の基本スキルです。 | | |