2017年02月24日(金) 

01 今週の 大前研一ニュースの視点

日米関係・日米安保 〜就任1ヶ月、浮き彫りになってきたトランプ大統領の知識と経験不足
日米関係 日米同盟の重要性を確認
日米安保 米国防長官「尖閣を守る」発言の破壊力
就任1ヶ月、浮き彫りになってきたトランプ大統領の知識と経験不足

安倍首相は10日、ホワイトハウスでトランプ米大統領と初めて会談しました。
日米同盟の重要性とこれがアジア太平洋地域の安定の礎になるとの認識で一致しました。
会見でトランプ大統領は在日米軍について「米軍を受け入れてくださり日本に感謝している」と述べるとともに、日本の安全保障に関与するとの考えを示しました。
かつてアイゼンハワー元大統領と安倍首相の祖父・岸信介元首相がゴルフに興じたように、安倍首相はトランプ大統領と一緒にゴルフをするなど、歓待を受けました。
世界中から敬遠されつつあるトランプ大統領にとっては、今喜んで親交を深めようとしてくれるのは安倍首相くらいのものでしょう。
トランプ大統領からすると、昨年11月安倍首相が早々にIR法を成立させたことで、大きな信頼を感じていると思います。
そもそも日本にIR法を成立させたいというのは、大統領選のトランプ氏に対する最大の寄付者であるシェルドン・アデルソン氏の意向です。
これまで数年かかってもなかなか法案成立に至らなかったのに、安倍首相はたった2週間でまとめることに成功しました。
これが今回のゴルフミーティングにつながる最も大きな要因だと私は思います。
さて、安倍首相とゴルフをしながら、どんな話をしたのか?気になる人も多いでしょうが、おそらく何一つまともな議論はなされていないと思います。
トランプ大統領就任からの1ヶ月間を見てきて、トランプ大統領には「1対1」でまともに交渉するスキルがないと私は感じています。
トランプ大統領自身は「何も知らない人」だからです。
振り返ってみれば、トランプ大統領は不動産屋でしかなく、それもファミリービジネスです。
大きな組織を動かしながら経営した経験はないはずです。経営についても外交についても、まともな知識も経験も持ち合わせていないでしょう。
何人かと一緒のミーティングであれば、他人の話を聞きながら上手く話を合わせることもできるでしょうが、「1対1」になるとそうはいきません。トランプ大統領自身の知識と経験が問われます。
また、メキシコ大統領と大喧嘩したところをみると、説得術についても能力が高いとは言えないでしょう。
質疑応答の際に、日本語の質問にも頷いていたなどと報じられていましたが、私に言わせれば、どうせ最初から聞く気がないから適当に相槌を打っていただけだと思います。
これまでの大統領の中にも、大統領選挙を経ずに大統領になったジェラルド・フォード氏、知名度の低いジョージア州知事から大統領になったジミー・カーター氏など、知識や経験の点で不安視された人はいましたが、トランプ氏は別格でしょう。
経営経験もなく、まともに組織を動かしたこともないというレベルでは、米国大統領になる資質がないと言わざるを得ないと思います。
マティス米国防長官による「尖閣を守る」発言の影響力は大きい

まぐまぐのニュースサイトは7日、「狂犬は中国に噛み付いた。米国防長官「尖閣を守る」発言の破壊力」と題する記事を掲載しました。
米マティス米国防長官の来日は大成功だったと評価し、マティス米国防長官が「尖閣は日米安保の適用範囲」と明言したことが中国に対する抑止力になるなど、4つのポイントを挙げて解説しています。
G20やNATOのミーティングの様子を見ていても、マティス国防長官は、きわめて「まとも」な人物だと思います。
トランプ大統領とは違い、海兵隊出身のその道の「プロ」です。
選挙期間中から大胆な発言を繰り返していたトランプ大統領に対しても、従来の米国らしさを踏襲した堅実な姿勢を見せていました。
サプライズはありませんが、信頼できる人物だと私は見ています。
そのマティス米国防長官が、尖閣諸島について、日米安保の適用範囲であることを明言しました。
オバマ政権の頃は、「日本に尖閣諸島の領有権があるならそれを守る」という言い方に留まっていましたが、今回のマティス米国防長官の発言は、「尖閣諸島を守る」に等しい強い発言だったと私も思います。
中国政府は米国に対しても強い反発を見せています。
これまでも米国は日米安保条約の第5条に準拠して対応するという姿勢でしたが、尖閣諸島がここに含まれるという解釈になると中国に対しては大きな影響力を持つでしょう。
この記事は2月12日にBBTchで放映された大前研一ライブの 内容を一部抜粋し本メールマガジン向けに編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?

今週は、安倍首相とトランプ米大統領の対談に関する話題をお届けしました。
ゴルフミーティングや相槌の話題などの報道がありましたが、大前は、トランプ大統領の知識と経験不足を指摘しています。
このように、報道されるニュースをそのまま鵜呑みにせずに、状況を丁寧に観察し、自分の頭で考えることが重要です。
単純に「両国の認識が一致した」と受け入れるだけでなく、その背景や時間軸を通した動きなどについても考えを広げることで、そこにまた新しい考えや仮説を導くことができるようになります。

2017年02月17日(金) 
[1]〜大前研一ニュースの視点〜
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米英関係・米国イラン関係・イタリア情勢 〜トランプ政権による英米関係の行方

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米英関係 トランプ大統領はブレグジットにとって大惨事
米国イラン関係 イランへの追加制裁を発表
イタリア情勢 イタリア国債売り再燃

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▼ トランプ政権による英米関係の行方、イエメン紛争にも影響を与える米イラン関係の危険性
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日経新聞は1日、「トランプ大統領はブレグジットにとって大惨事」と題する記事を掲載しました。

英国は過去40年間にわたり、EU加盟と米国との「特別な関係」という外交政策の2本の大きな柱を持っていました。
しかしEUから離脱する決断の結果、英国は以前よりずっと大きく米国に依存することになるとし、
ブレグジットがなければトランプ大統領に対して用心深いアプローチをとることができたものの、
現状は英国の外交政策と相反する考えの大統領に向き合わざるをえないとしています。

たしかに英国と米国の関係性を考えると、大惨事に発展する可能性もあると思います。
しかし一方で、英国の輸出相手国を見ると、今は米国中心ではないこともわかります。
圧倒的にEU諸国への輸出が多く、米国はせいぜいスイスの2倍程度のもので、
英国にとって致命的なほど米国の存在感があるわけではないでしょう。

* * *

トランプ米政権は3日、イランの弾道ミサイル発射実験やイラン革命防衛隊を支援した25の団体・個人に
追加制裁を科すと発表しました。
米政府高官は同日、今回の制裁は「第一歩にすぎない」と述べ、イランに対する「大幅な戦略見直しに着手した」と表明。
これに対しイラン政府も報復措置を取ると表明しており、両国間の緊張が高まっています。

イランからすれば、オバマ前大統領は核合意を認めているし、
弾道ミサイルの発射実験は主要国との核合意や国連安保理の決議には違反していない、という立場でしょう。
しかし、米国が制裁に出た以上、これからの数週間で一気に緊急事態に発展する可能性もあると思います。

米国とイランの緊張関係は、イエメン紛争にも影響を与えるかもしれません。
サウジアラビアとイランが争っていますが、サウジアラビアの後ろ盾となっている米国が表に出てきて
イランと直接対決する可能性もありえます。イエメン紛争は非常に危険な要素を含んでいます。
今後の展開については、米国とイランとの関係性を見ながら判断することになるでしょう。


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▼ イタリア経済が破綻すれば、スペイン、ポルトガルと続く危険性
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イタリアの10年物国債利回りは先月30日、およそ1年半ぶりの高水準まで上昇。
これは前週、イタリア憲法裁判所が示した判断を機に選挙制度の改正と
早期の総選挙実施が意識され始めたためです。
30日イタリア最大手行のウニクレディトは、16年末の自己資本比率が欧州中央銀行(ECB)の要求を
満たさない可能性があると発表しており、次の政治リスクの震源地はイタリアになる可能性が
高いと見られています。

米国でトランプ旋風が吹き荒れている中、イタリアでは金融機関の調子がおかしくなっていました。
昨年末にはイタリア銀行3位のモンテ・パスキが巨額の不良債権で経営難に陥ったと報じられましたが、
今度は最大手行のウニクレディトまで危ないとのことです。

今後、リスク回避のためイタリア国債を売り抜けるという人が増えるでしょう。
ドイツ経済がもう少し安定していれば事情は異なるかもしれませんが、
ドイツ銀行が欧州最大のリスクになる可能性が出てきていて、欧州経済を支える柱が失われつつあります。

不良債権比率で見ると、イタリアは欧州で第5位です。
キプロスやギリシャのほうが同比率は高くなっていますが、経済規模はたかが知れています。
ギリシャやキプロスに比べると、イタリアに万一のことがあったら、
経済的な損失、影響は「一桁」変わってしまいます。
また、スペインやポルトガルも似たような状況にあるので、イタリアに続いてしまう可能性もあり、
その点も懸念されます。

イタリア国債の危険性はドバイ危機あたりから騒がれていましたが、
ここに来て再び利回りが急激に上がってきて、危険度が増してきました。
イタリアは大きな国ですから、不良債権比率が15%というのはさすがに大きすぎるということでしょう。


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※この記事は2月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、トランプ政権による他国への影響についてお届けしました。

大前が過去40年の英国と米国の関係性を指摘したように、
政治や国際情勢の変化を考察する際には、
それぞれの国が歩んできた歴史に目を向ける必要があります。

歴史を遡っていく際に大切なことは、長期的な時間の流れで見ていくこと。
短いスパンで振り返ってみても、歴史全体の流れを捉えることはできません。

ビジネスにおいても、なるべく長い時間の流れで見ることにより、
市場や業界全体の流れを理解することができます。

2017年02月10日(金) 
米入国制限・米移民政策・米トランプ政権 〜やりたい放題のトランプ大統領。もはや数ヶ月も持たないかもしれない
米入国制限 大統領令非難の共同声明
米移民政策 サンクチュアリ・シティーへの連邦交付金削減で提訴
米トランプ政権 スティーブ・バノン氏をNSC常任メンバーに
やりたい放題のトランプ大統領。もはや数ヶ月も持たないかもしれない

トランプ米大統領が難民受け入れ凍結やシリアなどイスラム圏7カ国からの入国禁止を決めた大統領令を巡り、ニューヨークなど15州と米首都ワシントン州の司法長官は先月29日、信仰の自由を侵害し「危険で憲法違反だ」と非難する共同声明を発表しました。
また、米ワシントン州連邦地裁は3日、この大統領令の一時差し止めを命じました。命令の適用範囲は全米に及ぶとしており、トランプ政権は反発しているとのことです。
各省庁や議会への根回しもないままに、無鉄砲に大統領令を乱発し、連邦地裁から大統領令の差し止めを命じられるなど前代未聞の事態です。
突然、7カ国からの入国を60日間禁止するというのは、制度も組織も無視した傍若無人な振る舞いです。
一体、どういう神経をしているのかと疑いたくなります。しかも米国という世界最強の組織において、こんなことをやるのはあり得ないことです。
今のところ、ワシントン州の連邦地裁が大統領令を差し止めしていますが、控訴したのでまだ解決には時間がかかると思います。
米国には、米国の労働者数1億3000万人に対し、外国人労働者数が2000万人います。この2000万人の中には、偶然海外にいたために今回の大統領令によって米国へ戻れなくなったという人がいます。
これに対して、企業側が一斉に反発を示しました。こんなことを何の事前の告知もなくやられたのでは、たまったものではないでしょう。
今回の大統領令によって、企業人の大半が「トランプ大統領にノー」という方向へ傾いたと思います。
この大統領令に反発をあまり示さなかったウーバーに対しては、「アプリを消そう」という動きがある一方、空港で足止めをされた人たちに無料で宿を提供したエアービーアンドビーは株を上げるなど、反響は大きいと感じます。
トランプ大統領は他にも、不法移民に寛容な「サンクチュアリ・シティー(聖域都市)」への連邦交付金の削減をめぐる大統領令にも署名しています。
これに対しては、こうした聖域都市の1つとして知られるサンフランシスコ市が先月31日、米国憲法修正第10条に違反するとして訴訟を起こしました。
サンフランシスコ市の弁護士は「大統領令は憲法違反であるだけでなく、非アメリカ的だ」と語りました。
さすがに予算に関係するものは議会を通す必要がありますが、大統領令でできることなら何でも手当たり次第にやっている印象です。
何の準備も根回しもなく、連邦交付金をストップするなど正気の沙汰ではないと思います。トランプ大統領が今のままのやり方を続けるなら、数ヶ月も持たないでしょう。
私は「4ヶ月持たない」と思っていましたが、これだけ色々な問題が噴出しているのを見ると、もっと早いタイミングで崩壊するかもしれません。
バノン氏とセッションズ氏という曲者の2人

トランプ米大統領は先月28日、国家安全保障会議(NSC)の構成を変更する大統領令に署名し、スティーブ・バノン首席戦略官を常任メンバーに加えたと発表しています。これも非常に驚くべきことです。
バノン氏の経歴を見るとそこそこ優秀な人物だと思いますが、「極右」「白人至上主義」「反ユダヤ」という非常に偏った部分を持っています。
このバノン氏が「編集長」としてシナリオを作っていて、トランプ大統領は最後にサインをしいているだけ、というのが実態だと思います。
一部では「プレジデント・バノン」と囁かれているほどで、トランプ大統領のサインパフォーマンスを見ていると、何にサインをしているのか理解しているのかさえ、疑わしく感じます。
バノン氏と同じくらい危険な印象を拭えないのが、トランプ大統領が司法長官に起用したジェフ・セッションズ氏です。
上院議員であり、おそらく共和党で考えられる限り最も「右派」の人物です。不法移民、同性愛の禁止や女性の妊娠中絶を認めないなど、やはり激しい思想の持ち主です。イスラム教徒の入国全面禁止を支持した人です。
ジャレッド・クシュナー氏という娘婿も大きな発言力を持っていますが、同様にあるいはそれ以上にバノン氏とセッションズ氏は存在感があります。
このような人物が内閣の中核にいるようでは、先が思いやられますし、惨憺たる状況だと言わざるを得ません。
現段階で決定している内閣の顔ぶれを見ると、お金持ちばかり集まっていて、「プアホワイトのため」というスローガンはどこにいったのか?と揶揄したい人もいるでしょう。
世界有数の大富豪として知られるウィルバー・ロス氏、元ゴールドマン・サックスのスティーブン・ムニューチン氏を始め、内閣の有力候補8人の総資産が約5000億円とのことです。平均で見ると500億円は下らないでしょう。
トランプ大統領就任2週間の私の印象を言えば、政治信念もよく理解できませんし、もはや政策と呼べる代物ではなく、無茶苦茶にやりたい放題にやっているだけです。
私の当初の見通しの4ヶ月どころか、トランプ政権はもっと早く崩壊する可能性も大いにあると感じます。
この記事は2月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの
内容を一部抜粋し本メールマガジン向けに編集しています

今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?

今週は、トランプ大統領の政策についてお届けしました。
トランプ大統領就任2週間の行いに対し、大前は、無茶苦茶にやりたい放題であると指摘しました。
どこに問題の本質があり、どのようにすれば解決に近づくことができるのか?
進むべき方向性は、本質的な分析に基づき考えていかなければなりません。
徹底的に考え、決断し、人を巻き込んでいくこと。このような資質がリーダーには求められます。

2017年02月03日(金) 
米通商政策・TPP・日米関係 〜TPP関連対策費2兆円は、選挙のためのバラマキに過ぎない
米通商政策 TPP「永久離脱」の大統領令に署名
TPP TPP対策に1594億円計上する
日米関係 2月10日に首脳会談で合意
トランプ大統領就任。歴史に残る「醜悪な」一週間だった

トランプ米大統領は先月23日、環太平洋経済連携協定(TPP)から「永久に離脱する」とした大統領令に署名しました。
また同日、米企業の幹部との会合で、日本は米国車の販売を難しくさせているとして公平ではないと批判。
これに対して日本政府は現在のTPP対策本部を改変し、対米協議やEUとの通商交渉全般を統括する省庁横断の組織を立ち上げる方向で調整に入りました。
トランプ大統領就任から一週間。この一週間は歴史に残る醜悪な一週間だったと私は感じています。
人の意見に全く耳を傾けないトランプ大統領のようなやり方は、絶対に長続きしないでしょう。
これまでの米国大統領は経営者を呼び、自分の意見をぶつけながら、経営者からも意見を聞いていました。
大統領によっては、その中の数人に半年でレポートにまとめてくれないかと依頼もしていました。
ところが今回のトランプ大統領のやり方は、経営者を呼びつけて一方的に自分の意見を言っているだけです。
選挙期間中に述べていたことについて、深く考えてもいないのに大統領令に署名して、その様子をアピールして写真に撮らせるなど、まるでテレビキャスターのような振る舞いです。とても米国大統領のそれではありません。
ロビイストに言われるがままに、真実の欠片もないことを主張するのも目に余るものがあります。
例えば、トランプ大統領のロビイストの一人がウィリアム・フォード氏。昨年日本から撤退したフォードですから、日本へ恨みを持っていることでしょう。
日本は為替操作をしているなど、言いがかりをつけていますが、ドイツ車など欧州車は売れているのですから、米国車が日本で売れないのは自分たちの責任です。
それに米国車は欧州でも売れていません。なぜ日本にだけ文句をつけるのか?と言うと、ロビイストの一人であるウィリアム・フォード氏がトランプ大統領に囁いているからでしょう。
さらに医薬品の値段が高すぎると言って、薬品会社に値下げさせるとトランプ大統領は発言していますが、これも全く事実は異なります。
米国の製薬業界の世界シェアは39%を誇ります。人口比率から考えても、かなり良い数字です。米国企業の強さを物語っています。
それなのに、トランプ大統領が値下げなどと言うので、当然のことながら株価は下がっています。果たして、これが「強い米国」につながるというのでしょうか?
また中国との貿易不均衡も批判していますが、これについても彼の指摘は全く的を射ていません。
貿易収支を見るとわかるように、米国はソフトウェアやファイナンス分野では黒字であり、全体の数字もそれほどひどいものではありません。トランプ大統領は製造業のことしか頭にないのでしょう。
中国との貿易不均衡の原因は米国側にあります。中国には数十年前のトヨタや本田といった日本企業のように、企業単体で米国へ輸出する力を持った企業は、ほとんどありません。
中国企業の力ではなく、ウォルマートやコストコなど米国の企業が自ら中国で買い付けを行っているのです。
あるいは、アップルのように中国で作ってそれを輸入しています。
米国側の企業が求めていることですから、トランプ大統領が言うように簡単にはこの問題は解決することはできないでしょう。
かつての貿易戦争からもわかる日米2国間協議のリスクの高さ

トランプ大統領がTPPからの撤退を決定したことにより、日米は「2国間協議」を行っていくという流れに傾いていますが、これは絶対に上手く行かないでしょう。
かつての日米貿易戦争のとき、まさに「2国間協議」が行われていました。
繊維、テレビ、鉄鋼、半導体などすべて業種別に2国間協議が行われましたが、日本は全敗でした。
日本側は役人が交渉担当になっていましたが、最後には「向こうもあれだけ言ってるんだから、少し大目に見てあげよう」などと妥協してしまう始末でした。
このままではとんでもない方向へ進んでいくことになると思います。
例えば日米貿易戦争の際、半導体交渉で日本は「外国のものを15%買う」という約束をさせられました。
米国には軍事用の半導体はあっても民間用のものがなく、米国だけでは半導体輸入15%の規定に達しないため、日本は無理やりサムスンやLGなど韓国のメーカーに半導体の作り方を教えて、韓国から輸入することで15%の辻褄合わせをしました。
このとき韓国メーカーに人馬一体で全て教えてしまったために、90年代日本が不況になったときに韓国の半導体メーカーに寝首をかかれることになりました。
これはとんでもないことだと思います。これをやったのが、当時の通産省の黒田審議官です。
日米貿易戦争、すなわち日米間で貿易交渉が行われていたのは約30年前。当時、私もソニーの盛田昭夫氏などと同席して米国の政治家や学者と議論をしていました。
当時の貿易戦争の語り部は、残念ながらほとんどの方が他界していて残っていません。
米国と議論して、米国民に「いかにトランプ大統領の主張がおかしいか」を説得できるような人物は見当たりません。
今の日本の役人が出てきても、半導体の交渉で負けた黒田審議官の二の舞いでしょう。ですから、2国間協議は日本にとって相当にハイリスクです。
あまつさえ、トランプ大統領という異常な人物を相手に2国間協議を行うなど、愚の骨頂だと私は思います。
TPP関連対策費2兆円は、選挙のためのバラマキに過ぎない

このような状況において、安倍政権はTPP交渉が大筋合意した2015年10月以降、すでに合計1兆1906億円もの対策費を使っていますが、来年度も「総合的なTPP関連政策大綱を実現するための予算」として1594億円を計上しています。
役人の言い分は、「政策として必要な経費」「TPP発効しなくても関係ない」とのことですが、全く理解できません。
結局、選挙目当ての「バラマキ」として約2兆円のお金を使う、ということです。TPPの状況が変わったのですから、その対策費は別の形で使うべきです。
国債の返還など日本には解決すべき重大な問題が他にたくさんあります。
IR法案にしろ、TPPにしろ、こういうことを平気でやる自民党は、一党独裁の恥知らずな政党になってしまったと思います。
日米両政府は、安倍首相とトランプ大統領による初の首脳会談を、2月10日を軸に米ワシントンで開催する方向で調整に入りました。
両者は事前に電話で話をしたとのことですが、安倍首相はTPPやFTAについて話題にしなかったそうです。
「話題にしなかった」というより、「話題にできなかった」というのが正解でしょう。
安倍首相がTPPを話題に出せば、トランプ大統領からは「米国はTPPを離脱する」と明言したはずと言われるのは、間違いありません。
そうなると、日本の予算も必要ないという話になってしまいますから、自民党としては都合が悪いのです。
本質的な問題解決に着手せず、国内には二枚舌を使いTPP関連対策費をごまかし、トランプ大統領の言いなりになって米国との2国間協議を行うとすれば、安倍政権は日本の将来にまた大きな影を落とすことになると思います。
そのような状況は絶対に避けてもらいたいところです。
この記事は1月29日にBBTchで放映された大前研一ライブの
内容を一部抜粋し本メールマガジン向けに編集しています

今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?

今週は、TPP関連対策費の話題についてお届けしました。
政府の本来の役割を考えたとき、使われない対策費を計上することや、米国に対してTPPの話題を出さないことは、本質的と言えるでしょうか。
本質的な問題の解決から目を背けていては、世界の状況が変わっていく中で、日本の将来が進展することはありません。
世の中の流れに流されず、常に批判的な思考を働かせて、物事の本質を見極める必要があります。

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