2014年03月25日(火)09:22
|
┌────今日の注目の人──────┐
「褒める人間は敵と思え」
桂歌丸(落語家)
※『致知』2014年4月号 特集「少年老い易く学成り難し」より
└─────────────────┘
──これまで数多くのお弟子さんを育ててこられたと思いますが、 指導するにあたって心掛けていることはありますか。
これは今輔師匠から言われた言葉なんですが、
「褒める人間は敵と思え。 教えてくれる人、注意してくれる人は味方と思え」
という教えは大切にしています。
普通、人間っていうのは褒められれば嬉しいですよね。 怒られたら「畜生」と思いますよね。 それは逆だって言うんですよ。
若いうちに褒められると、そこで成長は止まっちゃう。 木に例えれば、出てきた木の芽をパチンと摘んじゃうことになる。
で、教えてくれる人、注意してくれる人、叱ってくれる人は、 足元へ水をやり、肥料をやり、大木にし、 花を咲かせ、実を結ばせようとしてくれている人間だって。
これは噺家になってすぐ言われたんです。
私の高座を聞いた人が今輔師匠に
「彼は子供だけど噺がしっかりしてる」
って言ったそうなんです。
それを受けて、私に注意してくれたんでしょうね。 いまから褒められていたんじゃ、えらいことになるって。
──含蓄に富んだお話ですね。
それと、
「噺を教わった人よりもうけて 初めてその人への恩返しになる」
っていうのが私の持論なんです。
教わった人よりうけなかったら 恩返しにも何にもなりません。
私は若い時から師匠や先輩の前でも 「なぁに、負けるもんか!」ってやりましたよ。
だから、私よりうけなきゃダメだって 弟子には言うんです。
私のところにもずいぶん後輩たちが 「教えてください」って来ます。
で、教えますよ。 「ああしろ、こうしろ」「ここが違う」とね。
そういうふうに噺を教えることはできるんです。 ただ、間を教えることはできない。
私たちの商売は、早く自分の間をこしらえた人間が勝ちです。 いつまで経っても間のできない噺家がいる。
もっと極端に言うと、生涯間のできない噺家がいる。 間抜けって言葉があるじゃないですか。 それと同じですよ。
だから、自分の間を拵えた人間が勝ち。 それは自分で研究し、掴むしかないんです。
──人から教わるのではなく自分で掴むしかないのですね。
それから、私が大切にしている言葉に
「芸は人なり」
というのがあります。
薄情な人間には薄情な芸、 嫌らしい人間には嫌らしい芸しかできないんです。
だから、なるたけ清楚な、正直な人間に ならなきゃダメだって。 それが芸に出てくる。
──常日頃、自分を磨いていないとよい芸も生まれないと。
これは噺家ばかりじゃないですよ。 ビジネスマンの方でもそうだと思うんです。
だからこういう言葉があるじゃないですか。
「品物を売るんじゃなくて自分を売れ」。
それと同じですよ。
* * *
3歳で父親と死別、母親とも離別し、 祖母に育てられた幼少時代。
小学4年で落語家になる決意をし、 中学卒業を前に落語の世界へ。
その後、長かった苦労の修業時代を経て、 いかにして落語家として大成していったのか。 | | |