2018年06月29日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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英EU離脱/イタリア情勢/ギリシャ情勢/イスラエル情勢 〜ギリシャの財政再建の見通しと、イタリアの今後への不安

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英EU離脱 先行き再び不透明に
イタリア情勢 少数民族ロマの調査実施へ
ギリシャ情勢 8月にギリシャ金融支援終了
イスラエル情勢 ネタニヤフ首相の妻サラ夫人を在宅起訴

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▼英国EU離脱によって、United kingdomの崩壊の可能性
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日経新聞は20日、「英EU離脱、先行き再び不透明に」
と題する記事を掲載しました。19日に公表した
共同文書について、EUのバルニエ首席交渉官は
「アイルランド問題をめぐって深刻な相違が残っている」
と警鐘を鳴らしたと紹介。当初は6月の首脳会議で
アイルランドの国境問題を打開する想定でしたが、
英国側がメイ政権の求心力低下により具体策を
示せていないのが現状で、交渉が「白紙」に戻り、
2019年3月に無秩序な離脱に陥るリスクも
意識され始めているとのことです。

無秩序な離脱、すなわち、「合意しないまま離脱する」
という可能性が浮上しています。
アイルランド側の言い分としては、
共通旅行区域(Common Travel Area)は、
EUが発足する前から英国とアイルランドの間で取り交わした協定なので、
英国がEUを離脱しても不問にしてほしい、というものです。

しかしEU側には認める様子はなく、英国がEUを離脱するならば、
アイルランドとの間には国境線を引かなければだめだと主張しています。

実際問題としては、アイルランドから
北アイルランドへ働きに出ている人も多いですし、
北アイルランドとアイルランドの間は
配送トラックが1日の間に何度も往復しているというのが現状です。

このような現状を考えても、この問題はおそらく
最後まで尾を引くことになると思います。
もしEUが言うように、アイルランドと北アイルランドの間に
国境線を引かなければならないとすれば、
北アイルランドはEUに残りたいと主張するでしょう。
そして、その場合には北アイルランドはアイルランドと
一緒になりたいと言うかもしれません。

これは「United Kingdom」の崩壊を意味すると思います。
そうなると、北アイルランドに続いて、
ウェールズ、スコットランドも離脱し、
イングランドだけが残り、「England Alone」
になってしまう可能性も大いにあると私は見ています。


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▼ギリシャの財政再建の見通しと、イタリアの今後への不安
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欧州連合(EU)は21日、ギリシャの8年に及んだ金融支援を
8月に「終了」させる枠組みで合意しました。
過去の支援融資の償還期間を10年延長するなど
返済の負担を軽減。新たな金融支援なしでもギリシャが
財政再建を続けられるようにする内容となっています。

ギリシャのツィプラス首相にとっては、
非常に嬉しい状況になったと言えるでしょう。
「反EU」を掲げ「負債の支払いはしない」
と公言し首相になったものの、ドイツに厳しい指摘を受けて、
思うようにはいかない我慢の年月を過ごしてきたはずです。

支援融資の償還期間の10年延長に加え、1部の債権放棄によって、
ようやく支援なしでギリシャ再建の道筋が見えてきました。
赤いネクタイを締めて、初めてスーツ姿を現した
ツィプラス首相としては、嬉しかったことでしょう。

ギリシャの政府債務残高の推移を見ると、
対GDP比で約160%という高い水準にはありますが、
依然問題を抱えながらも、ギリシャが一応は危機を脱したというのは、
EUにとっても非常に重要なことだと思います。
一方で、次はイタリアではないか?と言われており、
一難去ってまた一難という予断を許さない状況でもあります。

そのイタリアですが、マッテオ・サルビーニ内相は18日、
イタリア国内に居住する少数民族ロマに対する調査を実施し、
イタリア国籍がなければ国外追放する考えを示しました。
サルビーニ氏は今月、地中海で救助されたアフリカ系移民
約630人を乗せた船の入港を拒否して避難を浴びましたが、
今回の発言にも抗議の声が上がっているとのことです。

サルビーニ氏は反移民を掲げる極右政党「同盟」の党首です。
出身地である北部ロンバルディア州は、
かつての「ロンバルディア同盟」でも有名ですが、
今のサルビーニ氏の考え方はロンバルディア同盟とも異なってきています。

サルビーニ氏が手を付けた問題は、非常に難しいものです。
少数民族ロマの人々は、もともとはインドから移住してきたといわれ、
中東欧に多いことで知られています。古くからイタリアに来ていて、
住所不定であったり、国籍を持っていない人が多いのも事実です。

この人達の問題に手をつけるとなると、イタリアは
収集がつかなくなる可能性が非常に高いと私は思います。
事実、彼らが生み出すごみ問題などもありますが、
歴代の政府はすべて目をつぶってきました。
同じEUのルーマニアとの関係性の悪化も懸念されます。

スペインが受け入れてくれたのでEUとしては面目が立ちましたが、
過日、イタリアはリビアからの難民を受け入れませんでした。
「反EU」「反移民・難民」を掲げて政権をとっただけに、
今のイタリア政府の今後はさらに心配になります。
イタリア問題が第2のギリシャ化してしまうのではないか、
と私は懸念しています。


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▼長期政権になると、どこの国も同じように腐敗している
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イスラエルの検察当局は21日、
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の妻、
サラ夫人を詐欺などの罪で在宅のまま起訴しました。
サラ夫人は、首相公邸に料理人がいないように装い、
高級レストランから食事のデリバリーを
繰り返し注文していたとのことです。

ネタニヤフ首相自身も収賄の容疑で起訴されています。
首相在任期間も9年を超えてきて、
夫人共々やりたい放題といったところでしょう。
ネタニヤフ首相はトランプ大統領とは仲がよく、
トランプ大統領は、イスラエルが言うとおりに
米国大使館をエルサレムに移転するほどです。
トランプファミリーからの支持は得ています。

しかし一方では、完全に国民からの支持は失ってきていて、
その1つの象徴が首相夫人のこのような事件でしょう。
日本を顧みても、どこの国においても長期政権になると
似たようなものだと思うと、残念であり、情けない限りです。


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※この記事は6月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、世界情勢の話題を中心にお届けいたしました。

「反EU」「反移民・難民」を掲げているイタリア政府。

ギリシャの財政再建の見通しが立ってきている中で、
イタリア問題が第2のギリシャ化してしまうのではないか、
と懸念されています。

また、ロマの問題に手をつけるとなると
収集がつかなくなる可能性が非常に高いと、
大前は指摘していますが、正しく現状を認識しなければ、
企業であろうと国であろうと迷走してしまいます。

まずは、現状を見誤らないこと。
そして、目指す状態を決め、それに向かって
どの実現経路をたどるかが重要です。

2018年06月22日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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米朝首脳会談 〜雪解けしたあと、北朝鮮と日本の問題はどのような展開が予想できるか?

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米朝首脳会談 非核化合意の共同声明に署名

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▼米朝首脳会談は、トランプ大統領演出のテレビショー
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トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長は12日、
史上初となる米朝首脳会談を行いました。
対談後、両首脳は新たな米朝関係を確立するとともに、
朝鮮半島の平和体制構築及び完全非核化へ向けた努力を
約束することを盛り込んだ共同宣言に署名しました。

今回の会談・声明についての海外の主要メディアの反応を見ると、
以下のようになっています。

ニューヨークタイムズ:声明の内容があいまい
ウォール・ストリート・ジャーナル:中身がない
ワシントン・ポスト:具体性のない声明
USAトゥデイ:韓国に不意打ちを食らわせた
ファイナンシャル・タイムズ:勝者は金正恩委員長
エコノミスト:トランプはショーマンシップを発揮

私の率直な印象を言えば、エコノミストの感覚に非常に近く、
トランプ大統領は「テレビショー」と同じように、
今回の会談を演出したということです。

メディアからは共同声明の内容に具体性がないなどと批判されても、
トランプ大統領としては気にしていないでしょう。
「金正恩委員長が出てきて、サインをした」という
今までになかったことを「演出」できたのですから成功だ、
という認識だと思います。一般の人の感覚からも、
もちろん外交筋の感覚からも大きくズレています。

ただ一方で、これまでの外交筋のやり方も成功していたわけではなく、
全て失敗してきました。その点から言えば、
金正恩委員長を引っ張り出して、どんな形にせよ
共同声明にサインをさせるところまで実現したと言えます。
また、この状況になると、金正恩委員長もこれから下手な行動に出れば、
さすがに米国が黙っていないだろう、という脅威を感じていると思います。
その意味において、金正恩委員長が今後は
従来と異なる反応を示す可能性もあるでしょう。

共同声明の内容を見ると、「新しい関係性」
「安定した平和体制の構築」「韓国と北朝鮮の板門店宣言の再確認」
「朝鮮半島の完全な非核化」などが示されています。
朝鮮半島の完全な非核化は、韓国も含めることになるので
北朝鮮の意向を取り入れた形になります。

安倍首相によると、金正恩委員長が拉致被害者についても
言及していたとのことですが、この共同宣言を見る限りは、
それは読み取れません。あくまでも、
自分たちの戦争捕虜や遺体回収に取り組むというだけの話です。
安倍首相は、トランプ大統領に日本の拉致被害者について
一言言ってほしいと依頼していたようですが、
私に言わせれば、他人に頼むことではなく、自分でやるべきことです。

これまで北朝鮮は、何度も非核化合意を反故にしてきました。
91年韓国、94年米国、さらには6カ国協議での合意も
反故にしてきました。しかし今回の共同声明を反故にすると、
さすがに米国から大きなしっぺ返しが来ると
金正恩委員長も理解しているでしょう。これまでと同じように、
非核化を反故にして核開発を進めることはないと思います。
「成功」と呼べるかは疑問ですが、
ある意味では抑止力にはなると言えます。

核開発への抑止力は期待できたとしても、
核兵器以外の化学兵器、生物兵器、
弾道ミサイルなどについてはわかりません。
今回の共同声明がどこまでを対象にしているのか、
まだ不明だからです。核兵器を使わなくても、
他の兵器を組み合わせることで核兵器と同じような被害を
及ぼすことは十分に可能ですし、日本としては警戒すべきです。
トランプ大統領の発言にもありましたが、
今回の会談は「第1歩」「入口」に過ぎません。
第2弾、第3弾の日程も決まっているそうですが、
現時点では「誰がどうやって具体的に詰めていくのか」
何も見えていません。


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▼雪解けしたあと、北朝鮮と日本の問題はどのような展開が予想できるか?
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今後の北朝鮮と日本との関係性の中で予想できるのは、
北朝鮮の経済復興のために日本が資金と技術を
提供する形になる可能性が高いということです。
おそらく、安倍首相からの拉致被害者についての依頼への見返りとして、
トランプ大統領から要求されるのではないかと私は見ています。
北朝鮮からすれば、日本に対しては
「戦前、戦中の賠償がおわっていない」と思っていますから、
渡りに船といったところでしょう。

かつて韓国が日本からの賠償金などを活用して、
「漢江の奇跡」という経済復興を成し遂げたのを見ていますから、
北朝鮮は自分たちも同じように復興に使うお金を欲しています。
本来、戦争に関する賠償は日本と韓国間で完了していますから、
北朝鮮もそこに含まれるはずですが、全くその認識はないようです。
北朝鮮が日本に賠償金として要求している金額は、
6兆円という莫大な額になります。

拉致問題について、北朝鮮側は「解決済み」という姿勢をとって、
一向に具体的なことを発表しないままになっています。
おそらく、すでに存命ではない人や、
墓もなく生死が定かではない人もいて、
満足できる説明ができない、というのが本音でしょう。
また、存命であれば日本に帰した後に
何を言われるのかわからないので公表したくない、
という意図もあると思います。いずれにせよ、
1年以内に解決すると言っておきながら、
急に「日本の態度が悪いから」と難癖をつけてくる国ですから、
この問題を日本が望むような形で解決することは、
かなり難しいと思います。


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※この記事は6月17日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、米朝首脳会談の話題を中心にお届けいたしました。

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長が、
史上初となる米朝首脳会談を行い、
朝鮮半島の平和体制構築及び完全非核化へ向けた努力を
約束することを盛り込んだ共同宣言に署名しました。

しかし、今回の会談は「第1歩」「入口」に過ぎず、
第2弾、第3弾の日程も決まっているものの、
現時点では、何も見えていない状況となっています。

この米朝首脳会談をうけ、大前は記事中で、
今後の北朝鮮と日本との関係性の中で予想できるのは、
北朝鮮の経済復興のために日本が資金と技術を
提供する形になる可能性が高いと指摘をしています。

北朝鮮の今後のシナリオについては、
様々なシナリオが考えられますが、
あらゆるシナリオをあらかじめ想定しておくことで、
「想定外」の出来事を減らすことが可能となります。

「もしも」の事態に真剣に取り組み対策を講じることで、
想定外の出来事に慌てることは少なくなります。

2018年06月15日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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欧州情報規制/中国情勢/中国・紫光集団/日立製作所 〜フェイスブックの個人情報問題は、「注意」しても解決しない

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欧州情報規制 個人データの相互移転で合意
中国情勢 「天網」が覆う中国の超監視社会
中国・紫光集団 紅い半導体、自立の夢
日立製作所 原発建設計画継続で合意

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▼フェイスブックの個人情報問題は、「注意」しても解決しない
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日本と欧州連合(EU)は先月31日、
現地で得た個人データの移転を相互に認めることで実質合意しました。
EUは5月に施行した一般データ保護規則(GDPR)で、
域外へのデータ持ち出しを厳しく規制しています。
日本側が、企業が新たに守るべき指針を7月初旬までに定めることで、
今秋にもデータを円滑に移転する枠組みを作る方針です。

GDPRにおいて、日本はEU域外への
データ持ち出し可能な国として認定されていないので、
今回新たに日本との間のルールを制定する運びになりました。
この枠組みが円滑に運営されればされるほど、
フェイスブックが起こした個人情報流出の問題の大きさが
改めて浮き彫りになってくる気がします。
フェイスブックの問題の厄介なところは、
例えばクレジットカードのデータなどを購入してきて、
それをフェイスブックのデータと重ね合わせることで、
活用しやすくなり価値も上がるということです。

欧州の場合には、業を煮やしてGDPRを施行し、
フェイスブックなどにも罰金を課せるようにしました。
非常に高いペナルティなので、しばらくの間は
GDPRが抑止力として働くことになると思います。
しかし、フェイスブックのようなデータを持っているところは
他にもありますし、そのデータを広告に活用すると
多くの広告費が取れるので簡単にはなくならないでしょう。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、
「厳重に注意します」と述べていますが、
フェイスブックそのものを会社として潰さない限りは、
芋づる式にこの問題は続いていくと思います。


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日経新聞は1日、『「天網」が覆う中国の超監視社会』
と題する記事を掲載しました。
中国政府が運用する監視システム「天網」により
過去2年間に2000人以上の逃亡犯が逮捕されています。
中国に1億7000万台ある監視カメラのうち、
2000万台がこのシステムの下にあるほか、
核となる顔認証技術により14億人の全国民を
1秒もかからずに照合できるとしています。

2000人の逃亡犯を逮捕できたというのは、
恐ろしいほどの超監視社会になっています。
犯罪の抑止につながるのは間違いありませんが、
逆に言うとこの監視システムを使って
政府に都合が悪い人間を追いかけるということもできてしまいます。
さらにSNSなどのデータと照合して組み合わせれば、
政治思想や宗教など、より深い個人情報として
認識することも簡単でしょう。

政府が恣意的に利用するという可能性を考えると、
中国はスマホ決済で便利だと喜んでいる場合ではないかもしれません。
日本の場合には警察が保有しているデータが指紋データなので、
中国のように顔認証システムによる監視はできません。
ある意味、技術が先行しているがゆえの課題です。

こうした監視システムが社会秩序を守るのに有効なことは間違いありません。
しかし、一体「誰の秩序」を守るために利用されるのか。
ここが恣意的になってくると大きな問題になってしまうでしょう。


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▼国策として大きくしたい紫光集団
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日経新聞は1日、『紅い半導体、自立の夢』
と題する記事を掲載しました。中国の国策半導体メーカー、
紫光集団の新たな工場が年内に稼働する見通しです。
総額3兆円を投じ湖北省武漢市で建設を進めているものです。
今後10年で1000億ドル(約11兆円)を投資する方針で、
供給過剰を懸念する世界の半導体関係者が
固唾をのんで見守っているとしています。

中国企業の課題の1つは、米国企業の半導体を使っているケースが多く、
そこに依存している状況があることです。
それゆえ、ZTEのように米国企業とのつながりを断たれると、
ひっくり返ってしまいます。

中国市場の中心になる半導体メーカーは米国メーカーであり、
中国の半導体メーカーはメインではありません。
中国が国を挙げて紫光集団を大きくしていきたいと考えるのも頷けます。
10年間で約11兆円の投資というのは、通常の企業では到底できません。
国策として投資していく方針だからこそ、可能な額でしょう。
この方針が実現していくとすれば、長期的に見ると、
サムスンを筆頭に大手半導体メーカーにも
大きく影響してくる可能性があると思います。


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▼日立の英国における原発受注は非常に貴重
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英国のクラーク・ビジネス・エネルギー・産業戦略相は4日、
日立製作所が英国で進める原子力発電所の建設計画を
継続することで日立側と合意したと発表しました。
クラーク氏は「英国が低炭素経済へと移行するなかで
原子力は重要なエネルギーだ」と述べるとともに、
日立の新たな事業が地元経済に
多くの雇用を生み出すとも指摘しました。

日立としても、背に腹は代えられないという決断だと思います。
原子力発電所の開発を行う場合、
どこまでリスクを抑えられるかというのが非常に重要です。
あまり大きなリスクを背負ってしまうと、
かつての米国における東芝の二の舞になってしまいます。
三菱重工は仏アレバに出資しましたが、
アレバは半分倒産しているような瀕死状態でしたから、
リスクを抑えられたとはとても言えないでしょう。

日立が建設する予定の2基の原子炉は、世界でもめずらしいことに、
先進国で原子炉建設が国民投票で承認されたものです。
これまでにも英国では中国系の企業が原子炉の建設を進めてきました。
しかし、国として補助しなかったために
建設コストが跳ね上がってしまいました。
これは結果として電気料金に影響するため、
その不満が国民から政府に寄せられる可能性があります。

日立は、このような背景を理解した上で、
電気料金を抑えるための建設コストについて、
英国のメイ首相にも説明したそうです。
クラーク氏も、元BCG出身の人なのでビジネスに明るく、
そのような話が通じやすかったという側面もあるでしょう。
今回の2基の原子炉建設については、
これまでの日本企業が見せたことがないような
周到な交渉が行われたと思います。
リスクについてもある程度は抑えられたと言えるでしょう。
ただし、最終的に電力をいくらで買い取ってもらえるのか、
という電力会社との交渉はまだ残っています。

各国の建設中・計画中の原発基数を見ると、
中国、ロシア、インドが非常に多くなっているのが分かります。
日本は計画中のものは多くありますが、
建設中のものを含めて今後進んでいく見通しはありません。
計画中の原発基数が多いトルコの案件も、
このままなら中国やロシアに持っていかれるでしょう。
その意味でも、英国の2基の原発を日立が抑えられたのは
貴重なことだと思います。


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※この記事は6月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、欧州情報規制やフェイスブックの話題を
中心にお届けいたしました。

日本と欧州連合(EU)は、現地で得た個人データの移転を
相互に認めることで実質合意しました。
日本側が、企業が新たに守るべき指針を7月初旬までに定めることで、
今秋にもデータを円滑に移転する枠組みを作る方針です。

GDPRの施行により、グローバルに事業を展開する企業をはじめ、
EU域内の個人データを扱う可能性がある場合は、
社内ルールの見直しや管理体制の強化など、
影響は大きいものになるとみられています。

このように、自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)が、
現在または将来にどのような影響を与えるかを
把握・予測することは、事業を成功に導くために不可欠です。

今回の欧州情報規制のように、政治・法律的環境要因は
企業では制御できない前提条件となってきます。

新たな法律が施行された場合は、
市場や自社に対してどのような影響が与えられるかを
事前にシミュレーションしておくことが重要です。

2018年06月08日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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働き方改革/外国人労働者 〜高度プロフェッショナル制度より、労働生産性の改善の方がよほど重要な問題

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働き方改革 働き方改革関連法案が可決
外国人労働者 新たな受け入れ策の原案まとめ

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▼高度プロフェッショナル制度より、労働生産性の改善の方がよほど重要な問題
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安倍政権が今国会の目玉法案と位置づける
働き方改革関連法案が先月31日、衆院本会議で採決されました。
これは、残業規制、同一労働同一賃金、
脱時間給制度が3本柱となっているもので、
4日にも参院で審議入りし、今国会で成立する見通しです。

今国会の目玉という割には、働き方改革関連法案の中身を見ると、
全く大したことがありません。高度プロフェッショナル制度も
私に言わせれば、余計なお世話です。
野党側はこの制度が隠れ蓑になって、
また企業がブラック化するのではないかと指摘していますが、
これも余計なお世話だと感じます。

もし従業員が不当に働かされていると感じたなら、
労働基準監督署に申し出ればいいのです。
それを受けて労働基準監督署が、
従業員の名前などを伏せて会社に対して
匿名で警告することができれば良いでしょう。
現状では、従業員がそのような動きを取れば、
会社における身分を脅かされる可能性があります。
この制度を変えるほうがよほど現実的で重要なことだと思います。

また、裁量労働制が適用されている働き方について、
企画型業務の対象拡大が見送りになったとのことですが、
そもそも「企画型業務」を行政や政治が理解できるとはとても思えません。
重要なポイントは、今後はロボットやAIに置き換えられるような
労働集約型業務が減り、企画型業務が増えていかなくてはならないということです。
どこか論点が間違っているように感じます。

働き方について、最も大きな問題の1つだと私が感じているのは、
フルタイムとパートタイムの賃金水準の違いです。
日本では賃金水準は「フルタイム:パートタイム=2:1」となっていて、
非常に差が大きくなっています。
フランスの場合には「100:90」でほとんど差がありません。

このように賃金水準の格差が大きいために、
日本ではパートタイムをたくさん採用し、
その待遇を低く抑えることに注力されています。
逆に言うと、フルタイムに対する保護が厚すぎると言えるでしょう。
ゆえに、この問題を解決するためには、パートタイムの待遇の改善と同時に、
フルタイムの雇用の保証を撤廃するような手を打つべきでしょう。

また、日本にとってさらに深刻な労働問題になっているのが、
一人当たりの労働生産性が非常に低いということです。
OECDの中でも最下層で、アイルランド、ルクセンブルグ、
米国、ノルウェー、スイスといった上位には遠く及ばず、
20位にも入れず、あのギリシャを下回る水準になっています。

かつて日本はブルーカラー業務の機械化や自動化には見事に成功しました。
しかし一方で、間接業務の自動化やコンピューター化には
大きく出遅れています。いまだに、属人的で標準化されていない業務が多く、
大きなネックになっています。この20年間で、
世界的には間接業務のコンピューター化や自動化が大きく進みましたが、
日本ではそれがなされていません。給料も生産性も上がらず、
いつの間にか日本は労働後進国になってしまったのです。

今国会で議論されている高度プロフェッショナル制度などよりも、
こうした問題の改善の方が極めて重要だと私は思います。



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▼50万人の外国人労働者受け入れでは、付け焼き刃に過ぎず、何も解決しない
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政府が検討している新たな外国人労働者受け入れ策の原案が
先月29日、明らかになりました。
建設・農業などの5分野を対象に日本語と技能試験に合格すれば、
単純労働分野でも最長5年の就労を認めるもので、
人手不足に直面する5分野で2025年ごろまでに
50万人超の就業を想定するとのことです。

2025年までに外国人労働者を50万人受け入れると言っても、
全く足りません。日本の労働人口は「毎年」30〜40万人ずつ減っているからです。
これまでは認められていなかった単純労働分野の外国人労働者を
2025年までに50万人にしようという話ですが、
私の計算では日本という国は外国人労働者が
1000万規模で入ってこなければ成り立たなくなります。

仮に2030年までに1000万人としても、
毎年100万人規模で外国人労働者の受け入れが必要となります。
私はもう何年も前から、「そのための制度を作れ」と主張しています。
そんな特別な制度を作らなくても、単純作業であれば
日本語と少し技能があればなんとかなるというのは、
そもそも問題を認識していないのでしょう。

最近では、中国、ベトナム、ネパール、さらに南米からは
ブラジルやペルーからの外国人労働者が増えているとのことです。
こうした国際的な多様化は今後も進むでしょう。
それに対応できるような制度が必要なのです。

例えば、計画的に2年間の無償教育を施します。
そこでは、単に日本語を教えるだけではなく、
日本人とはなにか、日本人として、
日本の社会に生きる社会人としてどうあるべきか、
ということを教えます。これは日本人に対する成人教育を
明確にするということにもつながります。

そして、きちんと教育を受けて合格をしたら、
グリーンカードを発行します。永住してもらってもいいし、
もちろん正式に就職してもらってもいいでしょう。
現行の技能実習制度のように、せっかく教育をしたのに、
5年間で制限する意味は全くありません。

少子高齢化社会の日本としては、
こうした取り組みは非常に重要になると思います。
日本のターゲットとして、ドイツを参考にすると良いでしょう。
ドイツでは人口の15%程度の外国人労働者を受け入れています。
そう考えても、日本では1000万人規模の外国人労働者を
受け入れる必要があると思います。こうした準備もせずに、
「とりあえず50万人」などと言っているのは、
付け焼き刃に過ぎず、問題の本質を全く理解していないと言えます。


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※この記事は6月3日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、働き方改革の話題を中心にお届けいたしました。

安倍政権が今国会の目玉法案と位置づける
働き方改革関連法案が、衆院本会議で採決されました。

これに対して大前は、働き方改革関連法案の中身を見ると、
今国会で議論されている高度プロフェッショナル制度などよりも、
労働生産性の改善の方がよほど重要な問題と指摘しています。

問題解決を行うにあたっては、課題を定義し、
課題の構造化をした上で、実現可能性と効果のインパクトから
検討の優先順位づけを行う必要があります。

取り組みの効果が最もあがるように、
取り組み資源をどこに配分するか決め、そのために何を優先するか、
また、何に時間を使ってはいけないかを決めた上で、
解決策を立案していくことが重要です。

2018年06月01日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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中朝関係/米中貿易/米通商政策 〜北朝鮮の安い労働力を狙い、やや先走っている中国

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中朝関係 遼寧省丹東で住宅価格上昇
米中貿易 中国製品への追加関税を保留
米通商政策 自動車関税の引き上げ検討

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▼北朝鮮の安い労働力を狙い、やや先走っている中国
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NHKニュースウェブは先月20日、
北朝鮮と国境を接する中国東北部の遼寧省丹東で、
新築住宅の販売価格が上昇していることがわかったと報じました。
中朝が関係を強化し経済協力が進めば、
中朝貿易の拠点である丹東が活性化するとの期待が膨らんでいるものです。
4月の上昇率は中国の主要70都市で最も高くなっているとのことです。

中国と北朝鮮の長い国境の両端の重要性が増しつつあります。
豆満江の端でロシアに接するデルタ地帯は、
ロシアが虎視眈々と狙っています。
日本との関係を含め、平和条約が締結されて、
まともな付き合いができることになれば、
重要度が増してくる地域です。

一方、遼寧省丹東は中国側から見て北朝鮮の入り口に最も近い場所です。
すでに住宅だけでなく会社の事務所なども埋まってきていると聞きます。
中国としては、橋を渡って通勤してもらえれば、
北朝鮮の安い人件費を使いたい放題だと考えているのかもしれません。
こうした動きは、中国のIT企業などにも広がっており、
私としては若干先走っている状況だと思います。


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▼中国との貿易戦争をすっかり忘れ、さらに暴走するトランプ大統領
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ムニューシン米財務長官は先月21日、米中両政府が17、18日の貿易協議で
「追加関税の発動を保留することで合意した」と発表しました。
米国が抱える対中貿易赤字の削減に、
中国が取り組んでいる間は中国製品に高関税を課すことを棚上げするもので、
農作物など中国への輸出を増やす具体案を詰めるため、
6月にはロス米商務長官が中国を訪問するとのことです。

トランプ大統領の記憶力の無さには、驚くばかりです。
あれほど「中国と貿易戦争だ」と叫んでいたのに、
「今回は追加関税をしない」と言い出しました。
全く以て私には理解できません。

同時に、中国ZTEへの制裁緩和も決定したようです。
米国は4月に、米企業がZTEと取引をすることを
7年間禁止すると発表していました。
米国からの部品提供がなければ成り立たないため、
ZTEは5月には主力事業を停止したことを公表。
このままでは倒産するしかない状況で、
中国政府にとっても非常に大きな悩みの種になっていました。

これに対する解決策としてトランプ大統領が
提示したのは、1400億円の罰金の支払いでした。
このような無茶苦茶な「ディール」は、私も見たことがありません。
トランプ大統領のやりようには呆れるばかりですが、
中国政府もZTEも条件をのみました。
ZTEが倒産して大きな問題に発展するよりはマシということでしょう。

ムニューシン米財務長官もロス商務長官も、
強い態度でトランプ大統領を諌めるわけでもありません。
二人とも十分すぎるほど資産も持っていますし、
一線を退いた老後のような意識なのかもしれません。


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▼日本の自動車メーカーの米国への貢献を誰も主張できない日本の情けなさ
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側近たちも歯止めにならないトランプ大統領の暴走は、
さらに日本にも飛び火してきそうです。
トランプ米政権が安全保障を理由に自動車の関税引き上げを
検討していると複数の米メディアが報じました。
現在2.5%を課す乗用車の関税を最大25%に上げる案を
視野に入れているということで、これが実行されれば、
自動車輸出で成長してきた日本に大きな打撃となりそうです。

基本的にトランプ大統領は、
自動車業界の現状について全く理解していません。
例えば中国市場について言えば、
確かに一番売れているのはフォルクス・ワーゲンです。
しかし、2番目に売れているのはGMです。
フォードはそれほど売れていませんが、
それでもトップ10には入っています。
中国市場において、米国の自動車メーカーが
もてはやされているのは間違いありません。

一方、日本に対しては「安全保障上の理由」で
自動車に課される関税を引き上げる可能性があるとのこと。
ミサイルなどの兵器でもない自動車が、
なぜ「国家の安全保障上=ナショナル・セキュリティ」
の理由になるのか、もはや意味不明です。

そもそも米国において、GMもフォードも自動車メーカーは
すでに国家戦略の中枢ではありません。
このことすらトランプ大統領は認識できていないのでしょう。
米国で販売される新車メーカーの内訳を見ると、
米ビッグ3で44.5%、日経メーカーで39.1%となっていて、
ほぼ同じ水準になっています。

この30年間、日本の自動車メーカーは
米国にいじめられながらも生産拠点を米国に移してきました。
今、日本の自動車メーカーは米国内で400万台生産しています。
エンジンの生産台数は470万台です。さらに、工場は24箇所あり、
研究開発・デザイン拠点は43箇所にのぼります。

労働者数を見ても、直接工場で働いている人数が9万人。
ディーラーなどを含めた数では150万人に達します。
そして米国への累計投資額は456億ドルで
5兆円を超える規模になっています。

これだけ米国内での生産や雇用に貢献しているのに、
それでも不満というのでしょうか。
米国で販売される日本メーカーの車の75%は米国製で、
日本製の輸入車は25%に過ぎません。
おまけに、米国製の日本車は41万台輸出されています。
この中には日本に逆輸入されるものもありますが、
それを差し引いても米国の貿易に貢献していると言えます。

先ほども述べましたが、日本の自動車メーカーは
米国のビッグ3とほぼ同額まで米国内で自動車を生産しています。
この30年間で米国内の生産を伸ばしてきたのは日本勢です。
米ビッグ3ではありません。

日本の自動車メーカーは、日本国内での生産を犠牲にして
米国での生産を伸ばしてきました。その一方で、
先日フォードは「マスタング」「フォーカスアクティブ」
の2車種を除いた乗用車の北米販売を今後数年間で
取りやめることを明らかにしています。
私に言わせれば、トランプ大統領はこの情けない
自国の自動車メーカーの尻を叩くべきです。

この一例を見ても分かる通り、問題は
「ナショナル・セキュリティ」ではありません。
この様な事実を認識できていないトランプ大統領には呆れますが、
日本の経産省あるいは安倍首相が、トランプ大統領に対して
とことん説明する必要があります。

30年間、日本の自動車メーカーは米国にいじめられながらも、
対米進出を成し遂げてた事実を徹底的に周知することが重要です。


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※この記事は5月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、世界情勢の話題を中心にお届けいたしました。

北朝鮮に最も近い中国の町、丹東市では、
最近の南北首脳会談や北朝鮮の非核化をめぐる動きから、
新築住宅の販売価格が上昇しています。

こうした動きは、すでに住宅だけでなく
会社の事務所なども埋まってきているとされている一方、
若干先走っている状況だと大前は指摘しています。

自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)が、
現在または将来にどのような影響を与えるかを
把握・予測することは、事業を成功に導くために不可欠です。

政治・法律的環境要因は
企業では制御できない前提条件となってきます。

新たな政治的な動きや法律が施行された場合は、
市場や自社に対してどのような影響が与えられるかを
事前にシミュレーションしておくことが重要です。

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