2018年09月28日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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福山通運/キャッシュレス決済/NTT/中国EV大手/韓国・現代自動車〜NTTグループの見直しをするべき時期が来た

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福山通運 日曜の集荷・配達を中止
キャッシュレス決済 QR決済さらに多様化
NTT グループ一体で資材調達へ
中国EV大手 中国新興EV、生存競争激しく
韓国・現代自動車 鄭義宣氏が総括主席副会長へ

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▼日曜の配達中止は英断
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日経新聞が21日報じたところによると、福山通運は10月から順次、
日曜日の企業向け荷物の配達を取りやめるとのことです。
総務省も郵便物の配達を平日のみとする検討に入るなど、
働き方改革の動きが広がってきているとしています。

福山通運の配達も郵便局の配達も、
土日を取りやめるというのは良い判断だと思います。
引受郵便は今でも年間数億通ありますが、
その中には年賀状や暑中見舞いなども含まれています。

私の実感としては、郵便で配達されるものの中に
「受け取ることが絶対に必要」というものがほとんどありません。
以前は電力使用の明細などを郵便で受け取る必要がありましたが、
今はそうではありません。こうした実態を考えても、
土日の配達をやめるというのは英断だと思います。


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▼キャッシュレスでATM不要は当然の流れ
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日経新聞は22日、「QR決済さらに多様化」と題する記事を掲載しました。
スマホを使ったキャッシュレス決済について
特徴ある機能を打ち出す新規参入組が増えています。
これらはポイント還元率よりも入出金方法などで特徴を打ち出していて、
対応店舗が増えれば利用者の選択肢はさらに増えていくとのことです。

みずほFGの坂井社長は、インタビューで
「ATMは公衆電話のように消えていく」と答えたそうですが、
まさにその通りです。ただし私に言わせれば、
「銀行も消えていく」と付け加えたくなりますが。

ATMの設置台数は横ばい状態です。キャッシュレス化が進めば、
当然のことながらATMは不要になります。
現状はセブンイレブンが積極的にATM設置を進めた結果、
他の銀行は自社のATMではなく、ほとんどが
セブンイレブンのATMを利用する形になっています。

最近になってローソン銀行が開業しましたが、
「20年遅い」と思います。ATMの機械は高額ですし、
散々セブンイレブンが活用してしまっています。
端末によっては今から設置しても
しばらく使えるものはあると思いますが、
それほど寿命は長くないでしょう。
なぜ、20年前にやらなかったのか?
ローソンの親会社である三菱商事の時代感覚が、
それだけ遅れているということだと私は思います。


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▼NTTグループの見直しをするべき時期が来た
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NTTは12日、パソコンやサーバーなどの資材を
グループ一体で調達するための専門会社を
米国に設立すると正式発表しました。
NTTは1999年の再編時の政府方針で、
持ち株会社とNTT東日本、NTT西日本が
資材を共同調達することはできないことになっていますが、
次世代通信方式「5G」を巡る競争が本格化するなか、
グループ会社の調達をまとめてコストを削減する見通しです。

かつてNTTを分割した頃とは時代背景も違います。
当時は、米国に「資材調達を海外に公開しろ」と指摘を受けたり、
分割後に共同購買ができてしまうと「競争力が強すぎる」
と禁止されましたが、今は状況が異なります。
専門会社を米国に置くことで米国側からも文句は出ないでしょうし、
今回のスキームは1つの抜け穴となると思います。

NTTの売上と利益を見ると、相変わらずNTTドコモが稼ぎ頭で、
光ファイバー、フレッツ光なども利益を上げています。
全体的には悪くない業績ですが、世界に目を向けると、
アマゾンやAT&Tなどの売上高はNTTを凌駕しています。

米国も、かつては分割がありましたが、
今ではベライゾンとAT&Tに集約されるようになりました。
日本でもそろそろNTTについて見直す時期だと思います。
もちろん、KDDIやソフトバンクからの反対は予想されますし
一筋縄ではいかないでしょうが、NTTをまとめることで
コスト削減を図れるようにすることは重要だと思います。
行政が主導権を握って推し進めて欲しいところです。


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▼中国EVメーカーも数社に絞られるのは必然
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日経新聞は13日、「中国新興EV 生存競争厳しく」
と題する記事を掲載しました。中国の新興EVメーカーで
最も高い企業価値を誇る威馬汽車の沈暉CEOのインタビューを掲載。
沈暉氏は「中国の約60社に上るEVメーカーのうち、生き残るのは3社」
と指摘するとともに品質と価格の両立を追求した結果、
今月発売する同社初のEV車は価格や航続距離を
ガソリン車並みの水準で実現したと紹介しています。

米国でも多くの自動車メーカーがありましたが、
今は3社に落ち着きましたし、日本の二輪車業界でも
かつて250社以上もあったメーカーが、今は4社に集約されています。
そして国内競争で生き抜いた数社が世界に打って出て成功しています。

中国のEVメーカーでも同じようなことが起こるのは必然でしょう。
60社のうち国内競争に勝ち抜くのが3〜4社。
その数社が世界化していくというフェーズに入っていく、
ということです。

これは、例えばパソコン業界にしても、
多くの産業が同じ道を辿っていることで
特に驚くことではありません。


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▼韓国は経営者の引き継ぎが遅い
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韓国の現代自動車は14日、創業家出身の鄭義宣副会長が
現代自グループナンバー2の総括首席副会長に就任したと発表しました。
鄭義宣氏は、グループを率いる鄭夢九会長の長男で、
韓国メディアが会長の健康悪化観測を報じる中、
鄭義宣氏が次期総帥の最有力候補だと明確に示す人事となりました。

もともと鄭義宣氏が後継者と言われていたので、
特に驚くことではありませんが、
特徴的なのは今回のニュースを契機として、
鄭夢九会長の体調不良について報じられていることです。

韓国の場合には、後継者に早い段階で引き継ぐ
ということがほとんどありません。
例えば、サムソン電子の李健熙会長は心筋梗塞で倒れ、
健康状態を心配する声は絶えませんが、
未だに正式に引き継いでいません。
最も不幸な例は、ロッテでしょう。

こうした韓国企業の通例があるため、
今回の場合には早い段階でナンバー2に指名したことで、
かえって鄭夢九会長の健康問題を
懸念されることになったのでしょう。


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※この記事は9月23日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

NTTは、パソコンやサーバーなどの資材を
グループ一体で調達する専門会社を
米国に設立すると正式発表しました。

大前はNTTに対して記事中で、まとめることで
コスト削減を図れるようにすることは重要であり、
行政が主導権を握って推し進めて欲しいと言及しています。

NTTは、次世代通信方式「5G」を巡る競争の本格化など
取り巻く環境や市場、競争環境が大きく変化しています。

このような状況の中、新たな顧客価値を創造し
グループ成長を構築していくために重要なことは、
制約条件に制約されないことです。

自分で変えられるもの(変数)と制約条件の2つに分けて考え、
与えられた環境の中で、自分が動かせる変数を目一杯使って
最大の利益を目指すことが大切です。

2018年09月21日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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日ロ関係/米中ロ関係〜プーチン大統領といち早く平和条約を締結することが、安倍首相の唯一最大の貢献

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日ロ関係 一切の前提条件設けず日ロ平和条約締結を提案
米中ロ関係 プーチン氏、打算の中国接近

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▼北方4島について、日本政府はずっと国民を騙している
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ロシアのプーチン大統領は12日、安倍首相に対して、
一切の前提条件を設けずに2018年末までに
日ロ平和条約を締結するよう提案しました。
これは安倍首相が平和条約や領土問題の解決について
「アプローチを変えなければならない」と述べたのに対し、
プーチン大統領が賛同したもので、
まず平和条約を締結した上で
友人同士として意見の隔たりがある問題について
解決していこうというものです。

このプーチン大統領の提案について、日本のマスコミは
「なぜ安倍首相は反論しないのか?」と指摘していますが、
安倍首相としては「真実」を理解しているだけに
歯がゆい思いをしていることでしょう。
河野外相は日本とロシアの北方領土に関する真実について、
どこまで理解しているのかわかりませんが、
安倍首相はプーチン大統領との20回を超える
ミーティングなどを通して理解しているはずです。

日本の方針は
「北方4島の返還を前提にして平和条約を締結すること」
であり、これは以前からずっと変わらないもの。
菅官房長官などもこの趣旨の発言をしていますが、
そもそもこの認識が間違いであり、
日本政府がずっと隠してきている「嘘」なのです。

ロシア側の認識は
「北方4島は第二次大戦の結果、ソ連に与えられたもの」であり、
日本は敗戦国としてその条件を受け入れたわけだから、
固有の領土かどうかは関係がない、というもの。
ラブロフ外相もプーチン大統領も、
このような見解を示しています。
そして、このロシア側の主張が「真実」です。

終戦時にソ連と米国の間で交わされた
電報のやり取りが残っています。
ソ連のスターリンが北海道の北半分を
求めたのに対して、米国側は反発。
代わりに北方4島などをソ連が領有することを認めました。

この詳細は拙著「ロシア・ショック」の中でも紹介していますが、
長谷川毅氏の「暗闘」という本に書かれています。
米国の図書館などにある精密な情報を研究した本で、
先ほどの電報などをもとに当時の真実を
見事に浮かび上がらせています。

すなわち、北海道の分割を嫌い、
北方4島をソ連に渡したのは米国なのです。
今でもロシア(ソ連)を悪者のように糾弾する人もいますが、
犯人は米国ですからロシアを非難すること自体がお門違いです。

さらに言えば、日本が「北方4島の返還を前提」
に固執するようになったのも、米国に原因があります。
1956年鳩山内閣の頃、重光外相がダレス国務長官と会合した際、
日本はソ連に対して「2島の返還を前提」
に友好条約を締結したいと告げました。
しかし、ダレス国務長官がこれを受け入れず、
「(ソ連に対して)4島の返還」を求めない限り、
沖縄を返還しないと条件を突きつけました。

つまり、米国は沖縄の返還を条件にしつつ、
日本とソ連を仲違いさせようとしたのでしょう。
この1956年以降、日本では「北方4島の返還」が前提になり、
それなくしてロシア(ソ連)との平和条約の締結はない、
という考え方が一般的になりました。
1956年までの戦後10年間においては「4島の返還」
を絶対条件とする論調ではありませんでしたが、
この時を境にして一気に変わりました。


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▼プーチン大統領といち早く平和条約を締結することが、安倍首相の唯一最大の貢献
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今回のプーチン大統領の提案に対して、
マスコミも識者も随分と叩いているようですが、
1956年以降日本の外務省を中心に
政府がずっと国民に嘘をついてきた結果、
真実を理解せずに批判している人がほとんどでしょう。
プーチン大統領の提案は理にかなっています。
日本政府の「嘘」を前提にするのではなく、
とにかくまず平和条約を締結することから
始めようということです。

プーチン大統領の提案通り、まず平和条約を締結すれば、
おそらく「2島の返還」はすぐに実現すると思います。
残りの2島については、折り合いがつくときに返還してもらう、
というくらいで考えればいいでしょう。
相手がプーチン大統領であれば、
このように事を運ぶことはできるでしょうが、
別の人間になったら「1島」も返還されない可能性も大いにあります。

今、安倍首相は「とぼけた」態度を貫いています。
真実を理解しながらも、周りにはそれを知らず
理解していない人も多いでしょうし、
長い間日本を支配してきた自民党が国民に嘘をついていた
という事実をどう説明するか、
など悩ましい状況にあるのだと思います。

安倍首相に期待したいのは、
ロシアに対して経済協力などを続けながら、
とにかくいち早くロシアとの平和条約を締結して欲しい、
ということです。今回の自民党総裁選に勝利した場合、
それが実現できれば、安倍首相にとって唯一にして
最大の貢献になると私は思います。

北方4島の全てが返還されなくても、
それによってどれほどマスコミから叩かれても、
安倍首相とプーチン大統領の間で、
平和条約の締結を実現すべきです。
菅官房長官などは知ったかぶりをして、
4島返還について日本政府の方針に変わりはない
などと発言していますが、全く気にする必要はありません。
プーチン大統領の次を誰が担うのかわかりませんが、
仮にメドベージェフ氏が大統領になれば、
2島返還ですら絶対に容認しないでしょう。
プーチン大統領が在任中にまず平和条約を締結することは、
極めて重要だと私は思います。

というのも、中国がロシアに接近しつつあるので、
ロシアにとって日本の必要性が低下し、
このままだと日本にとってさらに厳しい状況になるからです。
今回の東方経済フォーラムを見ていても、
プーチン大統領と中国は明らかに接近したと私は感じました。

中国は巨大な人口を抱える東北三省の経済状況がよろしくありません。
その対策として、極東ロシアへの投資に向けて動いています。
中国とロシアの国境を流れる黒竜江(アムール川)をまたいで、
現在両国を結ぶ橋を建設しています。
中国側とロシア側でそれぞれ資金を出し合っていて、
橋の建設には中国の技術が活用されています。

中国とロシア間の動きが活発化し、
中国から極東ロシアへの投資が拡大すると、
その貢献度はかなり大きなものになります。
今回、安倍首相とプーチン大統領で見学に行った
と言われているマツダのエンジン工場のレベルではないでしょう。
また中国とロシアは、同じく米国にいじめられている立場として、
ボストーク2018で巨大な軍事演習を予定しています。

日本も目を覚まさないと、全て中国に持っていかれてしまいます。
少なくともプーチン大統領は内心では親日派なので、
今のうちに早く動くべきです。最後にもう1度述べておきます。
安倍首相には、自民党総裁選に勝利したら、
どんな批判を受けても悪役になろうとも、
何が何でもロシアとの平和条約の締結を
実現させて欲しい、と思います。


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※この記事は9月16日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、日ロ関係の話題を中心にお届けいたしました。

安倍首相に対して、一切の前提条件を設けずに
2018年末までに日ロ平和条約を締結するよう
提案したロシアのプーチン大統領。

これに対して大前は、
どんな批判を受けても悪役になろうとも、
何が何でもロシアとの平和条約の締結を
実現させて欲しい、と言及しています。

交渉はビジネスを行う上で、
避けては通れない永遠のテーマであり、
交渉は双方の問題解決を目指した対話です。

「勝ち負け」として捉えられがちな交渉ですが、
駆け引きによって勝ち負けを決定するコンテストではなく、
当事者双方が意思決定者になり、
双方に納得感のある交渉こそがよい交渉です。

論理的な思考と明瞭な表現を行い、
相手の主張や考え方を知るための積極的な傾聴や
事前準備を十分に行うことによって、
交渉力を高めることができます。

2018年09月14日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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信越化学工業/日本電産/米エアビーアンドビー/クックパッド〜信越化学工業の金川氏、日本電産の永守氏。日本を代表する経営者の手腕

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信越化学工業 シリコーン5割増産へ
日本電産 「永守流」分権型シフト
米エアビーアンドビー 別府市旅館ホテル組合と提携
クックパッド ウミーベを買収

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▼信越化学工業の金川氏、日本電産の永守氏。日本を代表する経営者の手腕
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信越化学工業は3日、車の樹脂部品や化粧品などに
幅広く使うシリコーンの生産を増強するため、
日本、米国、タイなどの工場設備に
1100億円を投じると発表しました。
シリコーンは増産していた中国勢が
環境規制で工場の操業を停止したほか、
米国が中国に追加で制裁関税を課したことで
価格が上昇するなど需給がひっ迫しています。
信越化学はこれらに対応するため、
世界の拠点から供給できる体制を
整える考えとのことです。

信越化学工業といえば、金川千尋氏が90歳を超えて
代表取締役会長を務めています。
最高齢の経営者の一人であり、
今回の対応然り、今なお鋭い経営判断力を
持っていると思います。
信越化学工業の業績を見ると、
塩ビ・化成品、半導体シリコン、電子・機能材料、シリコーンなど
いずれの部門でも利益が出ていて、
また全てが前年を上回っています。
特に、塩ビ・化成品、半導体シリコンの
2つの部門の伸びは素晴らしい状況です。

米トランプ大統領が騒ぐために、米国でシェールガスを使った
塩ビ新工場を設立するなど、柔軟に対応しています。
塩ビ事業は、良い時と悪い時が非常にはっきりしていて
難しい局面もあるはずですが、見事に乗り切っています。
限界サプライヤーであれば憂き目を見る一方で、
トップサプライヤーとして安定しています。

90歳を超えても、周囲から金川氏に対する辞任要求などの話は
聞いたことがありません。
米トランプ大統領への対応なども含め、
不連続リスクを抱えない経営手腕は見事だと感じます。


日経新聞は4日、『「永守流」 分権型シフト』と
題する記事を掲載しました。
日本電産はドイツの産業ロボット部品メーカー、
MSグレスナーを買収すると発表しました。
今回は子会社の日本電産シンポが
買収を主導するとのことで、
世代交代や事業規模の拡大をにらみ、
「永守流」経営を伝授しながら
権限を委譲する新たな段階に入ったとしています。

永守氏と言えば、これまでに60社を超える企業を買収し、
その全てを黒字化させたという驚くべき実績を持っています。
一般的に、M&Aの成功率は10〜15%程度ですから、
60社全てが黒字化というのは世界でも例を見ません。
さらに、全てを1年以内に黒字化させているのですから驚異的です。

日本電産の売上高を見ると、
主力事業の精密小型モータなどは伸び悩んでいます。
ゆえに、車載・家電などその他あらゆる事業を
付け加えていかないと、
永守氏が目指す成長は達成できないでしょう。
1兆円を達成し、次は2兆円を目指すということですから、
M&Aしか実現の道はありません。
今回のグレスナー買収も、その一貫です。

日産自動車から日本電産へうつり、
2社の企業再生に携わった川勝宣昭氏の話を聞く機会がありました。
川勝氏曰く、日産が10年単位で考えるようなことを
日本電産ではその何分の1で
実行するように求められる、とのことでした。
買収した会社に、「一人で行って立て直してこい」
「しかも1年以内に黒字化」と言われるのです。

川勝氏が言うには、永守氏は相当細かいところまで
要点を詰め指示を出すそうです。
私もそこまで細かい点について指示をしていたとは、
初めて知って驚きました。
日産では10年かかっていたかもしれない企業の立て直しも、
永守氏のプレッシャーのもとで「永守流」でやってみたら
2社とも1年で黒字化できたということでした。

今回買収を発表したグレスナーの傘下には6社が入っています。
1社ずつ別の人間に担当させるのかも知れませんが、
今まで以上にハードルが高く、
新しいチャレンジになると思います。
これまで通り、見事に成功をおさめるのか楽しみです。

「永守流」が素晴らしい成果をあげている一方で、
永守氏が居なくなった後、
同じように細かい視点を持って指示できる人はいるかどうか。
これは非常に難しいところだと思います。



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▼エアビーアンドビーが、一時的に民泊法を回避する手段に出た
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米エアビーアンドビーは先月27日、
別府市旅館ホテル組合連合会と提携したと発表しました。
別府市は2019年に開催される
ラグビーワールドカップの公認キャンプ地となっており、
宿泊施設のエアビーアンドビー登録で
海外からの集客の拡大につなげたいとのことです。

日本では民泊法が施行されてから、
エアビーアンドビーへの登録は激減していました。
一方で、エアビーアンドビーのシステムは
よく出来ていますし、海外からの旅行者は変わらず
エアビーアンドビーを利用したいと思っている人が多いのです。

そうであれば、伝統的なホテルや旅館も
エアビーアンドビーを経由して、
一般旅行客を取り込んだ方が早い、ということになります。
旅行会社と提携しても、さほど集客効果がないことも多いですから、
エアビーアンドビー経由のほうが確実です。
別府市旅館ホテル組合連合会には
111軒の旅館やホテルが加盟しているそうですから、
結果がどのようになるのか、
私としても非常に興味があります。

エアビーアンドビーとしては、日本において
一時的に民泊法を掻い潜るための方法だと思います。
私に言わせれば、民泊法自体が理不尽なもので、
いずれは民泊を認可するようにならなければ
3000万人を超える外国人観光客を受け入れる体制は整いません。
以前、訪日外国人観光客数が3000万人を超えたときには、
エアビーアンドビーで600万人を吸収しました。
日本としては、普通に民泊ができるように
前向きに進んでいくべきです。



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▼クックパッドと連携し、釣り情報サイトの圧倒的ナンバーワンの地位を目指す
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クックパッドは先月24日、
釣り情報サイト「ツリホウ」などを運営する
ウミーベを買収したと発表しました。
ウミーベは渡部一紀CEOが2014年に創業。
月間200万回以上閲覧されるサイトをわずか4日で作り上げました。
クックパッドは渡部氏の手腕を評価し、
今回の買収に至ったとのことです。

クックパッドは主に主婦や独身の人が、
閲覧・引用する回数が多いメディアサイトです。
このメディアから釣り情報サイトに
アクセスを流すこともできるでしょう。
釣り情報サイトは、まだ圧倒的なメディアサイトが
誕生していないので、クックパッドと連携させることで
一気に地位を確立することを狙えます。

逆に釣った魚などをどのように料理するのかという視点で、
クックパッドを強化することもできるので、
いろいろな形でシナジーを発揮できる可能性があります。

2018年09月07日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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トヨタ自動車/米ウーバー・テクノロジーズ/米テスラ〜EVでトヨタのサプライチェーンが大きく変わる

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トヨタ自動車 自動運転の制御技術外販へ
米ウーバー・テクノロジーズ ウーバーに約550億円出資
米テスラ 株式非公開化計画を撤退

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▼EVでトヨタのサプライチェーンが大きく変わる
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トヨタ自動車は先月24日、電装品、駆動部品、
ステアリング、ブレーキなどそれぞれを主軸とする
グループ4社が年内にも新会社を設立し、
トヨタの研究所で開発したAIやソフトウェアなどを
市販車に搭載させる役割を担うとのことで、
グループで制御システムの一貫体制を整え
世界の大手メーカーなどに供給する考えです。

トヨタグループ4社とのことですが、
新会社への出資比率を見ると、
デンソー:65%、アイシン精機:25%、
アドヴィックス:5%、ジェイテクト:5%となっています。
実質的にはデンソーを中心とした
EV対応のための新会社と見て良いでしょう。

EVになると、必要とされる部品や技術がガラリと変わります。
燃料噴射装置、エアクリーナー、
オイルフィルターなどの「エンジン部品」。
スターターモーター、オルタネーターなどの「電装部品」。
そして、フロントアクスル、リアアクスル、
プロペラシャフトなどの「駆動系部品」は
EVになると全て不要になります。
一方で、電極液、セパレーターなどの「リチウムイオン電池」や
モーター、インバーターなどの
「機電一体電動パワートレイン」などが必要になります。

必要とされる部品や技術が変わるため、
業界全体も大きく変わらざるを得ません。
これまではトヨタを頂点とする内燃機関を中心の
サプライチェーンが機能していましたが、
新しいサプライチェーンを再構築する必要があります。
そのための母体となる組織を作るのが、
今回の新会社設立の一番大きな目的でしょう。

中国の自動車メーカーのように、
過去に構築したピラミッド組織(サプライチェーン)が
存在しないほうが、今存在するものを
捨て去る必要がありませんから、
このEV化の波に対応しやすいはずです。
トヨタはこれまでのものを捨て去って、
命がけでも新体制の構築を
成し遂げなければならない状況になっています。



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▼顧客とのつながりを持てていないメーカーの弱さ
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トヨタ自動車は先月28日、米ウーバー・テクノロジーズに
5億ドル(約550億円)を出資すると発表しました。
トヨタは2016年にもウーバーに出資し、
すでにライドシェア事業で協業していますが、
今回の提携で自動運転車の開発にも踏み込み、
米グーグル系のウェイモに対抗する考えです。

おそらく今後、トヨタが自動運転の車を開発したら、
それもウーバーに提供していくことになると思います。
なぜ巨大な自動車メーカーが、
ライドシェアを展開する企業や配車アプリの提供会社に、
まるで「媚びる」かのような姿勢を見せているのでしょうか。

一言で言えば、自動車メーカーが
「顧客とつながっていない」からです。
例えば、私はトヨタ車も日産車も数台保有していますが、
おそらくトヨタも日産も私が保有している車を
詳細に把握していないでしょう。
ところが、ライドシェアを展開している企業は、
私のスマホに入っているアプリから取得する情報で、
私が利用したデータを詳細におさえています。

自動車業界は次世代へ移り変わろうとしている状況ですが、
巨大な自動車メーカー各社が
顧客とのつながりを持てていないというのは、
企業にとっては致命的です。
顧客と直接つながっている企業に全てを支配されてしまい、
どの車を使っても変わらないとなったら、
自動車メーカーにとっては命取りです。

実は同じようなことが家電メーカーにも当てはまります。
家電メーカーも顧客とのつながりを持てていません。
私が持っているテレビなどの家電を
各メーカーが把握しているとは思えません。

要するに、これまでのメーカーは
「作って終わり」だったのです。
しかしこれからの世の中では、
最終的にアプリで呼び出してもらえる側として
顧客との接点を持てていないと生き残れません。
ゆえに、ウーバー、滴滴出行などに
自動車メーカーは何としてでも資本を入れて
食い込んでおきたいと思っているのでしょう。



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▼イーロン・マスクは天才だが、企業人・経営者としての適性はない
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米電気自動車メーカーのテスラは先月24日、
株式非公開化の計画を撤回し上場を維持すると発表しました。
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、
多くの株主が非公開化を望まなかったとともに、
非公開化には当初の想定よりも時間がかかることが
判明したため、と説明しています。
しかし情報開示の手法や内容を巡っては
一部の投資家が訴訟を起こしており、
計画撤回後もテスラの経営に影響を及ぼす可能性があります。

イーロン・マスク氏は「天才」ではありますが、
同時に非常に「性格に問題がある」人物だと思います。
テスラほどの時価総額を持つ企業の創業者が、
今回のように突如として株式非公開化などと発表すれば、
その影響力は相当大きいのは言うまでもありません。
株式市場にとってはいい迷惑としか言えないでしょう。

イーロン・マスク氏が企業人として、
経営者としての適性に問題があると感じるのは、
今回のことだけに留まりません。
日本企業との関係性だけを見ても、
以前にはトヨタと仲違いをしています。
さらにはパナソニックと提携しアリゾナに
巨大なバッテリー工場を作らせておきながら、
中国のメーカーに乗り換えるような素振りを見せています。
今まさにパナソニックは翻弄されています。

今回の株式非公開化の騒動においても、
途中経過においてサウジアラビアの
政府系ファンドとの接触を匂わせてみるなど、
イーロン・マスク氏には、従来の経営者であれば
許されない行為が目立ちます。
非常に感情的な人物で、企業経営者として
「適性」に問題があり、テスラという企業にとっての
キーマンリスクにもなっていると思います。

テスラに振り回されているパナソニックですが、
オートモーティブ関連の売上は大きく、
利益でも1000億円に迫るほど稼ぎ、非常に順調です。
オートモーティブに次いで家電関連も
利益で1000億円を超え、環境関係、モバイル機器
その他の領域でも収益を上げていて、
全体としてバランスが取れた収益構造になっています。

現在順調なパナソニックにとって、
テスラに手の平を返されるのは非常に厄介でしょう。
売上・利益ともに大きいオートモーティブが
ぐらついてしまう可能性があるからです。
テスラとパナソニックの関係性が
今後どのような展開を見せるのか、
今後も注意深く見ていく必要があると思います。


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※この記事は9月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、自動車業界の話題をお届けいたしました。

トヨタ自動車は、グループ4社が年内にも
EV対応のための新会社を設立し、
グループで制御システムの一貫体制を整え
世界の大手メーカーなどに供給する考えを発表しました。

自動車業界では、急速にEV化のトレンドが形成されています。

しかし、EV化対策に成功し、上手にシフト出来た場合にも、
日本が世界に誇る部品産業が大打撃を受ける
という課題が日本にはあります。

そのため、大前も記事中で指摘しているように、
電気自動車になると使用する部品の数も大きく減り、
コストや組み立て工数は激減する中で、
これまでのサプライチェーンの機能を捨て去り、
新しいサプライチェーンを再構築する必要があります。

このような不確実な世の中で成功を収めるには、
状況の変化に応じて競合よりも早く行動を起こすことが重要です。

そのために必要なことは、不確実要因の展開によって
可能性のある将来に応じた一連のシナリオを用意し、
それぞれのシナリオにおける脅威や機会を議論しておくことです。

そうすることで、環境変化の予兆を早く感じることができ、
いざその時が来た際に迅速に行動に移すことができます。

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