2016年07月29日(金) 

01 今週の 大前研一ニュースの視点

外国人労働者・外食産業・国内高級ホテル 〜深刻化する外食産業の人手不足問題
外国人労働者 陰る日本の魅力
外食産業 外食の人手不足申告、IT活用進む
国内高級ホテル 大手町「星のや東京」開業
外食業界の人手不足。ITにはビジネスチャンスも、日本の未来は厳しい。

日経新聞は18日、『外国人労働者、陰る日本の魅力』と題する記事を掲載しました。外国人労働者の「日本離れ」が静かに進んでいます。
単純労働者の受け入れを進めている台湾や韓国では、外国人労働者が増加する一方、日本は円安の影響もあり、賃金の優位性が薄れているとし、「日本に来るメリットがなくなっている」とする現場担当者の声を紹介しています。
根本的な問題として、国が外国人労働者を積極的に受け入れることについて態度を明確にしていません。
ただし、これまでの歴史を見ると、日本は「ウェルカムではない」国の代表と言ってもいいと思います。
アジア主要国の製造業ワーカーの平均賃金を見ると、日本が最も高く「2,373ドル/月」になっています。
日本につづくのは、ソウル:1,729ドル/月、シンガポール1,526ドル/月です。
日本は生活費が高いことを考慮すると、実際には賃金の差はほとんど感じられないというのが実態だと思います。
今、シンガポールでも台北でも人手が足りない状況になっていますが、日本でも外食の人手不足が深刻化しています。
日経新聞は18日、『外食の人手不足深刻、IT活用進む』と題する記事を掲載しました。
それによると、外食産業の人手不足は深刻で、2016年5月の有効求人倍率(パート含む)は外食など「接客・給仕」業が3.45倍と全職業平均の1.11倍を大きく上回る結果になっているとのことです。
逆に、営業や一般事務などは有効求人倍率で1倍を割り込んでいます。すなわち、いわゆる「3K」に近い職業では日本人の求人が集まらない状況になっているということです。
そうなると、外国人労働者にお願いしたいところですが、そのような職業は日本だけでなく世界中で人手不足になっているので日本にとっては厳しいところです。
老舗旅館・加賀屋が、食前の搬送に専用ロボットを使うということでニュースになっていましたが、飲食業界においては今の状況は「新しいビジネスチャンス」を狙えるタイミングとも言えます。
今、飲食業界では様々な新しいネットサービスが誕生しています。
・トレタ:予約台帳と顧客管理のクラウド型サービスを提供。予約・顧客管理、リアルタイムでネット予約を受け付ける
・ポケットメニュー:高級飲食店専門で予約から決済まで可能なアプリを提供
・米オープンテーブル:3万7000のお店が登録していて、空席状況を消費者に提供
・スタディスト:人材教育のクラウドツールを提供。写真や動画を組み合わせてマニュアルを作成。給仕/接客、調理方法を教える。
人手不足のため、素人でも仕事ができるようにする必要性が高まり、そこにネットサービスが入り込む余地が生まれています。
日本では人手不足は、今後さらに深刻化していくのは間違いありません。年々、労働者人口は減少しています。
移民を受け入れずにやっていくには、かなりサービスレベルを落とさざるを得ないでしょう。
高級ホテルでも、接客・給仕の一部分を自分自身でやる必要が出てくるかも知れません。
あるいは、ハウステンボスのように受付からロボットが対応するのかも知れません。移民を受け入れないのならば、そういう未来が待っています。
都心に相次ぐ高級ホテル。高価格設定は、受け入れられるか。

ホテル運営の星野リゾートは20日、オフィス街の東京・大手町に旅館「星のや東京」を開業しました。
1階で靴を脱いで上がるなど、伝統的な日本旅館を現代風にアレンジした内装で料金は1泊1室7万8千円からということです。
食事を含まずにこの高額な料金設定で、果たして近隣のパレスホテルなどに比べて優位に立てるのか、正直疑問です。
1階で靴を脱がせるというのも、外国人にとっては馴染みが薄く、どのように受け止められるのか懸念してしまいます。
ビーチリゾートならまだしも、東京のど真ん中で、このコンセプトが通じるでしょうか。日本人なら靴を脱ぐことにさほど抵抗はないと思います。
今の予約状況を見ると、外国人よりも日本人のほうが多いとのことですし、地方から来るエグゼクティブを狙っていくつもりなのでしょう。
ただ、1泊7万円以上の料金設定だと、よほどの人でなければ使わないでしょう。なかなか普通の会社には受け入れられないでしょうから、どういう層を狙っていくのかあらためて考えたほうが良いかも知れません。
もう1つ高級ホテルといえば、「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」が、27日に開業します。
ここは「赤プリ」の愛称で親しまれたグランドプリンスホテル赤坂の跡地に建設中の新ホテルです。海外の富裕層などを取り込む狙いで、1泊6万円〜59万円とこちらも強気の価格設定をしています。
この記事は7月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの
内容を一部抜粋し本メールマガジン向けに編集しています

今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?

今週は飲食産業や外国人労働者の話題についてお届けしました。
労働者減少の影響をうけ、人手不足が深刻化している飲食産業。
大前は、その解決策となるネットサービスを紹介しつつ、「今の状況は新しいビジネスチャンスを狙えるタイミング」であると解説しています。
問題解決において、インパクトある解決策を生み出すためには、このチャンス、すなわち魅力ある市場機会を見つけることが大切です。
それに当たり、これまでの感覚や経験値に頼って闇雲に探そうとしてはいけません。
まずは市場や業界を取り巻く環境の変化に着目することが、機会の発見につながっていきます。

2016年07月22日(金) 
参院選・憲法改正・安倍首相・バーナンキ〜バーナンキ前FRB議長との会談は「末期的症状」
改憲勢力が参院の3分の2超
安倍首相 デフレ脱却へ経済対策策定指示
バーナンキ前FRB議長 「空からマネー」憶測
改憲ではなく、創憲。憲法8章から始めてほしい

第24回参院選の投開票が10日行われ、安倍首相が目指す憲法改正に前向きな勢力は、非改選と合わせて改憲の発議に必要な全議席の3分の2に達しました。
これについて安倍首相は「自民はそもそも改憲を言っている。それを前提に票を入れてくれた」と話す一方で、改憲案はこれから憲法審査会で議論する考えを強調しました。
選挙期間中はこのようなことは言っていませんでしたから、安倍首相のずるい点が出ていると思います。
しかし、選挙民もそれを理解した上で投票したというのは事実だと思います。
今回の選挙で「なぜ自民を選んだのか?」というと、野党にそもそも魅力がなかったという回答が約71%でした。
要するに「しょうがないから自民党にいれた」ということです。
結果、自民党が増えてちょうど単独過半数、公明党を含めると過半数を超えました。
自民・公明両党と、おおさか維新の会など、憲法改正に前向きな議員を含めると、参議院全体の3分の2の議席を占めることになりました。
民進党にとっては、だらしない結果に終わったと言えるでしょう。
改憲の手続きとしては、衆参両院で3分の2以上の賛成で可決、その後、国民投票で50%以上の賛成を得る、ということになります。
国民投票のハードルは高いと思います。安倍首相は安全保障法制の類を入れ込みたい意向のようですが、不用意にやれば国民投票で否決されて終わるでしょう。
また自民党の改憲提案には、憲法96条の改正が含まれています。
それは、改憲の発議条件を衆院両院の3分の2から過半数に引き下げるというものです。
私は良くないと思います。
「過半数」というのは何かの流れがあると、割りと簡単に達することがあります。その度に国民投票をするのでは、国民としても困ります。
私としては、衆参両院ではなく、どちらか片方は過半数、もう片方は3分の2とするのが現実的だと思います。
小選挙区の多い衆議院よりも、どちらかというとムードで決まる可能性が高い参議院を3分の2条件にしておけば、いいバランサーになるでしょう。
改憲論議が盛り上がっていますが、私の意見を言わせてもらえば、私は改憲論者ではなく、憲法をゼロからつくり直すべきとする「創憲」論者です。
今の論議では、戦争の放棄を謳う「第9条」や、災害・テロ対策のための「緊急事態条項」などが俎上に載ることが多いですが、地方自治について規定する憲法8章から始めるべきだと考えています。
それは憲法で規定された統治機構を改めることから始められるからです。
この点については、拙著「君は憲法第8章を読んだか」(2016年8月発売)を読んで頂きたいと思います。
バーナンキ前FRB議長との会談は「末期的症状」

安倍首相は12日、石原伸晃経済財政・再生相にデフレ脱却に向けた経済対策を月内に策定するように指示しました。
経済対策はリニア中央新幹線などインフラ整備、中小企業の資金繰り支援、待機児童ゼロなどをめざす「一億総活躍」の加速、防災対応の強化の4本柱。
長時間労働の抑制など働き方改革も進め、息の長い経済成長を促す考えです。
今、スローガンのように踊っている言葉を見ると、「2%以上の経済成長」「GDP600兆円」という経済対策には何ら関係がありません。
リニアのインフラを整備しても、工事の経済効果はあるでしょうが、それだけです。
仮にリニアを使うことで東京-大阪間が1時間半で行けるとなっても、今2時間半かけて新幹線に乗っている客を奪うだけです。
リニアのインフラが整備されたことで、より多くの人が移動するようになるとは考えにくいでしょう。
つまり、これらは「経済対策」にはなっておらず、単に10兆円の無駄遣いを配分しているだけです。
あまつさえ、その担当に石原伸晃氏を任命するのは理解できません。
かねてから失言も多かった同氏ですが、今回の都知事選では「無能」をさらしたなどと、ネット上でも厳しく批判されています。
筋が通らない話ですが、安倍首相にとっては友人の1人だからでしょうか。全くもってお話になりません。
ところが、さらに追い打ちをかけるように安倍首相は、もう1人友人を招き入れています。
日経新聞は13日、『「空からマネー」臆測 バーナンキ氏、首相らと会談』と題する記事を掲載しました。
空から現金をばらまくように、政府が減税や給付金で国民にお金を届けるヘリコプター・マネー政策を日本が実施する、と紹介。
「ヘリコプター・ベン」の異名を取るバーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長が来日し、安倍首相らと会談したことが臆測を呼んだとしています。
バーナンキ氏と言えば、FRB議長在任中はそれほどおかしな言動は目立ちませんでしたが、もともと学者の頃は「ロッキー山脈を平らにするだけで経済効果が期待できる」など、とんでもないことを言う人でした。
そんな人物だけに、「ヘリコプターからマネーがふってくる」ということで、株式市場の期待値が高まりました。
しかし、こんなものは経済政策でも何でもありません。私は何度も言っていますが、日本の経済政策として重要なのは「1,700兆円の個人金融資産が安心して消費に向かうこと」です。これが何よりも最大の経済政策です。
そのためには、国を信頼してもらう必要があります。国に対する信頼度が低いから安心できずに、お金にしがみつくことになります。
いざというときでも、国が面倒を見てくれるとわかれば、残りの人生を楽しむためにお金を使うようになるはずです。
この点に着目した政策は1つもありません。どのくらい今の政府がズレているのか、情けない限りです。
政府がお金をばらまくとか、バーナンキ氏を呼んでくるなんて、私に言わせれば「末期的症状」だと思います。

2016年07月15日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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英独立党・スコットランド情勢・EU離脱問題〜英国の移民・難民による雇用問題は幻想。英国はEU加盟前の状況を思い出すべき。

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英独立党 ファラージュ党首が辞任表明
スコットランド情勢 EU残留へ「奇策」も浮上
EU離脱問題 残留派が7割、民意とズレ

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▼ EU離脱ドミノ現象の可能性は薄い。スコットランドはまず英国から独立すべき
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英国の欧州連合(EU)からの離脱派の急先鋒だった
英国独立党のファラージュ党首が4日、辞任を表明しました。

EUへの拠出金を社会保障に回すなどの国民投票前に
掲げていた公約を撤回したことで、批判が高まっていました。

同氏は、英国のEU離脱を勝ち取ったことで「自分の役割は果たした」と
党首辞任の理由を説明しています。

ファラージュ氏は、米国のトランプ氏と似ています。
この10年間「独立党」として極端なことを発言し続けてきました。

EU離脱の国民投票の影響もあって、
あまりに評判が悪くなったので空気を読んで辞任したのでしょう。

今欧州は、英国に続いてEU離脱をする国が出てくる「ドミノ現象」を恐れています。

先日のEU加盟国27カ国の会議でも、これを避けるために英国に対する処遇を確認しています。
EU離脱の可能性があると言われているのはデンマークやハンガリーですが、
現在の英国の状況は、ある意味、見せしめのようになっていると思います。

7月11日号のTIME誌は「THE FALL OF EUROPE」という特集を組み、
欧州全体がEU離脱の方向へ傾くことを懸念していましたが、私はそうはならないと感じています。

実際、英国内でもEUから離脱したくないという意思表明をする人が増えています。
国民投票の結果によると、年配者が離脱を望み、
若者が残留を望んでいたということが明らかになりました。

年配者は若者の意に反した離脱表明に反省しているでしょうから、
この事実を知った今、再度国民投票をすれば結果は変わると思います。

日経新聞は「スコットランド、EU残留へ「奇策」も浮上」と題する記事を掲載し、
英国の状況を受けて北部スコットランドは連合王国(UK)を解体せずに、
実質的にEUに残りたがっていると紹介しています。

スコットランド行政府のスタージョン首相がEU委員や欧州議会の議員と行った会談では、
デンマークとグリーンランドの例の逆に、
連合王国(UK)の中にスコットランドだけがEUに加盟する構想も浮上したとしています。

スコットランドが残留の意思表示をしたのは確かでしょうが、
連合王国(UK)は離脱しスコットランドだけが残る構想というのは、信ぴょう性が低いと思います。

英国が議会で残留を決めるのがベストだと私は思いますが、
もしそうならなかったらスコットランドはまず「英国から独立」すべきだと思います。

独立投票をして連合王国(UK)から正式に離脱し、
その上でスコットランドとしてEUに加盟すればいいのです。

かつてスコットランドが独立に踏みきれなかった大きな理由の1つは、
単独でEUに加盟することが難しい、ということでした。
スコットランドの独立に反対する英国が反対票を投じたら、
スコットランドはEUに加盟できないというルールがあるからです。

しかし英国がEUから離脱した後なら、
英国はスコットランドのEU加盟に反対票を投じる権利がありません。

EUへの加盟手続きには2年間かかるのが難点ですが、
スコットランドとしては独立とEU加盟をセットで考えるべきだと思います。

もしそうなれば、ウェールズも続く可能性があるので、
連合王国(UK)の崩壊へとつながっていくでしょう。


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▼ 英国の移民・難民による雇用問題は幻想。英国はEU加盟前の状況を思い出すべき。
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日経新聞は7日、「英国議会 残留派が7割、民意とズレ」と題する記事を掲載しました。

これは、欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国の国民投票には法的拘束力がなく、
実際に離脱するには英国議会でEU加盟に関する法律の廃止が必要との説があるとの説を紹介しています。

しかし議会には、残留派が多い上に解散するにも3分の2の賛成が必要で、
民意との「ねじれ」が先行きを不透明にしているとしています。

この問題について、非常に興味深いデータが2つあります。

1つは「英国に在住するEU加盟国市民の人口」データです。
これを見ると、EU加盟国から英国に入ってきている人口が分かります。
1位はポーランドで約85万人。アイルランド(約33万人)、ルーマニア(約17万人)、ポルトガル(約17万人)と続きます。
EU加盟国間は移動が自由ですから、これだけ多くの人が英国に入ってきています。

もう1つが「英国における外国人労働者の推移」データです。
これを見ると、この数年間ではEU加盟国出身者数が伸びている一方で、
非加盟国出身者数が横ばいになっていることがわかります。

英国内では「移民・難民」によって雇用が奪われているという意見がありますが、それは全くの勘違いです。

かつてEUに加盟する前の英国の失業率は10%を超えていましたが、現在の失業率は5%程度です。
そもそも、英国の経済が発展した大きな理由は、ポーランド等から自由に移住してきた人がいたからです。
もし彼らがいなければ、英国内は人手不足でレストランも拡大できない、という状況でした。

もし英国がEUから離脱すれば、英国に対する投資は減り、
20年前の失業率10%超の時代に逆戻りすることになると私は思います。

英国人は客観的に自国の歴史を見ず、感情的になり過ぎています。

私は約40年間、英国を投資家として見続けてきました。
かつて日産の英国進出を手伝ったこともあります。
その立場から言わせてもらえば、英国は何を錯覚しているのか、と思います。
EUに加盟する前の「博物館に入る直前」のようだった、あの状況を忘れてしまったのか?
と言いたいところです。

またEUから離脱するとなると、100万人を超えるEU加盟国に在住する英国人が戻ってくるか、
あるいは滞在許可を取り直す必要があります。

この点についても、キャメロン首相から国民への説明が不足しています。

英国は今一度、自国の歴史と現在置かれている客観的な立場を理解し、
「EUからの離脱」を再考するべきです。

キャメロン首相は国民投票のやり直しはしないと明言していますから、
あとは議会に任せるしかないという状況です。

今後の英国議会に期待したいと思います。


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※この記事は7月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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英国のEU離脱に関する議論が活発になっています。

これに対し大前は、数値データを提示しながら、
今一度、自国の歴史と現在置かれている客観的な立場を理解し、
「EUからの離脱」を再考するべきと主張しました。

英国がEUから離脱することで、どのような影響があるのか?
意思決定においては、事実データに基づき、
ポジティブ、ネガティブな影響の両方を想定しておくことが必要です。

この想定が十分ではない決断は安易なものになってしまい、
考え抜かれた意思決定とは言えません。

慎重かつ納得のいく判断を行うため、情報を集め、正しく分析できる技術が、
問題解決者には求められます。

2016年07月08日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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イギリス情勢〜グレートブリテンの崩壊とEUへの影響

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イギリス情勢 国民投票でEU離脱が過半数 

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▼ 意外なことに若者は残留を支持していた英国の国民投票
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EU 離脱の是非を問う国民投票が23日英国で行われ、開票の結果、離脱支持が過半数に達しました。

これを受けて残留を訴えてきたキャメロン首相は10月までに辞任する意向を表明。
その後、新しい首相がEUとの離脱交渉の開始を判断することになりますが、
離脱すれば英国、EUとも影響力の低下は必至で国際情勢や世界経済とともに不安定化する懸念が広がっています。

僅差になるとの予想以上に、差がついた結果になりました。

地域別に見ると、スコットランドと北アイルランドは残留支持が多く、
ウェールズとイングランドは離脱が上回りました。
(ロンドンを除く)イングランドが主として離脱をリードした形です。

そして、英国民にとっても予想外だったのは世代別の結果でしょう。
18歳から24歳までの若者は圧倒的に残留を支持し、その割合は73%でした。
44歳までを見ても、残留が52%と上回っています。一方で45歳以上になってくると、
離脱支持が徐々に大きくなる結果になりました。

おそらく年配の人で離脱に投票した人の中には、
「若者に悪いことをした」「そんなに若者が残留を望んでいるとは思わなかった」
「もし事前にわかっていれば、離脱に投票しなかった」という人が多いのではないかと思います。

国民投票の前に、キャメロン首相はEUから離脱することによる経済的なインパクトを強調していましたが、
むしろ「若者が望んでいるのだから、残留しよう」という
「精神的」的な側面を前面に打ち出したほうが良かったかも知れません。

離脱派の人たちは、「自由になる」「独立記念日を」などと
盛り上がっていましたが、今後は様々な困難が予想されます。

EUは全体で単一市場ということで、物も人も自由に移動できましたが、離脱するとそうはいきません。

英国の輸出先の割合を見ると、圧倒的にEUがナンバーワンです。
EUから離脱すれば、当然のことながら輸出に関税がかかることになります。
これは、かなり大変な事態です。
また、EU内には数十万人単位の英国人がいると思いますが、離脱となると彼らは帰らなくてはいけません。
これらの調整だけでも大変ですが、他にもEUに調和してきた国内の法律の見直しも含め、
やらなくてはいけないことが山積しています。

そんな英国に対して、EU側は非常に冷たい態度を示しています。
ドイツのメルケル首相などは、「離脱するなら、早く出て行け」と言わんばかりの態度です。

まずは「離脱の意向を伝えるだけ」というような中途半端な姿勢ではなく、
出て行くならすぐにでも正式にEUに離脱の申し入れをしてほしい、ということでしょう。

EU側の感情も理解できます。
今回の国民投票などそもそもやる必要が無いのに、わざわざ混乱を招くようなことをやって
キャメロン首相は何をしているのか、という気持ちでしょう。


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▼ グレートブリテンの崩壊とEUへの影響
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国民投票の結果を受けて、今後、どのような展開がありえるのか?

まず、大前提として国民投票には何ら「法的拘束力」はありません。
今回、EUからの離脱が過半数を超えましたが、議会で否決されれば残留することになります。
もちろん、その場合にはキャメロン首相は嘘つき呼ばわりされ、英国国内はぐちゃぐちゃになると思います。

すでに再投票を求める署名が200万、300万を超えたと報じられていますが、
これも非常に難しいところです。
もしこれで再投票をするとなったら、今後誰も英国を相手にしてくれない状況になるでしょう。

今後の展開は予測が非常に難しいですが、私は「グレートブリテン」の崩壊という危険性を感じます。

スコットランドが独立投票をしたとき、彼らの思惑は独立後に今のアイルランドのようにEUに加盟することでした。
ところが、スコットランドの場合にはEUに属しているイングランドが反対すると加盟できないため、
これが抑止力として働きました。

しかし今後、イングランドがEUに属さないとなると、スコットランドに対する同様の抑えは効かなくなります。
スコットランドが再び独立に向けて動き出す可能性は高いと思います。

そうなれば、ウェールズ、北アイルランドでも独立運動が始まるかも知れません。
ウェールズにしても征服された歴史を考えれば、独立したいと考えているでしょう。
北アイルランドも、十数年前に和平交渉が成立して今では平和ですが、過去には長い間の争いと混乱がありました。
ウェールズ同様に、独立の気運が高まる可能性は大いにあると思います。

また忘れてはいけないのが、「ロンドン」です。
離脱派が多かったイングランドにおいて、ロンドンはEUへの残留を支持しました。
EUから離脱するとなると、金融センターのポジションをフランクフルトに奪われることは間違いありません。
何とかその立場を死守したいはずです。

EUには、ルクセンブルクといった小さい国もあります。
今、加盟に向けて動いているクロアチアやコソボと比べても、
スコットランド、ウェールズ、北アイルランドは遜色ありません。

英国の状況変化だけでなく、EU内でもさらに動きがあるかも知れません。
EU離脱をほのめかしているデンマークやハンガリーの動きを助長する可能性です。
ハンガリーはともかく、経済的に豊かなデンマークの離脱はEUとしても無視できない影響があるでしょう。
EU内におけるドイツの負担がさらに増すことは間違いありません。
メルケル首相が怒り心頭になるのも頷けます。

各国の心理を考えると、可能性がありすぎてどこに落ち着くのか、予測不能です。

兎にも角にも現時点で言えば、英国は「やる必要もない国民投票」をやってしまったために、
「進むも地獄、戻るも地獄」という非常に難しい立場にあります。

このままEUを離脱するにしても、議会でひっくり返すにしても、再投票するにしても、
いばらの道しか残されていないと思います。


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※この記事は6月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週はイギリス情勢に関する話題をお届けしました。

イギリスでEU離脱の国民投票が行われた結果、
離脱派が過半数を達したことが報道されました。

これを受けて大前は、その背景を説明しながら、
同国が抱えるリスクや周囲への影響を解説。
そもそもやる必要のなかったことであると指摘しています。

問題解決においては、施策の目的の確認や、
インパクトを予め見込んでおく必要があります。

特に、今回のイギリスの事例のように、ステークホルダーが複数おり
影響範囲が大きくなる場合は、より慎重な検討が求められます。

事前に期待される効果やリスクを掴んでおくことが、解決策の実行に当たり重要です。

2016年07月01日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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イギリス情勢〜グレートブリテンの崩壊とEUへの影響

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イギリス情勢 国民投票でEU離脱が過半数 

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▼ 意外なことに若者は残留を支持していた英国の国民投票
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EU 離脱の是非を問う国民投票が23日英国で行われ、開票の結果、離脱支持が過半数に達しました。

これを受けて残留を訴えてきたキャメロン首相は10月までに辞任する意向を表明。
その後、新しい首相がEUとの離脱交渉の開始を判断することになりますが、
離脱すれば英国、EUとも影響力の低下は必至で国際情勢や世界経済とともに不安定化する懸念が広がっています。

僅差になるとの予想以上に、差がついた結果になりました。

地域別に見ると、スコットランドと北アイルランドは残留支持が多く、
ウェールズとイングランドは離脱が上回りました。
(ロンドンを除く)イングランドが主として離脱をリードした形です。

そして、英国民にとっても予想外だったのは世代別の結果でしょう。
18歳から24歳までの若者は圧倒的に残留を支持し、その割合は73%でした。
44歳までを見ても、残留が52%と上回っています。一方で45歳以上になってくると、
離脱支持が徐々に大きくなる結果になりました。

おそらく年配の人で離脱に投票した人の中には、
「若者に悪いことをした」「そんなに若者が残留を望んでいるとは思わなかった」
「もし事前にわかっていれば、離脱に投票しなかった」という人が多いのではないかと思います。

国民投票の前に、キャメロン首相はEUから離脱することによる経済的なインパクトを強調していましたが、
むしろ「若者が望んでいるのだから、残留しよう」という
「精神的」的な側面を前面に打ち出したほうが良かったかも知れません。

離脱派の人たちは、「自由になる」「独立記念日を」などと
盛り上がっていましたが、今後は様々な困難が予想されます。

EUは全体で単一市場ということで、物も人も自由に移動できましたが、離脱するとそうはいきません。

英国の輸出先の割合を見ると、圧倒的にEUがナンバーワンです。
EUから離脱すれば、当然のことながら輸出に関税がかかることになります。
これは、かなり大変な事態です。
また、EU内には数十万人単位の英国人がいると思いますが、離脱となると彼らは帰らなくてはいけません。
これらの調整だけでも大変ですが、他にもEUに調和してきた国内の法律の見直しも含め、
やらなくてはいけないことが山積しています。

そんな英国に対して、EU側は非常に冷たい態度を示しています。
ドイツのメルケル首相などは、「離脱するなら、早く出て行け」と言わんばかりの態度です。

まずは「離脱の意向を伝えるだけ」というような中途半端な姿勢ではなく、
出て行くならすぐにでも正式にEUに離脱の申し入れをしてほしい、ということでしょう。

EU側の感情も理解できます。
今回の国民投票などそもそもやる必要が無いのに、わざわざ混乱を招くようなことをやって
キャメロン首相は何をしているのか、という気持ちでしょう。


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▼ グレートブリテンの崩壊とEUへの影響
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国民投票の結果を受けて、今後、どのような展開がありえるのか?

まず、大前提として国民投票には何ら「法的拘束力」はありません。
今回、EUからの離脱が過半数を超えましたが、議会で否決されれば残留することになります。
もちろん、その場合にはキャメロン首相は嘘つき呼ばわりされ、英国国内はぐちゃぐちゃになると思います。

すでに再投票を求める署名が200万、300万を超えたと報じられていますが、
これも非常に難しいところです。
もしこれで再投票をするとなったら、今後誰も英国を相手にしてくれない状況になるでしょう。

今後の展開は予測が非常に難しいですが、私は「グレートブリテン」の崩壊という危険性を感じます。

スコットランドが独立投票をしたとき、彼らの思惑は独立後に今のアイルランドのようにEUに加盟することでした。
ところが、スコットランドの場合にはEUに属しているイングランドが反対すると加盟できないため、
これが抑止力として働きました。

しかし今後、イングランドがEUに属さないとなると、スコットランドに対する同様の抑えは効かなくなります。
スコットランドが再び独立に向けて動き出す可能性は高いと思います。

そうなれば、ウェールズ、北アイルランドでも独立運動が始まるかも知れません。
ウェールズにしても征服された歴史を考えれば、独立したいと考えているでしょう。
北アイルランドも、十数年前に和平交渉が成立して今では平和ですが、過去には長い間の争いと混乱がありました。
ウェールズ同様に、独立の気運が高まる可能性は大いにあると思います。

また忘れてはいけないのが、「ロンドン」です。
離脱派が多かったイングランドにおいて、ロンドンはEUへの残留を支持しました。
EUから離脱するとなると、金融センターのポジションをフランクフルトに奪われることは間違いありません。
何とかその立場を死守したいはずです。

EUには、ルクセンブルクといった小さい国もあります。
今、加盟に向けて動いているクロアチアやコソボと比べても、
スコットランド、ウェールズ、北アイルランドは遜色ありません。

英国の状況変化だけでなく、EU内でもさらに動きがあるかも知れません。
EU離脱をほのめかしているデンマークやハンガリーの動きを助長する可能性です。
ハンガリーはともかく、経済的に豊かなデンマークの離脱はEUとしても無視できない影響があるでしょう。
EU内におけるドイツの負担がさらに増すことは間違いありません。
メルケル首相が怒り心頭になるのも頷けます。

各国の心理を考えると、可能性がありすぎてどこに落ち着くのか、予測不能です。

兎にも角にも現時点で言えば、英国は「やる必要もない国民投票」をやってしまったために、
「進むも地獄、戻るも地獄」という非常に難しい立場にあります。

このままEUを離脱するにしても、議会でひっくり返すにしても、再投票するにしても、
いばらの道しか残されていないと思います。


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※この記事は6月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週はイギリス情勢に関する話題をお届けしました。

イギリスでEU離脱の国民投票が行われた結果、
離脱派が過半数を達したことが報道されました。

これを受けて大前は、その背景を説明しながら、
同国が抱えるリスクや周囲への影響を解説。
そもそもやる必要のなかったことであると指摘しています。

問題解決においては、施策の目的の確認や、
インパクトを予め見込んでおく必要があります。

特に、今回のイギリスの事例のように、ステークホルダーが複数おり
影響範囲が大きくなる場合は、より慎重な検討が求められます。

事前に期待される効果やリスクを掴んでおくことが、解決策の実行に当たり重要です。

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