2018年11月02日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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日中関係/対中ODA〜新たな時代の3原則よりも、対中ODA終了が持つ重要性

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日中関係 7年ぶりに中国を公式訪問
対中ODA 日本のODA積極報道を指導

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▼新たな時代の3原則よりも、対中ODA終了が持つ重要性
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安倍首相は先月25日、日本の総理大臣として
7年ぶりに中国を公式訪問しました。
総理はまず李克強首相と対談し、東南アジアなど
第三国でのインフラ整備を通じた日中協力を強化し、
関係の改善を進める考えで一致。
また習近平国家主席とは約1時間20分会談し、
新たな時代の日中関係について
「競争から協調へ」などの3原則を確認しました。

最近中国における日本企業の活動も
円滑になってきたとも聞きます。
合わせて今回の安倍首相への「歓待」を見ると、
中国の日本に対する態度が全体的に軟化しているのでは?
と感じる人も多いでしょうが、
これが今後も続くのかどうかはわかりません。

中国はその時々・状況に応じて、政府がどのような態度で
受け入れるかという方針を決めて、
全員が忖度するという形を取ります。
もしかすると、何かまた日中間で問題が起これば
中国企業の態度も一変し、中国国民が日本企業に
投石するようなこともあり得ると私は思います。
とは言え、現時点で言えば
今回の安倍首相の訪中には意味がありました。

第三国でのインフラ開発協力に対する認識においては、
中国側の「日本が一帯一路構想に協力してくれる」
というものに対して、日本はそれだけは同意できない
と考えています。中国との間ですから、
こうした多少のズレは出てきますが、
それでも今回様々な取り決めができたことは評価して良いでしょう。

その中で安倍首相は新たな時代の3原則
(「競争から協調へ」
「お互いパートナーとして脅威にならない」
「自由で公正な貿易体制の発展」)を強調していましたが、
私がさらに重要だと感じたのは
「対中ODAの終了」というテーマです。

今回の首脳会談において、中国に対する
政府開発援助(ODA)を日中両政府は
2018年度の新規案件を最後に終了することになりました。
円借款供与額が上位の国を見ると、
トップにはインド、2位にインドネシア。
かつてトップだった中国は現在3位になっています。
さすがにこれだけ経済発展を遂げた中国に、
これ以上ODAを継続するのはおかしい
ということで「終了」することが決定しました。



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▼中国ODAの裏にあった歴史的な因縁と自民党内の利権問題
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日本によるODAの終了を受けて、
中国政府は共産党・政府系メディアに対し、
中国の経済発展に対する日本の政府開発援助(ODA)の貢献を
積極的に報じるよう指導したことがわかりました。

これは歴史的なことで、これまで中国は日本のODAに対して
感謝を示したことは一度もありません。
例えば、ベトナムであればODAで橋が完成すれば、
必ず「日本のODAで作られた橋」だと報道し、
日本からも誰かお祝いに駆けつけます。
しかし中国の場合には、「日本のODA」という発表はなく、
まるで中国共産党が作ったもののように報道してきました。

このような中国側の態度には理由があります。
中国は日本のODAを戦争に対する
「償い」として受け止めてきたため、
「当然」の権利だと認識してきたから、
日本に対する感謝を示そうとはしなかったのです。

田中角栄氏が日中関係を正常化する交渉を進める中で、
中国側から戦争に対する償いを求められました。
本来この要望そのものがおかしいものです。
というのは、中国共産党は戦争時の当事者ではなく、
当事者であった蒋介石は日本の償いは
不要という意見だったからです。

それを承知の上で、当時の田中角栄氏と周恩来氏などが
一計を案じて、ODAという形で中国を支援することで、
中国側の要望に対応することにしました。
中国からすれば、償いのために資金援助をするのは
当然だと思っていますから感謝するわけがありません。
また、このODAは自民党・田中派の利権としても活用され、
ODAが行われると、自民党・田中派に資金が流れるような
仕掛けがあったとも言われています。
このような事実を多くの日本人は知らないと思います。

こうした歴史的な因縁や自民党内の
利権に絡むドロドロしたものなど、
国民には表立って知らされない事実があり、
それがずっと継続されてきていました。
今回のODA終了によって、このようなものに
終止符が打たれるのは非常に良いことですし、
非常に意味があることだと私は感じています。



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※この記事は10月28日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、対中関係の話題を中心にお届けいたしました。

日本の総理大臣として7年ぶりに
中国を公式訪問した安倍首相。

安倍首相は新たな時代の日中関係について
「競争から協調へ」などの3原則を強調していましたが、
それ以上に「対中ODAの終了」というテーマの重要性に
ついて大前は記事中で言及しています。

交渉はビジネスを行う上で、
避けては通れない永遠のテーマであり、
交渉は双方の問題解決を目指した対話です。

「勝ち負け」として捉えられがちな交渉ですが、
駆け引きによって勝ち負けを決定するコンテストではなく、
当事者双方が意思決定者になり、
双方に納得感のある交渉こそがよい交渉です。

また、論理的な思考と明瞭な表現を行い、
相手の主張や考え方を知るための積極的な傾聴や
歴史的知識を知るなど事前準備を十分に行うことによって、
交渉力を高めることができます。

2018年10月26日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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世界経済/英中央銀行/欧州環境規制/ナウル情勢〜英国ブレクジットから派生する金融問題は、世界的な金融危機につながる可能性も

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世界経済 世界の企業、家計の債務総額
英中央銀行 デリバティブ元本6000兆円に不安定化リスク
欧州環境規制 乗用車のCO2排出規制を協議
ナウル情勢 "盛者必衰"ナウルの転落

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▼英国ブレクジットから派生する金融問題は、世界的な金融危機につながる可能性も
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国際通貨基金(IMF)が公表した世界金融安定報告によると、
政府や金融機関を除く民間企業、家計が抱える
全世界の債務総額が167兆ドル(約1京9000兆円)となり、
リーマン・ショックが起きた10年前と比べ
5割近く増えたことが分かりました。危機に対応するため
日米欧の中央銀行が大規模な緩和策を実施したことで、
経済成長を上回るペースで債務が拡大したとのことです。

金融経済が実体経済よりも5割ほど
大きくなっているということは、
ブラックマンデーが起こった時と極めて似ている状況です。
世界中が金融拡大をしてしまった結果、
不安定な状況が生まれたのです。
今年になってから米国は2回ほど大きな株価の下落があり、
他の国も同様に下落しましたが、
まだまだ「下げ足りない」ということでしょう。

この問題も重要ではありますが、
短期的にはさらに世界経済を揺さぶるリスクが大きいのが、
英国のEU離脱(ブレクジット)に絡む経済問題です。

英中央銀行のイングランド銀行はブレクジットが
条件合意なしの「無秩序離脱」となった場合、
最大で41兆ポンド(約6000兆円)のデリバティブが
不安定な状態に置かれると警告しました。
これらは2019年3月末のEU離脱後に満期を迎えるものの、
EUの法体系から切り離された場合、
既存の契約がどう扱われるか定まっていないためで、
イングランド銀行は混乱を回避するため
国内の銀行に離脱後の数日間、
6時間ごとにバランスシートの状況を
チェックするよう求めたとのことです。

問題なのは、デリバティブ取引の中央清算機関として、
ロンドン証券取引所のLCHクリアネットが
そのほとんどを取り扱っていることです。
英国が合意なしの離脱をした場合、欧州の金融機関は
LCHクリアネットを利用することができなくなってしまいます。

欧州の中には、デリバティブの清算拠点など
金融センター機能を英国から奪う思惑を
抱いている国もあるようですが、
一朝一夕にはいかないでしょう。
今は完全にLCHクリアネットに依存しています。
この機能を他の国に移すと言っても、
経験と信用も非常に重要であり、
6000兆円ものクリアリング機能を一気に移すことは、
極めて難しいと私は感じます。

さらにもう1つ、英国の保険会社の問題も重要です。
EU市民向けに提供している保険契約の扱いが
どうなるのかも不透明な状態です。

このような状況を見れば見るほど、
もう1度英国でEU離脱について国民投票をしたほうがいいのでは?
と思います。前回の投票時には、
今回のような恐ろしい話は表に出ておらず、
国民は理解していなかったはずです。

先日も英国内ではEU離脱に反対する
大規模なデモが行われていました。
英国メイ首相は迷走状態に陥っています。
欧州のトップが集合する場に居合わせても、
「合意」を得るのではなく、「同情」を買うばかりです。

英国の金融問題は極めて重要です。
ここから世界的な金融危機が
トリガーされる可能性も十分に考えられます。
かなり神経質に注意しておく必要があると私は見ています。



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▼欧州のCO2規制、2030年までの目標が間もなく決まる
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欧州連合(EU)は9日、加盟28カ国の環境相理事会を開き、
域内で販売する乗用車の二酸化炭素(CO2)排出量を
2030年までに21年目標に比べて35%削減する環境規制案で合意しました。
今後、欧州委員会と欧州議会と3者で法制化への交渉に入り、
年内にも合意したい考えです。

自動車メーカーが多いドイツなどは、
30%程度に抑えてほしいという要望を出していて、
一方で北方の国は40%程度まで引き上げたい思惑があり、
間を取って35%での合意に至ったのでしょう。
35%削減では足らないという人もいますが、
とりあえずは28カ国が合意しないと始まりません。
あと数ヶ月のうちに、2030年までの目標が決定されることになります。

この欧州の動きに対して米国政府は「知ったことか」
という態度ですが、米国は州別に規制をしていて、
カリフォルニア州など複数の州では
EUよりもはるかに厳しい制限を設けています。
トランプ大統領は、州に勝手に規制を作られるのは困る
などと発言して牽制していますが、
カリフォルニア州などがこの件に関して
トランプ大統領に屈することはないだろうと思います。



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▼ナウルに残された希望の道は、台湾にあり
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共同通信は10日、「採り尽くし、経済破綻 “盛者必衰”ナウルの転落」
と題する記事を掲載しました。南太平洋に浮かぶ
世界で最も小さい島国ナウルの現状を紹介しています。
かつては貴重な農業肥料となるリン鉱石を採掘し輸出することで
莫大な富を得て中東の産油国と比べられるほどの財政力を誇ったものの、
現在はリン鉱石をほぼ取り尽くし経済も破綻しているとのことですが、
この記事内容はやや浅い部分があると私は思います。

ナウルは大西洋、ミクロネシアの南に位置する島国。
ナウル島はサンゴ礁の上に海鳥の糞が積み重なってできた島で、
糞の化石にリンが含まれていたため、
莫大なリン鉱石の採掘が可能になっていましたが、
20世紀になり英・豪・ニュージーランドが搾取し、
また独立後もリン鉱石の輸出に過度に依存したため、
リン鉱石は事実上枯渇し、経済は破綻状態に陥っています。

そんなナウルの将来について私が提案したいのは
台湾による買収です。ナウルは独立国として
国連に加盟しています。台湾はずっと前から国連の席を
欲してきましたが、いまだに実現していません。

一昔前なら、国連に加盟したいならパラオを買収すればいいと
私は台湾に提言していましたが、人口2万人のパラオよりも
人口1.4万人のナウルのほうが「お買い得」です。
またパラオは中国になびく可能性も見せていますが、
ナウルにはそのような動きも見られません。
パラオと違って観光業もなく、打つ手もない状況です。



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※この記事は10月21日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、世界経済の話題を中心にお届けいたしました。

全世界の債務総額が167兆ドル(約1京9000兆円)となり、
経済成長を上回るペースで債務が拡大しています。

大前はこの金融経済の状況について、
ブラックマンデーが起こった時と極めて似ている
と記事中で指摘しています。

また、英国の金融問題にも触れ、
ブレクジットから世界的な金融危機が
トリガーされる可能性も十分に考えられるため、
かなり神経質に注意しておく必要があるとも言及しています。

このように、起きている現象に対して、
ファクトをしっかり把握し、なぜそのような現象が起きたかを
冷静な視点で俯瞰して考察することが大切です。

同じように見える現象でも、構造の本質は異なってきます。
問題の構造分析を行い、それがどのような影響を与えるのかを
過去の歴史などから予測することが重要です。

2018年10月19日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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モビリティ事業/独排ガス規制〜トヨタとソフトバンクの提携に見る両社の立場と重要性とは?

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モビリティ事業 新モビリティサービス構築へ
独排ガス規制 旧型ディーゼル車に新対策

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▼トヨタとソフトバンクの提携に見る両社の立場と重要性とは?
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トヨタ自動車とソフトバンクは4日、
新たなモビリティサービスの構築に向けて新会社
「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)株式会社」
を共同で設立すると発表しました。
両者のプラットフォームを連携させ、配車サービスや
自動運転技術を使った新事業で協業をするとのことです。

日本企業の時価総額1位と2位が提携したとマスコミが騒いでいますが、
私はそれほど大きな意味を持つ提携とは捉えていません。
この分野においてトヨタがあまりにも出遅れている状況で、
1位と2位が手を組んだと騒ぐほどのインパクトが
ないかもしれないからです。

トヨタが出遅れている一方で、ソフトバンクは
トヨタと提携しなくても十分にやっていけるだけの
様々な仕掛けを作ってきています。ARMの買収など
ソフトバンクがこれまでに投資してきた実績を考えると、
トヨタに限らずどの自動車メーカーと手を組んでも
上手くいくはずです。ソフトバンクとしては、
トヨタと排他的な提携を結ぶよりも
オープンな状況にしておいたほうがいいと私は思います。

もちろんトヨタとしては排他的な提携を望むと思いますが、
今後モビリティ事業がメインになってくるときには、
車を持たずにファンドなどを通じて
仕掛けの展開に注力してきたソフトバンクのほうが
フレキシビリティは高くなります。
ソフトバンクの立場から考えれば、
トヨタ1社との提携にこだわらずに、
今まで構築してきたネットワークを活用するほうが便利でしょう。

モビリティサービスの時代を見据えて、
ダイムラーやBMWなどはとにかく車を数多くばら撒いて、
新車が売れなくても使ってもらえるような状況を
構築する動きを見せています。
「Car2Go」(ダイムラー)と「DriveNow」(BMW)
というカーシェアリングサービスの統合などもこの動きの一貫です。

このような時代の流れにおいて、
トヨタはようやく4つの販売チャネルの統合を
発表したばかりで遅れに遅れています。
豊田章男社長は自社の遅れを認識し、
トヨタがモビリティカンパニーに変革する必要性を訴えていますが、
未だに会社としては「FUN TO DRIVE」
と言っている段階なので懸念を覚えます。

またそもそも今回の提携について言えば、
トヨタとソフトバンクのいずれからも
「本気」を感じられません。新会社を設立するということは、
両社とも「本体」同士は関係ないということです。
どちらも、会社の総力をあげて取り組む
ということにはならないと思います。

新会社の出資比率を見ると、過半数を超えている
ソフトバンクが優位に見えますが、
本気で取り組むなら「縛り」を入れるべきです。
お互いこの事業分野のことに取り組む場合には、
新会社以外では禁止するなど、
「浮気」を抑制する仕掛けが必要でしょう。
そうでなければ、いずれ破綻する可能性が高いと思います。

この提携が上手くいくかどうかに関係なく、
トヨタには大改革が必要だということも重大な事実です。
豊田章男社長のスピーチを聞いて社員がどれだけ危機感を持てるか。
社員の意識が大きく変わることがあれば、
力がある企業ですから大丈夫だと思いますが、
そうでなければ、このまま取り残されてしまう可能性もあるでしょう。



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▼ディーゼル車への逆風は、嘘の代償の大きさを物語っている
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ドイツ政府は2日、大気汚染の原因となっている旧型の
ディーゼル車の買い替えと改修を促す新対策を決めました。
14都市の最大140万台が対象で、
奨励金最大130万円を受け取って車を買い替えるか、
環境性能を高める改修を受けるように保有者に求めるもので、
費用はいずれも自動車メーカーが負担するというものです。

ベルリン市などでは道路ごとに
ディーゼル車の規制を定めているそうですが、
そこまで細かく見るのは現実的には難しい気がします。
中途半端な形に終わるのではないかとも感じます。

買い替えの際にメーカーが100万円程度を
負担しなければいけないということですから、
メーカーはかなり悲惨な状況に追い込まれた
と言えるでしょう。ディーゼル車への逆風は、
排ガス不正という「嘘」をついた代償が
いかに大きいのかを物語っていると思います。



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※この記事は10月14日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、モビリティ事業の話題を中心にお届けいたしました。

新たなモビリティサービスの構築に向けて
新会社を共同で設立すると発表した
トヨタ自動車とソフトバンク。

ライドシェアなどの移動サービス事業を
統合するダイムラーとBMW。

モビリティサービスの時代の流れにおいて、
自動車業界は、作って売るというビジネスモデルから
かつてない変化に直面しています。

しかし、これらは自動車業界に限ったことではありません。

グローバル化や技術革新のスピードが上がり、
自社の経営資源のみで成長を目指すことが
難しくなってきています。

連携や提携で補完的な機能分担や価値提供を行うことで、
高い競争力を獲得し、競合に対する持続的な優位を
確保することができます。

2018年10月12日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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沖縄県知事選/朝鮮半島情勢/日韓関係〜この数週間で極東アジアの地政学は大きく変化し、日本は孤立無援に

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沖縄県知事選 玉城デニー氏が初当選
朝鮮半島情勢 共同警備区域の地雷除去に着手
日韓関係 韓国・国際観艦式への護衛艦派遣を中止

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▼沖縄返還は民政のみで、軍事は返還されていないという事実
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翁長雄志知事の死去に伴う沖縄県知事選が先月30日行われ、
無所属新人の玉城デニー氏が初当選しました。
米軍普天間基地の辺野古への移設反対を訴えており、
政府が進める移設計画に影響を与えそうとのことです。

普天間からの移転に反対する人はいません。
基地の近くに学校などもあり、トラブルも多く、
誰もが普天間からの移設を望んでいるのは間違いないでしょう。
しかしだからといって、辺野古への移設まで反対となると、
根本的な前提が変わってしまいます。

普天間からの移設を検討したとき、
沖縄県内での移設先としていくつか検討された上で
辺野古が選定されました。それを否定するとなると、
そもそも「米軍は沖縄から出て行け」と言うのと同じです。
辺野古市民はすでに一度は基地の移設に賛成しています。
沖縄県民がこの議論をするとき
「本当に米軍の全面的な退去を望んでいるのかどうか」
という点まで考えるべきです。
2つの議論を一緒に考えてしまうから、
混乱しているのだと思います。

ただし、「もし辺野古への移設はやはり反対だ」となっても、
今の日米地位協定からすれば米軍が
沖縄から退去することはあり得ません。
普天間基地が継続されるだけでしょう。
沖縄返還は民政のみに限ったことであり、
軍事に関しては返還していないからです。
だからオスプレイが墜落して問題になっても
日本政府はまともに文句1つ言えないのです。

沖縄返還の条件は米軍が軍事基地として
好きなように使い続けることであり、
それが日米地位協定に定められています。
もちろん日本側もこの内容に納得した形になっています。
少なくとも安倍首相の叔父であり、
当時の佐藤栄作首相が理解していなかったとは思えません。

結局、沖縄返還のときの条件について
政府が国民に真実を隠して嘘をついてきたことが、
大きな誤解を生む原因になっています。
このまま嘘をつきつづけるなら、
北方領土と同じ道を辿ることになると私は懸念しています。

法的な側面だけでなく米国の戦略的な側面から考えても、
米軍が沖縄を手放すことは考えられません。
米海兵隊の拠点としてはグアム、ハワイ、ダーヴィンがありますが、
中国を封じ込めるためには沖縄は非常に重要な位置にあります。
最大の抑止力になるのも間違いありません。

ゆえに、どう考えても「辺野古への移設反対」を訴え、
米軍の退去を望むようなことをしても無駄です。
政府が正直になって過去の経緯を明らかにして、
その上で沖縄に負担がかかりすぎているなら、
対処方法を考えるべきです。沖縄に対して
「日本全体のために沖縄が果たすべき役割」を説明し、
逆に「日本全体として沖縄に何ができるのか?」
を考えていく態度が大事だと思います。

正直に事実を伝えずにいるから、
沖縄県民を怒らせるばかりになっています。
これでは何回知事選があっても、
辺野古への移設反対を主張する人が当選するでしょう。
現在の差し迫った課題は、辺野古移設の反対・賛成ではなく、
一刻も早く危険な普天間から基地を取り除くことです。



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▼この数週間で極東アジアの地政学は大きく変化し、日本は孤立無援に
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政府もマスコミも真実を伝えずに、
相変わらず日本国内の議論が迷走している中、
日本周辺の国際環境は大きく変化してきています。
国内で意味のない議論をしている暇などなく、
中国、韓国・北朝鮮、ロシアの動向に注目すべきです。
特に、この数週間で韓国と北朝鮮が急激に接近したことは、
日本への影響も非常に大きいと思います。

北朝鮮と韓国は1日から、軍事境界線がある
板門店(パンムンジョム)の共同警備区域(JSA)
にある地雷除去に着手しました。
先月、双方の国防相が署名した
「軍事分野合意書」履行の第1弾とのことです。
これは文在寅大統領と金国務委員長も
同意していることですから、両者の距離は
かなり大きく接近していると見るべきです。

韓国の文在寅大統領は国連総会で、
金委員長を信頼できる人物だとし、
北朝鮮との祖国統一について熱弁しました。
国連は、北朝鮮が対する完全かつ検証可能な非核化をしない限り、
制裁を継続するとしていますが、それも棚上げにして
「祖国統一・民族統一」を信じて欲しいと訴えました。
もちろん、国連の北朝鮮に対する制裁決議には
文在寅大統領も賛成したのですが、
手の平をひっくり返したのですから驚くばかりです。

米トランプ大統領は北朝鮮への制裁は
継続するという姿勢です。しかし
「非核化はスケジュールを決めてやるものでもない」
と発言し、そのタイミングは急がないとしました。
その間に韓国と北朝鮮は急接近しました。
先日の国連総会で日本の河野太郎外相は、
北朝鮮の制裁解除について
「完全かつ検証可能な非核化が絶対条件」と演説しましたが、
このような意思表示をしたのは日本だけでした。
2ヶ月前までは各国の意志は一致していたのに、
状況がガラッと変わってしまいました。

北朝鮮と親密になる一方で、
文在寅大統領は「反日」の姿勢を強めています。

韓国南部・済州島で11日に開かれる国際観艦式で
韓国側が日本の海上自衛隊の護衛艦に
旭日旗を掲げないように求めていた問題について、
岩屋毅防衛相は5日、護衛艦の派遣を中止すると発表しました。

日本側の対応は当然です。
小渕恵三元首相の頃に解決したはずの問題を、
今頃になって持ち出してきています。
自衛艦旗の旭日旗を日本軍国主義の象徴
などと難癖をつけているのです。
たしかに韓国国内に旭日旗に反対する人はいましたが、
船が寄港できないというような
問題になったことはありませんでした。

また従軍慰安婦問題についても、
最終的かつ不可逆的な解決をしていたはずが、
文在寅大統領はひっくり返しました。
日本が10億円を拠出した従軍慰安婦のための財団を、
日本に断りもなく勝手に解散させました。
文在寅大統領曰く「国民の理解が得られない」
とのことですが、国と国が約束をし、
資金の一部もすでに支払われているものを、
勝手に反故にするのは理解できません。

もう文在寅大統領は完全に向こう側(北朝鮮側)
の人物であり、説得しても無駄だと私は思います。
もはや「日米韓」という発想は
文在寅大統領の頭にはないでしょう。
逆に、いかにして米国を騙して
「祖国統一」を実現するかを考えているはずです。

現状、このような韓国の動向に対して
中国とロシアは静観しています。
米国は長期的に見れば日本側ですが、
この2〜3週間で極東において日本は
孤立無援状態になっています。
極東アジアにおいて、大きく地政学的状況が
変化したことは非常に重要だと思います。

2018年09月28日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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福山通運/キャッシュレス決済/NTT/中国EV大手/韓国・現代自動車〜NTTグループの見直しをするべき時期が来た

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福山通運 日曜の集荷・配達を中止
キャッシュレス決済 QR決済さらに多様化
NTT グループ一体で資材調達へ
中国EV大手 中国新興EV、生存競争激しく
韓国・現代自動車 鄭義宣氏が総括主席副会長へ

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▼日曜の配達中止は英断
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日経新聞が21日報じたところによると、福山通運は10月から順次、
日曜日の企業向け荷物の配達を取りやめるとのことです。
総務省も郵便物の配達を平日のみとする検討に入るなど、
働き方改革の動きが広がってきているとしています。

福山通運の配達も郵便局の配達も、
土日を取りやめるというのは良い判断だと思います。
引受郵便は今でも年間数億通ありますが、
その中には年賀状や暑中見舞いなども含まれています。

私の実感としては、郵便で配達されるものの中に
「受け取ることが絶対に必要」というものがほとんどありません。
以前は電力使用の明細などを郵便で受け取る必要がありましたが、
今はそうではありません。こうした実態を考えても、
土日の配達をやめるというのは英断だと思います。


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▼キャッシュレスでATM不要は当然の流れ
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日経新聞は22日、「QR決済さらに多様化」と題する記事を掲載しました。
スマホを使ったキャッシュレス決済について
特徴ある機能を打ち出す新規参入組が増えています。
これらはポイント還元率よりも入出金方法などで特徴を打ち出していて、
対応店舗が増えれば利用者の選択肢はさらに増えていくとのことです。

みずほFGの坂井社長は、インタビューで
「ATMは公衆電話のように消えていく」と答えたそうですが、
まさにその通りです。ただし私に言わせれば、
「銀行も消えていく」と付け加えたくなりますが。

ATMの設置台数は横ばい状態です。キャッシュレス化が進めば、
当然のことながらATMは不要になります。
現状はセブンイレブンが積極的にATM設置を進めた結果、
他の銀行は自社のATMではなく、ほとんどが
セブンイレブンのATMを利用する形になっています。

最近になってローソン銀行が開業しましたが、
「20年遅い」と思います。ATMの機械は高額ですし、
散々セブンイレブンが活用してしまっています。
端末によっては今から設置しても
しばらく使えるものはあると思いますが、
それほど寿命は長くないでしょう。
なぜ、20年前にやらなかったのか?
ローソンの親会社である三菱商事の時代感覚が、
それだけ遅れているということだと私は思います。


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▼NTTグループの見直しをするべき時期が来た
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NTTは12日、パソコンやサーバーなどの資材を
グループ一体で調達するための専門会社を
米国に設立すると正式発表しました。
NTTは1999年の再編時の政府方針で、
持ち株会社とNTT東日本、NTT西日本が
資材を共同調達することはできないことになっていますが、
次世代通信方式「5G」を巡る競争が本格化するなか、
グループ会社の調達をまとめてコストを削減する見通しです。

かつてNTTを分割した頃とは時代背景も違います。
当時は、米国に「資材調達を海外に公開しろ」と指摘を受けたり、
分割後に共同購買ができてしまうと「競争力が強すぎる」
と禁止されましたが、今は状況が異なります。
専門会社を米国に置くことで米国側からも文句は出ないでしょうし、
今回のスキームは1つの抜け穴となると思います。

NTTの売上と利益を見ると、相変わらずNTTドコモが稼ぎ頭で、
光ファイバー、フレッツ光なども利益を上げています。
全体的には悪くない業績ですが、世界に目を向けると、
アマゾンやAT&Tなどの売上高はNTTを凌駕しています。

米国も、かつては分割がありましたが、
今ではベライゾンとAT&Tに集約されるようになりました。
日本でもそろそろNTTについて見直す時期だと思います。
もちろん、KDDIやソフトバンクからの反対は予想されますし
一筋縄ではいかないでしょうが、NTTをまとめることで
コスト削減を図れるようにすることは重要だと思います。
行政が主導権を握って推し進めて欲しいところです。


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▼中国EVメーカーも数社に絞られるのは必然
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日経新聞は13日、「中国新興EV 生存競争厳しく」
と題する記事を掲載しました。中国の新興EVメーカーで
最も高い企業価値を誇る威馬汽車の沈暉CEOのインタビューを掲載。
沈暉氏は「中国の約60社に上るEVメーカーのうち、生き残るのは3社」
と指摘するとともに品質と価格の両立を追求した結果、
今月発売する同社初のEV車は価格や航続距離を
ガソリン車並みの水準で実現したと紹介しています。

米国でも多くの自動車メーカーがありましたが、
今は3社に落ち着きましたし、日本の二輪車業界でも
かつて250社以上もあったメーカーが、今は4社に集約されています。
そして国内競争で生き抜いた数社が世界に打って出て成功しています。

中国のEVメーカーでも同じようなことが起こるのは必然でしょう。
60社のうち国内競争に勝ち抜くのが3〜4社。
その数社が世界化していくというフェーズに入っていく、
ということです。

これは、例えばパソコン業界にしても、
多くの産業が同じ道を辿っていることで
特に驚くことではありません。


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▼韓国は経営者の引き継ぎが遅い
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韓国の現代自動車は14日、創業家出身の鄭義宣副会長が
現代自グループナンバー2の総括首席副会長に就任したと発表しました。
鄭義宣氏は、グループを率いる鄭夢九会長の長男で、
韓国メディアが会長の健康悪化観測を報じる中、
鄭義宣氏が次期総帥の最有力候補だと明確に示す人事となりました。

もともと鄭義宣氏が後継者と言われていたので、
特に驚くことではありませんが、
特徴的なのは今回のニュースを契機として、
鄭夢九会長の体調不良について報じられていることです。

韓国の場合には、後継者に早い段階で引き継ぐ
ということがほとんどありません。
例えば、サムソン電子の李健熙会長は心筋梗塞で倒れ、
健康状態を心配する声は絶えませんが、
未だに正式に引き継いでいません。
最も不幸な例は、ロッテでしょう。

こうした韓国企業の通例があるため、
今回の場合には早い段階でナンバー2に指名したことで、
かえって鄭夢九会長の健康問題を
懸念されることになったのでしょう。


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※この記事は9月23日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

NTTは、パソコンやサーバーなどの資材を
グループ一体で調達する専門会社を
米国に設立すると正式発表しました。

大前はNTTに対して記事中で、まとめることで
コスト削減を図れるようにすることは重要であり、
行政が主導権を握って推し進めて欲しいと言及しています。

NTTは、次世代通信方式「5G」を巡る競争の本格化など
取り巻く環境や市場、競争環境が大きく変化しています。

このような状況の中、新たな顧客価値を創造し
グループ成長を構築していくために重要なことは、
制約条件に制約されないことです。

自分で変えられるもの(変数)と制約条件の2つに分けて考え、
与えられた環境の中で、自分が動かせる変数を目一杯使って
最大の利益を目指すことが大切です。

2018年09月21日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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日ロ関係/米中ロ関係〜プーチン大統領といち早く平和条約を締結することが、安倍首相の唯一最大の貢献

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日ロ関係 一切の前提条件設けず日ロ平和条約締結を提案
米中ロ関係 プーチン氏、打算の中国接近

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▼北方4島について、日本政府はずっと国民を騙している
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ロシアのプーチン大統領は12日、安倍首相に対して、
一切の前提条件を設けずに2018年末までに
日ロ平和条約を締結するよう提案しました。
これは安倍首相が平和条約や領土問題の解決について
「アプローチを変えなければならない」と述べたのに対し、
プーチン大統領が賛同したもので、
まず平和条約を締結した上で
友人同士として意見の隔たりがある問題について
解決していこうというものです。

このプーチン大統領の提案について、日本のマスコミは
「なぜ安倍首相は反論しないのか?」と指摘していますが、
安倍首相としては「真実」を理解しているだけに
歯がゆい思いをしていることでしょう。
河野外相は日本とロシアの北方領土に関する真実について、
どこまで理解しているのかわかりませんが、
安倍首相はプーチン大統領との20回を超える
ミーティングなどを通して理解しているはずです。

日本の方針は
「北方4島の返還を前提にして平和条約を締結すること」
であり、これは以前からずっと変わらないもの。
菅官房長官などもこの趣旨の発言をしていますが、
そもそもこの認識が間違いであり、
日本政府がずっと隠してきている「嘘」なのです。

ロシア側の認識は
「北方4島は第二次大戦の結果、ソ連に与えられたもの」であり、
日本は敗戦国としてその条件を受け入れたわけだから、
固有の領土かどうかは関係がない、というもの。
ラブロフ外相もプーチン大統領も、
このような見解を示しています。
そして、このロシア側の主張が「真実」です。

終戦時にソ連と米国の間で交わされた
電報のやり取りが残っています。
ソ連のスターリンが北海道の北半分を
求めたのに対して、米国側は反発。
代わりに北方4島などをソ連が領有することを認めました。

この詳細は拙著「ロシア・ショック」の中でも紹介していますが、
長谷川毅氏の「暗闘」という本に書かれています。
米国の図書館などにある精密な情報を研究した本で、
先ほどの電報などをもとに当時の真実を
見事に浮かび上がらせています。

すなわち、北海道の分割を嫌い、
北方4島をソ連に渡したのは米国なのです。
今でもロシア(ソ連)を悪者のように糾弾する人もいますが、
犯人は米国ですからロシアを非難すること自体がお門違いです。

さらに言えば、日本が「北方4島の返還を前提」
に固執するようになったのも、米国に原因があります。
1956年鳩山内閣の頃、重光外相がダレス国務長官と会合した際、
日本はソ連に対して「2島の返還を前提」
に友好条約を締結したいと告げました。
しかし、ダレス国務長官がこれを受け入れず、
「(ソ連に対して)4島の返還」を求めない限り、
沖縄を返還しないと条件を突きつけました。

つまり、米国は沖縄の返還を条件にしつつ、
日本とソ連を仲違いさせようとしたのでしょう。
この1956年以降、日本では「北方4島の返還」が前提になり、
それなくしてロシア(ソ連)との平和条約の締結はない、
という考え方が一般的になりました。
1956年までの戦後10年間においては「4島の返還」
を絶対条件とする論調ではありませんでしたが、
この時を境にして一気に変わりました。


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▼プーチン大統領といち早く平和条約を締結することが、安倍首相の唯一最大の貢献
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今回のプーチン大統領の提案に対して、
マスコミも識者も随分と叩いているようですが、
1956年以降日本の外務省を中心に
政府がずっと国民に嘘をついてきた結果、
真実を理解せずに批判している人がほとんどでしょう。
プーチン大統領の提案は理にかなっています。
日本政府の「嘘」を前提にするのではなく、
とにかくまず平和条約を締結することから
始めようということです。

プーチン大統領の提案通り、まず平和条約を締結すれば、
おそらく「2島の返還」はすぐに実現すると思います。
残りの2島については、折り合いがつくときに返還してもらう、
というくらいで考えればいいでしょう。
相手がプーチン大統領であれば、
このように事を運ぶことはできるでしょうが、
別の人間になったら「1島」も返還されない可能性も大いにあります。

今、安倍首相は「とぼけた」態度を貫いています。
真実を理解しながらも、周りにはそれを知らず
理解していない人も多いでしょうし、
長い間日本を支配してきた自民党が国民に嘘をついていた
という事実をどう説明するか、
など悩ましい状況にあるのだと思います。

安倍首相に期待したいのは、
ロシアに対して経済協力などを続けながら、
とにかくいち早くロシアとの平和条約を締結して欲しい、
ということです。今回の自民党総裁選に勝利した場合、
それが実現できれば、安倍首相にとって唯一にして
最大の貢献になると私は思います。

北方4島の全てが返還されなくても、
それによってどれほどマスコミから叩かれても、
安倍首相とプーチン大統領の間で、
平和条約の締結を実現すべきです。
菅官房長官などは知ったかぶりをして、
4島返還について日本政府の方針に変わりはない
などと発言していますが、全く気にする必要はありません。
プーチン大統領の次を誰が担うのかわかりませんが、
仮にメドベージェフ氏が大統領になれば、
2島返還ですら絶対に容認しないでしょう。
プーチン大統領が在任中にまず平和条約を締結することは、
極めて重要だと私は思います。

というのも、中国がロシアに接近しつつあるので、
ロシアにとって日本の必要性が低下し、
このままだと日本にとってさらに厳しい状況になるからです。
今回の東方経済フォーラムを見ていても、
プーチン大統領と中国は明らかに接近したと私は感じました。

中国は巨大な人口を抱える東北三省の経済状況がよろしくありません。
その対策として、極東ロシアへの投資に向けて動いています。
中国とロシアの国境を流れる黒竜江(アムール川)をまたいで、
現在両国を結ぶ橋を建設しています。
中国側とロシア側でそれぞれ資金を出し合っていて、
橋の建設には中国の技術が活用されています。

中国とロシア間の動きが活発化し、
中国から極東ロシアへの投資が拡大すると、
その貢献度はかなり大きなものになります。
今回、安倍首相とプーチン大統領で見学に行った
と言われているマツダのエンジン工場のレベルではないでしょう。
また中国とロシアは、同じく米国にいじめられている立場として、
ボストーク2018で巨大な軍事演習を予定しています。

日本も目を覚まさないと、全て中国に持っていかれてしまいます。
少なくともプーチン大統領は内心では親日派なので、
今のうちに早く動くべきです。最後にもう1度述べておきます。
安倍首相には、自民党総裁選に勝利したら、
どんな批判を受けても悪役になろうとも、
何が何でもロシアとの平和条約の締結を
実現させて欲しい、と思います。


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※この記事は9月16日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、日ロ関係の話題を中心にお届けいたしました。

安倍首相に対して、一切の前提条件を設けずに
2018年末までに日ロ平和条約を締結するよう
提案したロシアのプーチン大統領。

これに対して大前は、
どんな批判を受けても悪役になろうとも、
何が何でもロシアとの平和条約の締結を
実現させて欲しい、と言及しています。

交渉はビジネスを行う上で、
避けては通れない永遠のテーマであり、
交渉は双方の問題解決を目指した対話です。

「勝ち負け」として捉えられがちな交渉ですが、
駆け引きによって勝ち負けを決定するコンテストではなく、
当事者双方が意思決定者になり、
双方に納得感のある交渉こそがよい交渉です。

論理的な思考と明瞭な表現を行い、
相手の主張や考え方を知るための積極的な傾聴や
事前準備を十分に行うことによって、
交渉力を高めることができます。

2018年09月14日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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信越化学工業/日本電産/米エアビーアンドビー/クックパッド〜信越化学工業の金川氏、日本電産の永守氏。日本を代表する経営者の手腕

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信越化学工業 シリコーン5割増産へ
日本電産 「永守流」分権型シフト
米エアビーアンドビー 別府市旅館ホテル組合と提携
クックパッド ウミーベを買収

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▼信越化学工業の金川氏、日本電産の永守氏。日本を代表する経営者の手腕
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信越化学工業は3日、車の樹脂部品や化粧品などに
幅広く使うシリコーンの生産を増強するため、
日本、米国、タイなどの工場設備に
1100億円を投じると発表しました。
シリコーンは増産していた中国勢が
環境規制で工場の操業を停止したほか、
米国が中国に追加で制裁関税を課したことで
価格が上昇するなど需給がひっ迫しています。
信越化学はこれらに対応するため、
世界の拠点から供給できる体制を
整える考えとのことです。

信越化学工業といえば、金川千尋氏が90歳を超えて
代表取締役会長を務めています。
最高齢の経営者の一人であり、
今回の対応然り、今なお鋭い経営判断力を
持っていると思います。
信越化学工業の業績を見ると、
塩ビ・化成品、半導体シリコン、電子・機能材料、シリコーンなど
いずれの部門でも利益が出ていて、
また全てが前年を上回っています。
特に、塩ビ・化成品、半導体シリコンの
2つの部門の伸びは素晴らしい状況です。

米トランプ大統領が騒ぐために、米国でシェールガスを使った
塩ビ新工場を設立するなど、柔軟に対応しています。
塩ビ事業は、良い時と悪い時が非常にはっきりしていて
難しい局面もあるはずですが、見事に乗り切っています。
限界サプライヤーであれば憂き目を見る一方で、
トップサプライヤーとして安定しています。

90歳を超えても、周囲から金川氏に対する辞任要求などの話は
聞いたことがありません。
米トランプ大統領への対応なども含め、
不連続リスクを抱えない経営手腕は見事だと感じます。


日経新聞は4日、『「永守流」 分権型シフト』と
題する記事を掲載しました。
日本電産はドイツの産業ロボット部品メーカー、
MSグレスナーを買収すると発表しました。
今回は子会社の日本電産シンポが
買収を主導するとのことで、
世代交代や事業規模の拡大をにらみ、
「永守流」経営を伝授しながら
権限を委譲する新たな段階に入ったとしています。

永守氏と言えば、これまでに60社を超える企業を買収し、
その全てを黒字化させたという驚くべき実績を持っています。
一般的に、M&Aの成功率は10〜15%程度ですから、
60社全てが黒字化というのは世界でも例を見ません。
さらに、全てを1年以内に黒字化させているのですから驚異的です。

日本電産の売上高を見ると、
主力事業の精密小型モータなどは伸び悩んでいます。
ゆえに、車載・家電などその他あらゆる事業を
付け加えていかないと、
永守氏が目指す成長は達成できないでしょう。
1兆円を達成し、次は2兆円を目指すということですから、
M&Aしか実現の道はありません。
今回のグレスナー買収も、その一貫です。

日産自動車から日本電産へうつり、
2社の企業再生に携わった川勝宣昭氏の話を聞く機会がありました。
川勝氏曰く、日産が10年単位で考えるようなことを
日本電産ではその何分の1で
実行するように求められる、とのことでした。
買収した会社に、「一人で行って立て直してこい」
「しかも1年以内に黒字化」と言われるのです。

川勝氏が言うには、永守氏は相当細かいところまで
要点を詰め指示を出すそうです。
私もそこまで細かい点について指示をしていたとは、
初めて知って驚きました。
日産では10年かかっていたかもしれない企業の立て直しも、
永守氏のプレッシャーのもとで「永守流」でやってみたら
2社とも1年で黒字化できたということでした。

今回買収を発表したグレスナーの傘下には6社が入っています。
1社ずつ別の人間に担当させるのかも知れませんが、
今まで以上にハードルが高く、
新しいチャレンジになると思います。
これまで通り、見事に成功をおさめるのか楽しみです。

「永守流」が素晴らしい成果をあげている一方で、
永守氏が居なくなった後、
同じように細かい視点を持って指示できる人はいるかどうか。
これは非常に難しいところだと思います。



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▼エアビーアンドビーが、一時的に民泊法を回避する手段に出た
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米エアビーアンドビーは先月27日、
別府市旅館ホテル組合連合会と提携したと発表しました。
別府市は2019年に開催される
ラグビーワールドカップの公認キャンプ地となっており、
宿泊施設のエアビーアンドビー登録で
海外からの集客の拡大につなげたいとのことです。

日本では民泊法が施行されてから、
エアビーアンドビーへの登録は激減していました。
一方で、エアビーアンドビーのシステムは
よく出来ていますし、海外からの旅行者は変わらず
エアビーアンドビーを利用したいと思っている人が多いのです。

そうであれば、伝統的なホテルや旅館も
エアビーアンドビーを経由して、
一般旅行客を取り込んだ方が早い、ということになります。
旅行会社と提携しても、さほど集客効果がないことも多いですから、
エアビーアンドビー経由のほうが確実です。
別府市旅館ホテル組合連合会には
111軒の旅館やホテルが加盟しているそうですから、
結果がどのようになるのか、
私としても非常に興味があります。

エアビーアンドビーとしては、日本において
一時的に民泊法を掻い潜るための方法だと思います。
私に言わせれば、民泊法自体が理不尽なもので、
いずれは民泊を認可するようにならなければ
3000万人を超える外国人観光客を受け入れる体制は整いません。
以前、訪日外国人観光客数が3000万人を超えたときには、
エアビーアンドビーで600万人を吸収しました。
日本としては、普通に民泊ができるように
前向きに進んでいくべきです。



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▼クックパッドと連携し、釣り情報サイトの圧倒的ナンバーワンの地位を目指す
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クックパッドは先月24日、
釣り情報サイト「ツリホウ」などを運営する
ウミーベを買収したと発表しました。
ウミーベは渡部一紀CEOが2014年に創業。
月間200万回以上閲覧されるサイトをわずか4日で作り上げました。
クックパッドは渡部氏の手腕を評価し、
今回の買収に至ったとのことです。

クックパッドは主に主婦や独身の人が、
閲覧・引用する回数が多いメディアサイトです。
このメディアから釣り情報サイトに
アクセスを流すこともできるでしょう。
釣り情報サイトは、まだ圧倒的なメディアサイトが
誕生していないので、クックパッドと連携させることで
一気に地位を確立することを狙えます。

逆に釣った魚などをどのように料理するのかという視点で、
クックパッドを強化することもできるので、
いろいろな形でシナジーを発揮できる可能性があります。

2018年09月07日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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トヨタ自動車/米ウーバー・テクノロジーズ/米テスラ〜EVでトヨタのサプライチェーンが大きく変わる

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トヨタ自動車 自動運転の制御技術外販へ
米ウーバー・テクノロジーズ ウーバーに約550億円出資
米テスラ 株式非公開化計画を撤退

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▼EVでトヨタのサプライチェーンが大きく変わる
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トヨタ自動車は先月24日、電装品、駆動部品、
ステアリング、ブレーキなどそれぞれを主軸とする
グループ4社が年内にも新会社を設立し、
トヨタの研究所で開発したAIやソフトウェアなどを
市販車に搭載させる役割を担うとのことで、
グループで制御システムの一貫体制を整え
世界の大手メーカーなどに供給する考えです。

トヨタグループ4社とのことですが、
新会社への出資比率を見ると、
デンソー:65%、アイシン精機:25%、
アドヴィックス:5%、ジェイテクト:5%となっています。
実質的にはデンソーを中心とした
EV対応のための新会社と見て良いでしょう。

EVになると、必要とされる部品や技術がガラリと変わります。
燃料噴射装置、エアクリーナー、
オイルフィルターなどの「エンジン部品」。
スターターモーター、オルタネーターなどの「電装部品」。
そして、フロントアクスル、リアアクスル、
プロペラシャフトなどの「駆動系部品」は
EVになると全て不要になります。
一方で、電極液、セパレーターなどの「リチウムイオン電池」や
モーター、インバーターなどの
「機電一体電動パワートレイン」などが必要になります。

必要とされる部品や技術が変わるため、
業界全体も大きく変わらざるを得ません。
これまではトヨタを頂点とする内燃機関を中心の
サプライチェーンが機能していましたが、
新しいサプライチェーンを再構築する必要があります。
そのための母体となる組織を作るのが、
今回の新会社設立の一番大きな目的でしょう。

中国の自動車メーカーのように、
過去に構築したピラミッド組織(サプライチェーン)が
存在しないほうが、今存在するものを
捨て去る必要がありませんから、
このEV化の波に対応しやすいはずです。
トヨタはこれまでのものを捨て去って、
命がけでも新体制の構築を
成し遂げなければならない状況になっています。



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▼顧客とのつながりを持てていないメーカーの弱さ
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トヨタ自動車は先月28日、米ウーバー・テクノロジーズに
5億ドル(約550億円)を出資すると発表しました。
トヨタは2016年にもウーバーに出資し、
すでにライドシェア事業で協業していますが、
今回の提携で自動運転車の開発にも踏み込み、
米グーグル系のウェイモに対抗する考えです。

おそらく今後、トヨタが自動運転の車を開発したら、
それもウーバーに提供していくことになると思います。
なぜ巨大な自動車メーカーが、
ライドシェアを展開する企業や配車アプリの提供会社に、
まるで「媚びる」かのような姿勢を見せているのでしょうか。

一言で言えば、自動車メーカーが
「顧客とつながっていない」からです。
例えば、私はトヨタ車も日産車も数台保有していますが、
おそらくトヨタも日産も私が保有している車を
詳細に把握していないでしょう。
ところが、ライドシェアを展開している企業は、
私のスマホに入っているアプリから取得する情報で、
私が利用したデータを詳細におさえています。

自動車業界は次世代へ移り変わろうとしている状況ですが、
巨大な自動車メーカー各社が
顧客とのつながりを持てていないというのは、
企業にとっては致命的です。
顧客と直接つながっている企業に全てを支配されてしまい、
どの車を使っても変わらないとなったら、
自動車メーカーにとっては命取りです。

実は同じようなことが家電メーカーにも当てはまります。
家電メーカーも顧客とのつながりを持てていません。
私が持っているテレビなどの家電を
各メーカーが把握しているとは思えません。

要するに、これまでのメーカーは
「作って終わり」だったのです。
しかしこれからの世の中では、
最終的にアプリで呼び出してもらえる側として
顧客との接点を持てていないと生き残れません。
ゆえに、ウーバー、滴滴出行などに
自動車メーカーは何としてでも資本を入れて
食い込んでおきたいと思っているのでしょう。



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▼イーロン・マスクは天才だが、企業人・経営者としての適性はない
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米電気自動車メーカーのテスラは先月24日、
株式非公開化の計画を撤回し上場を維持すると発表しました。
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、
多くの株主が非公開化を望まなかったとともに、
非公開化には当初の想定よりも時間がかかることが
判明したため、と説明しています。
しかし情報開示の手法や内容を巡っては
一部の投資家が訴訟を起こしており、
計画撤回後もテスラの経営に影響を及ぼす可能性があります。

イーロン・マスク氏は「天才」ではありますが、
同時に非常に「性格に問題がある」人物だと思います。
テスラほどの時価総額を持つ企業の創業者が、
今回のように突如として株式非公開化などと発表すれば、
その影響力は相当大きいのは言うまでもありません。
株式市場にとってはいい迷惑としか言えないでしょう。

イーロン・マスク氏が企業人として、
経営者としての適性に問題があると感じるのは、
今回のことだけに留まりません。
日本企業との関係性だけを見ても、
以前にはトヨタと仲違いをしています。
さらにはパナソニックと提携しアリゾナに
巨大なバッテリー工場を作らせておきながら、
中国のメーカーに乗り換えるような素振りを見せています。
今まさにパナソニックは翻弄されています。

今回の株式非公開化の騒動においても、
途中経過においてサウジアラビアの
政府系ファンドとの接触を匂わせてみるなど、
イーロン・マスク氏には、従来の経営者であれば
許されない行為が目立ちます。
非常に感情的な人物で、企業経営者として
「適性」に問題があり、テスラという企業にとっての
キーマンリスクにもなっていると思います。

テスラに振り回されているパナソニックですが、
オートモーティブ関連の売上は大きく、
利益でも1000億円に迫るほど稼ぎ、非常に順調です。
オートモーティブに次いで家電関連も
利益で1000億円を超え、環境関係、モバイル機器
その他の領域でも収益を上げていて、
全体としてバランスが取れた収益構造になっています。

現在順調なパナソニックにとって、
テスラに手の平を返されるのは非常に厄介でしょう。
売上・利益ともに大きいオートモーティブが
ぐらついてしまう可能性があるからです。
テスラとパナソニックの関係性が
今後どのような展開を見せるのか、
今後も注意深く見ていく必要があると思います。


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※この記事は9月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、自動車業界の話題をお届けいたしました。

トヨタ自動車は、グループ4社が年内にも
EV対応のための新会社を設立し、
グループで制御システムの一貫体制を整え
世界の大手メーカーなどに供給する考えを発表しました。

自動車業界では、急速にEV化のトレンドが形成されています。

しかし、EV化対策に成功し、上手にシフト出来た場合にも、
日本が世界に誇る部品産業が大打撃を受ける
という課題が日本にはあります。

そのため、大前も記事中で指摘しているように、
電気自動車になると使用する部品の数も大きく減り、
コストや組み立て工数は激減する中で、
これまでのサプライチェーンの機能を捨て去り、
新しいサプライチェーンを再構築する必要があります。

このような不確実な世の中で成功を収めるには、
状況の変化に応じて競合よりも早く行動を起こすことが重要です。

そのために必要なことは、不確実要因の展開によって
可能性のある将来に応じた一連のシナリオを用意し、
それぞれのシナリオにおける脅威や機会を議論しておくことです。

そうすることで、環境変化の予兆を早く感じることができ、
いざその時が来た際に迅速に行動に移すことができます。

2018年08月31日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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原子力産業/福島第一原発〜原子力事業は日本全体で1つの事業体で担うべき

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原子力産業 膨らむ費用、再編迫る
福島第一原発 足りない廃炉人材

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▼原子力事業は日本全体で1つの事業体で担うべき
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日経新聞は23日、「原発 膨らむ費用、再編迫る」と
題する記事を掲載しました。
東京電力と中部電力、日立製作所、東芝が
原子力事業で提携協議に入ったと紹介。
原発事業は世界的にコストが膨らむ傾向にあり、
4社とも「1社では事業を担えない」という共通の焦りがあり、
今回の提携をきっかけに国内の原発は
もう一つの連合との2陣営時代を迎える
可能性もあるとしています。

確かに一昔前は、BWR(沸騰水型軽水炉)と
PWR(加圧水型軽水炉)の2つの陣営に
別れていましたが、今ではそれほど明確に
分かれてはいないと私は見ています。

BWR陣営には、日立、東芝、東京電力、
中部電力、東北電力、中国電力、北陸電力。
そしてPWR陣営には、三菱重工、関西電力、
九州電力、四国電力、北海道電力。
これがかつての2陣営の構図でした。

PWRを世界で初めて商用化したのは
ウエスチングハウスで、かつて日本国内では
三菱重工が提携し、PWR陣営の一翼を担っていました。
しかし、東芝がウエスチングハウスを
傘下におさめたことで、東芝はBWRもPWRも
どちらも対応できるようになっています。
一方、三菱重工は仏アレバと提携しました。
現在、全体として見ればBWR陣営、
PWR陣営という区分けに敏感ではなくなっています。

また「1社では無理なので4社で」
原子力事業を担っていこうとのことですが、
4社でも不十分だと思います。

私は東日本大震災が発生した3月11日の直後、
すでに次のように提案していました。
すなわち、9電力会社の原子力部分を全て切り離し、
そこに日立、東芝、三菱重工を加えて、
「日本原子力機構」という組織を作るべきだ、と。
このように提案した理由は明確です。
とても1社だけでは無理ですし、
日本全体で1つにならなければ対応できないからです。

東京電力は相当大きな企業ですが、
それでも福島の原発だけで持て余す状態になっています。
原子力損害賠償・廃炉等支援機構が資金を注入しなければ、
存在できない状況です。中部電力は、浜岡原発を
当時の菅直人首相に閉鎖させられて困り果てています。

フランスでも実質的にアレバ1社に
原子力事業が集約されているように、
日本も「とりあえず4社で」などと言わず、
全体として1つに集約されなければ
原子力の体制を立て直すことは難しいと思います。

福島第一原発事故もあって、日本国内で
新しい原子炉を作るのはほぼ不可能な状況にあります。
これから先は海外に出ていくしかありません。
その意味でも、日本全体でまとまらないと
企業体力の面でも厳しいことは目に見えています。



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▼廃炉のイメージを払拭し、環境産業として位置づけて人材を確保せよ
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日刊工業新聞の情報サイトは21日、
「東京電力と大学の思惑一致せず…足りない廃炉人材」と
題する記事を掲載しました。
福島第一原発の廃炉作業を支える人材育成について、
大学が廃炉技術の研究者を育てている一方、
実際に現場で求められるのは
日々発生するトラブルに対応しながら
計画管理ができるプロジェクトマネージャーであると紹介。
こうした人材を育てるには、
自身の専門以外の基礎を働きながら学べる仕組みや
大学と現場をつなぐ場が必要としています。

かつて私がMITで原子力工学を学んだときには、
同級生が130人もいました。
しかしスリーマイル島原発事故が起こって
状況が一変しました。97年頃私がMITに訪れたときには、
原子力工学を学ぶ生徒は1学年で15人くらいに激減していました。
しかも、その15人の中に米国人は一人もいませんでした。
ほとんどは奨学金をもらって
アフリカから来ていた留学生でした。

私が学んでいた時代には、
原子力工学には夢がありました。
マンハッタン計画の後は、
原子力の平和利用だと誰もが思っていましたし、
MITでも非常に有名な先生が教鞭を執っていました。
ところが、スリーマイル島原発事故の後、
米国人の中に原子力を学ぶという発想はなくなりました。

福島第一原発事故で、同じことが日本でも
起こってしまいました。当時の米国でもそうでしたが、
今、日本で原子力を学んでいると言ったら
「将来性がない」と思われるでしょう。
だから誰も学ぶ人がいなくなります。

この問題は廃炉人材がいなくなることになるので、
極めて重要な問題です。
廃炉のために外国人を雇用して
危険な環境の中で仕事をさせるのは、
国際的な批判も受けるでしょうし、難しい点があります。
とは言え、廃炉は絶対にやらなければいけないことです。

私は「廃炉」という言葉も、
その印象が良くないと思います。
グリーン技術の1つとして環境学科の科目にするなど
工夫するのも1つの策でしょう。
「グリーン」「環境」という言葉で表現すれば、
興味関心を持ってくれる生徒も増える可能性があります。
実はMITでもそのようにしています。

また考え方次第では、これは成長産業です。
なぜなら、先程も述べたように廃炉は
「絶対にやらなくてはいけないこと」だからです。
完全なニーズがあります。
「廃炉」という見せ方ではなく、
成長が約束された環境産業として位置づけて
人材を確保して欲しいと思います。


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※この記事は8月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、原子力産業の話題をお届けいたしました。

東京電力と中部電力、日立製作所、東芝の4社が
原子力事業で提携協議に入りました。

これに対して大前は、東京電力でさえも
福島の原発だけで持て余す状態になっており、
日本全体として1つに集約されなければ
原子力の体制を立て直すことは難しいと指摘しています。

原発事業は、コストの問題、廃炉の問題、
人材確保の問題など、様々な問題を抱えており、
どの課題も電力会社が単独でマネジメントできる
範疇を超えてしまっています。

また、日本国内で新しい原子炉を建設することが難しく、
これから先、海外に出ていくしかないということを考えても、
日本全体でまとまらないと企業体力の面でも厳しいとも
大前は記事中で指摘しています。

問題を解決するにあたっては、
現在の延長として解決策を考えるのではなく、
未来がどうなるかを推測し、その中で、
どうあるべきかを考えることが大切となってきます。
大局観や長期的な視野を持ち、物事を考えることが大切です。

2018年08月24日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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IHI/事務機器メーカー大手/パイオニア〜かつて世界に君臨した日本の造船業が、今は見る影もない

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IHI 造船所・愛知工場を閉鎖
事務機器メーカー大手 複合機に「複合不振」
パイオニア 車載特価裏目、再建へ支援要請

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▼かつて世界に君臨した日本の造船業が、今は見る影もない
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IHIは10日、愛知工場で最後の工事となった
液化天然ガス(LNG)タンクの完工式を開きました。
愛知工場は1973年に当時最新鋭の造船所として開設。
造船日本の象徴的存在でしたが、
近年は中国や韓国の攻勢で受注増加が見込めなくなっており、
9月にタンクを引き渡し完全に閉鎖するとのことです。

かつて十数年に渡って造船会社のコンサルティングを
やっていた私にとっても、
これは非常にショッキングなニュースです。
当時は100万トン級の造船ドッグの建設ブームで、
三菱重工業、IHIなどを筆頭に「造船日本」と
言われた時代でした。世界シェアの約50%を
日本企業で占めていました。

ところが、日本国内の労働賃金が上昇し、
ノウハウが海外に流出しました。
現代重工業を中心に韓国勢に取って代わられてしまい、
今ではその韓国勢も中国勢に押されて
守勢に回っている状況になりました。

世界の造船企業別の竣工量を見ると、
まだ韓国勢が上位を占め、現代重工業がトップで、
大宇造船、現代三湖重工業でトップ3になっています。
そして4位に日本の今治造船が入り、
サムスン重工業、JMUと続きます。
JMUはユニバーサル造船
(=日立造船と日本鋼管造船部門)と
IHIマリンユナイテッド
(=IHIと住友重機械工業の関連部門)が
統合した企業です。これだけの会社が
一緒になっても世界6位という状況です。

日本国内では今治造船が1位で、JMUが2位、
名門の三菱重工業は国内でも7位になっています。
日本は造船業界が旺盛の頃、
敢えて過当競争にならないように、
造船ドッグを潰していく時代がありました。
一方の韓国と中国は、収益が伸びているうちに
ボリュームを追求しました。
結果として、この20年間で日本勢は
手も足も出ない状況になってしまった、というのが現状です。

IHIのセグメント別業績を見ると、
ボリュームが大きいのは、資源・エネルギー・環境、
そして航空・宇宙・防衛です。
海洋部門はボリュームも小さく利益も出ていないし、
衰退しています。では、資源・エネルギー・環境などが
牽引してくれるおかげで安泰か?というと、
全くそんなことはありません。
資源・エネルギー・環境部門は売上ボリュームが大きいですが赤字です。

また航空・宇宙・防衛などをメインでやっていけるかも
確証が持てません。会社全体として見たとき、
IHIは非常に運営が難しい状況に置かれていると思います。



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▼デジタル革命の影響による複合機、AV機器業界の苦しさ
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日経新聞は10日、『複合機に「複合不振」』と
題する記事を掲載しました。
ペーパーレス化が進み需要が伸び悩むなか、
トナーなど消耗品で稼ぐモデルにも
影が差し始めていると紹介。
また市場関係者も今後の技術革新や市場拡大は
見込めないと分析しており、
各社は生き残りの道を探り時間との戦いを
続けているとのことです。

以前はパソコンでプリントアウトするというのが
当たり前の光景でしたが、今ではすっかり
そんなことはしなくなり、複合機・プリンター
ニーズが減ってきています。
また、様々なメーカーの機械を統合的に管理する
MPS(マネージド・プリント・サービス)が
幅を利かせるようになってきて、
なおさら厳しい状況になっています。

業界最大手の1つであるキヤノンの
セグメント別業績を見ると、複写機の売上は下降、
イメージングシステム(カメラ等)は
まだ強さはあるものの減少傾向です。
買収したメディカル関連が
ようやく黒字化してきたという状況です。

あれほど収益が高かったキヤノンにしても、
CTなど画像診断装置などで
躍進する可能性はありますが、
現状は非常に苦しい状況です。
富士フイルムなど、このような
逃げ出したくなる業界で
よく米ゼロックスの買収に踏み切ったものだと思います。

キヤノンにしても富士フイルムにしても、
デジタル革命の影響を受けて、
今後しばらくの間、非常につらい思いをすることは
間違いないでしょう。


同じように、スマホにAV機器が吸収されて
衰退していく状況も加速しています。
日経新聞は9日、「車載特価裏目、再建へ支援要請」と
題する記事を掲載しました。
パイオニアは近年、カーナビなど車載機器事業に
経営資源を集中してきましたが、
スマートフォン(スマホ)の普及など需要が急速に減少。
今後は自動運転車のセンサーや
高精度地図の開発に着手する方針で、
そのためにはまず他社からの支援を受け入れ
財務の改善を目指す考えとしています。

AV機器が衰退していく中、GPSのカーナビに
特化したものの、グーグルマップなどに
見事に持っていかれてしまいました。
いまだにトラックに付いている専用の
GPS機能(車の大きさに合わせて道路の選択をする機能など)は
スマホが対応していませんが、
普通の乗用車を運転する限りでは
代替されてしまうでしょう。

パイオニアの業績推移を見ると、
非常に苦しい状況を見て取れます。
売上は3000億円台に減少し、
2014年100億円を超えていた営業利益は
20億円を下回っています。
純損益はすでに赤字に転落していて、
しかも50億円を超えています。
今後も苦しい状況が続いていくと思います。


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※この記事は8月19日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

1973年に当時最新鋭の造船所として開設された
IHIの愛知工場が、9月にタンクを引き渡し、
工場を完全に閉鎖するとしています。

IHIの市場セグメント別の業績では、
航空・宇宙・防衛などはボリュームが大きいものの、
メインでやっていけるかも確証が持てず、
会社全体として見たとき、IHIは非常に運営が難しい状況に
置かれていると大前は指摘しています。

戦略の中でも市場の選択は戦略の中心となり、
どの市場に経営資源を投入するかは重要となります。

選択している産業や市場が衰退をしている場合には、
別の新たな産業や市場を選択していくのか?
はたまた、衰退産業の中でも、伸びているセグメントはあるか?
などを考えることが必要となってきます。

2018年08月03日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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米ゴールドマン・サックス/米ゼネラル・エレクトリック/九州観光〜GEは医療事業を手放すべきではない

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米ゴールドマン・サックス 次期CEOにデービッド・ソロモン氏
米ゼネラル・エレクトリック 照明事業から年内に撤退
九州観光 観光客誘致で戦略的提携

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▼ゴールドマンの収益構造の変化
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米金融機関大手のゴールドマン・サックスは先月17日、
ロイド・ブランクファイン最高経営責任者の後任として、
デービッド・ソロモン最高執行責任者を
指名したと発表しました。ブランクファイン氏の
在職期間は10年を超えていますが、近年は
フィンテックを活用した個人向け融資事業を
立ち上げるなど、新たな収益基盤を構築。
後任のソロモン氏がこれを引き継ぎ、
成長戦略を加速させる考えです。

ゴールドマンのブランクファイン氏が
辞任するというのは、投資銀行業界にとっては
1つのエポックでしょう。
この10年間でゴールドマンは大きく
業態を変えました。10年前は純収入の約7割は
トレーディングでしたが、
今後は機関投資家向けサービスで
牽引していく方向性です。その意味でも、
投資銀行部門で高い利益を出した実績を持つ
ソロモン氏が後任として選ばれたのでしょう。
有名な話ですが、ゴールドマンはかつて、
ニューヨーク本社の現物株式取引部門に
600人ほど抱えていたトレーダーが今では2人になっていて、
トレーディングは機械(AI)が行っています。

当面ゴールドマンが目指すべき存在になるのが、
JPモルガンでしょう。現状、収益で比較すると
JPモルガンが圧倒的に上回っています。
かつては高い収益を誇ったゴールドマンですが、
現在はJPモルガンの方が安定した基盤を
構築していると言えます。ソロモン氏がCEOに就任し、
JPモルガンに追いつき、追い越すために、
どのように収益を伸ばしていけるでしょうか。


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▼GEは医療事業を手放すべきではない
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日経新聞が報じたところによると、
米ゼネラル・エレクトリックが先月20日、
祖業である照明事業から年内に撤退すると
表明したことがわかりました。
7つの主要事業のうち4つを分離・売却し、
電力、航空、再生エネルギーの3部門に集中し、
過去の複合経営と決別し、「シンプルなGE」として
再起する考えとのことです。

私はこの方針に全く納得ができません。
祖業とはいえ照明事業はすでにかなり縮小していますし、
撤退するのも全く問題ないでしょう。
理解に苦しむのは、なぜ再生可能エネルギーを選択し、
医療事業を分離・売却対象とするのか?ということです。

GEのセグメント別業績を見ると、
電力、航空事業は大きく今後も主力事業として
位置づけていくのは頷けます。
しかし再生可能エネルギー事業は、
それほど利益を生んでいません。
再生可能エネルギーに力を入れていく理由がわかりません。
一方で、GEはシーメンス、フィリップスと並び、
世界3大メディカルエレクトロニクスのメーカーです。
MRI、CT、X線などGEは米国の医者の信頼を勝ち得ています。

たしかに医療分野が今後飛躍的に
伸びていくことはないでしょうが、
それでもGEがこの事業から
撤退する理由もないと思いますし、
実際、そうなるとかなり困る人が出てくるはずです。
この事業を諦める理由は私には全く思いつきません。

また、もしGEが発表のとおりに
交通事業も分離・売却対象とするなら、
日立などには買収のチャンスかも知れません。
GEは交通事業で強い領域を持っています。
日立は特に欧州で交通事業に力を入れています。
GEの交通事業を買収できれば、
世界で戦うための大きな武器になる可能性はあります。
日立としては目を光らせておくべきでしょう。


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▼JR九州とアリババの提携の意義/ネット企業の旅行事業参入のKFSは?
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JR九州と中国・アリババ集団は先月23日、
訪日観光客の誘致で戦略的提携を結んだと発表しました。
アリババの旅行予約サイトを通じて
九州の観光地を紹介する一方、JR九州は九州内で
アリババのスマートフォン決済サービス
「支付宝(アリペイ)」の導入を
促進するというもの。2023年度に中国から九州へ
100万人の送客を目指すとのことです。

九州は今、日本で唯一明るい話題で
あふれている地域です。
私は月2回程度九州に行きますが、
目に見える景色が全く東京などとは違います。
ホテルの周辺や商店街など、
出会う人の2人に1人は中国からの観光客です。
JR九州とアリババが手を組むことで、
九州経済はガラッと変わっていく可能性があります。
そしてその九州から、日本全体に対しても
大きな影響があるでしょう。
JR九州とアリババが提携する意義は
非常に大きいと思います。

さて、そのアリババなど中国勢が牽引する
スマホ決済ですが、
日本においてもスマホ決済への流れは
止めることはできないでしょう。
これまでクレジットカードで、
ぬくぬくと利益を上げていた企業にとっては、
デビットカード方式は苦手です。
実現するにはいくつかの課題がありますが、
まずはできるところから実践するしかありません。

また、LINE、DMM、メルカリなどのベンチャー企業が
旅行市場に参入しています。
これはデスティネーションツーリズム
という市場を狙ったものでしょう。
1泊2日程度の短い旅行が多い日本では
あまり馴染みがないのですが、1ヵ月以上など
長い期間旅行する市場のことを言います。
実は、観光の輸出額の規模は、
世界的に見ると自動車産業よりも大きく、
今後も非常に期待できる市場です。

これまで旅行では、ホテル、飛行機、
そして現地のレストランの予約など、
全て縦割りで別々に手配する必要がありました。
エクスペディアなどが統合したサービスの展開を
試みていましたが、なかなか上手くいっていません。
ところが、LINE、DMM、メルカリなどネット企業にとっては、
統合サービスを提供することはお手の物です。

かつて私も辞書のように
分厚いガイドブックを片手に、
欧州を一周したことがあります。
数ドルで泊まれるユースホテルが
紹介されていたり、非常に重宝しました。
今は旅行中も常にスマホで
ネットに繋がっていますから、
これをさらに精度を高めて
実現することができるでしょう。
単に統合サービスとして提供するにとどまらず、
コンシェルジュ的なコンテンツまで
提供してほしいところです。
例えるなら、JTBのエキスパートガイドが
自分のポケットにいるという感覚です。

LINE、DMM、メルカリにとって、
技術的な問題はほとんどないと思います。
重要なことは、内容をどれだけ
エキスパートにできるかということです。
中国人の観光客は、中国人留学生が
百度にアップしている大量の観光情報や案内を
参考にしているそうです。最終的には、
内容をどれだけ充実したものにできるか。
ここができないと片手落ちの
サービスになってしまうでしょう。



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※この記事は7月29日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

米ゼネラル・エレクトリックは、
医療機器や輸送など7つの主要事業のうち4つを分離・売却し、
電力、航空、再生エネルギーの3部門に集中することで、
「シンプルで強固なGEを目指す」と宣言しました。

利益をそれほど生んでいない再生可能エネルギー
を選択し、医療事業を手放す対象とする
ことに対して大前は疑問視をしていますが、
選択と集中を実行する際は、組織の中核となる
事業は何かを見極めることが重要となります。

選択と集中は、経営の効率化や企業価値を高めるなど
メリットがある反面、リスクも伴う戦略となります。

現在の自社の状況や今後の市場成長の予測などを
客観的に分析した上で、意思決定をしていく必要があります。

2018年07月27日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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旭化成/外資系スーパー/ポーラ・オルビスHD/配車サービス/セブン-イレブン・ジャパン〜ウォルマート日本撤退は既定路線

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旭化成 セージ・オートモーティブを買収
外資系スーパー 「黒船」、相次ぐ日本撤退
ポーラ・オルビスHD 内紛泥沼化で汚れるブランド
配車サービス 日本市場参入へ合弁会社設立
セブン-イレブン・ジャパン コンビニ「ちょい生」中止騒動

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▼旭化成の買収は合理的
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旭化成は、自動車の内装材などを製造する
米セージ・オートモーティブ・インテリアズを
約7億ドル(約791億円)で買収すると発表しました。

旭化成は人工皮革の商品などを
セージ・オートモーティブ・インテリアズに納入しているので、
すでに両社に関係性はあるのでしょう。
自動車業界が衰退していく潮流において、
この値段で買収に踏み切ったのは思い切った決断だと思います。
自動運転や電気自動車になっても、
座席などの需要は減るわけではないので、
この買収はある程度合理的だと言えるでしょう。

残念なのは、もう少し早く買収していれば、
それこそ自動車業界の最盛期を謳歌できたでしょう。
買収に合理性は見られますが、
タイミングはもったいない点があると感じます。


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▼ウォルマート日本撤退は既定路線
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時事通信は14日、『「黒船」、相次ぐ日本撤退』と
題する記事を掲載しました。
2000年前後に鳴り物入りで日本市場に参入し、
「黒船」と呼ばれた海外の大手スーパーが
相次ぎ撤退しているとのこと。

カルフールやテスコはすでに撤退しています。
ウォルマートは、撤退の決定はしていないものの、
撤退に向けて動いている事実は確認されています。
コストコやメトロは独自に健闘していて、
特にコストコは根強いファンを獲得しています。
ユニークな商品開発にも成功しています。
そのようなことができなければ、
「Everyday low price」だけでは
生き残れない時代になったということでしょう。

ウォルマートの海外店舗数を見ると、
日本の店舗数は300店を超えていますが、
それでも4年前と比べると、100以上も
店舗数を減らしています。
ブラジルも同様に4年前と比べて、
店舗数を減らしています。
日本もブラジルも撤退するというのは、
当然の流れでしょう。


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▼ポーラの内紛は残念の極み
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ビジネスジャーナルは20日、
「化粧品のポーラ、内紛泥沼化で汚れるブランド」
と題する記事を掲載しました。今年2月、
各週刊誌がポーラ・オルビスのお家騒動を報じました。
鈴木郷史社長の元側近が鈴木氏の不正を暴くメールを
取締役などに宛てて一斉に送信したというもの。
これをきっかけに2000年に亡くなった
ポーラ2代目社長の千壽夫人が、
遺産相続をめぐり鈴木社長を提訴したとのことです。

不正を暴くメールを送信した人という元側近の一人も、
社長になる約束だったのに反故にされた
という話があるとも聞きます。
何ともレベルが低すぎる話で呆れるばかりです。
ポーラ・オルビスは、海外比率は低いものの、
営業利益率も高く、非常に優秀な経営をしていました。
それだけに、残念でなりません。


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▼ライドシェア規制は日本だけではない
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ソフトバンクは19日、中国配車アプリ大手の滴滴出行と
タクシー配車サービスを手掛ける合弁会社を設立したと
発表しました。新会社はスマホアプリで
タクシーを呼ぶことができるサービスを展開する他、
AIを活用しどの場所にどのくらいの乗車需要があるかを
事前に予測するシステムをタクシー会社に提供します。
滴滴出行はアリババから出資を受けていて、
ご存知のとおりそのアリババに
ソフトバンクは投資しています。

孫社長が日本政府による
ライドシェア(白タク)サービスの規制に対して
「こんなバカな国はない」と批判したことが
報じられていますが、これは孫社長の発言が
間違っています。世界の主要国の
ライドシェア(白タク)への
対応状況を見ると、すぐに理解できます。

米国はカリフォルニア州など一部で
許可しているだけで基本的に禁止、
英国・フランス・ドイツ・日本・韓国・台湾・シンガポールは
すべて禁止です。孫社長は日本だけがバカなことを
やっていると批判したわけですが、他の国も同様です。
逆に中国だけが実質無法状態で、
旅客運送に関する法整備が
追いついていないだけです。それゆえ、滴滴出行が
シェアの9割を獲得することができたのです。

私も個人的には市場を開放しても
良いのではないかと感じますが、
今回の発言は別問題です。
滴滴出行、グラブ、ウーバーなど
自分が配車アプリの企業に投資したからといって、
それを正当化するために、
国を批判するのはおかしな話ですし、
経営者としてあるまじき姿勢でしょう。
この点では孫社長ももっと勉強してから
発言するべきだと思います。


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▼セブンイレブンの生ビールサービスは勇み足
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まぐまぐニュースは20日、
『コンビニ「ちょい生」中止騒動。
セブンイレブンは何を誤ったのか』と
題する記事を掲載しました。
セブンイレブンの一部店舗で17日から試験販売が
始まる予定だった「生ビールサーバー」が
想定を大幅に上回る反響で
中止になったとのことです。

コーヒーを販売している横で、
ジョッキで飲めるビールを販売するというのは
非常に魅力的に感じます。
日本はアルコール類の販売について
他の国に比べると規制は緩やかです。
日本に来た外国人の多くは、
自販機でアルコール類が売っていることに驚きます。

しかし、今回のようにコンビニの店内で、
気軽に飲めるような形でアルコール類の
販売をするとなると、未成年者や運転手への販売など
考慮すべきことが多々あります。
セブンイレブンとしても、今回のことは調子に乗りすぎて
事前の調整などを怠って進めてしまったのでしょう。



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※この記事は7月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

2000年前後に鳴り物入りで日本市場に参入し、
「黒船」と呼ばれた海外の大手スーパーが
相次ぎ撤退しています。

コストコやメトロのような、
根強いファンの獲得やユニークな商品開発に成功している
海外の大手スーパーもありますが、
「Everyday low price」だけでは、
生き残れない時代になったと大前は指摘しています。

将来の環境を見通して、今後どのような市場が伸びるのか、
どういう差別性をとればよいのかを考えることは非常に重要です。

どこまで将来を見通すかは業界によって変わりますが、
ベースとなる環境変化を合理的に想定しておくことが大切です。

2〜3つ違う未来を予想し、それぞれの未来について話し合うだけでも、
その環境が出現したときに素早く対応することができます。

どのような差別性をとればよく売れるのか?
今後、競合に勝つための事業のKFSはなにか?
など、競合より先を見通すことが重要です。

2018年07月20日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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民泊/在日外国人/財政健全化〜外国人観光客を4000万人レベルで受け入れるには、民泊以外の道はない

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民泊 民泊営むと課税4倍も
在日外国人 日本で暮らす外国人が過去最多
財政健全化 中長期の経済財政試算提示

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▼外国人観光客を4000万人レベルで受け入れるには、民泊以外の道はない
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日経新聞は7日、「民泊営むと課税4倍も」と題する記事を
掲載しました。これは民泊新法が6月15日に施行され、
民泊が本格的に解禁されたものの税金については
注意が必要だと指摘しています。民泊で得た収入は
「雑所得」となるため、他の所得区分と損益通算が
できないことや居住する家の半分以上を
民泊で使用する場合、固定資産税の特例措置が受けられず、
場合によっては納付税額が4倍以上になることも
あるとのことです。

民泊新法が制定されても、
税金の問題については浮いていましたが、
正直、ここまで「いじめる必要があるの?」
と言いたくなります。不動産所得ではなく、
雑所得とするため赤字が出たときには損益通算ができない、
半分以上を民泊として利用すると
居住用として認められないため、
固定資産税や相続税の軽減措置が適用外となる、
など厳しすぎると感じます。

そもそも、インバウンド(訪日外国人旅行)を
3000万人、4000万人に増やしたい、ゆくゆくは
6000万人まで増やしたいと言っておきながら、
このような対処をするのは矛盾しています。
インバウンドを3000万人、さらには6000万人まで
増やす唯一の道は、民泊です。

新しい民泊などを叩くばかりで、結局のところは、
大したこともやっていない既得権益の旅館やホテルを
守ろうとしているだけです。既存の旅館やホテルだけでは、
1900万人までしか対応できないことは既に判明しています。
本当にインバウンドを3000万人、4000万人、
あるいはそれ以上受け入れたいなら、その体制を整えるべきです。

将来に対する正しい道を示せていないという点では、
日本で暮らす外国人の数においても同様で、
政府の行き当たりばったりの対応が見て取れます。
総務省が11日発表した人口動態調査によると、
日本で暮らす外国人の数が1月1日時点で
249万7000人と過去最多を更新しました。
全国で最も増加率が高かったのは、
北海道夕張市で訪日客への対応強化のため、
観光施設での採用が増えたことが背景にあります。

ポリシーもルールもないままに人数だけが増えてきて、
すごい状況になってきています。
外国住民の比率は、東京都全体で見ると約3.8%ですが、
一部の区では異常に高い水準になっています。
新宿区の外国人比率は、20〜24歳では約62%に達します。
15〜30歳で見ても、約30%が外国人です。
新大久保や大久保だけではなく、
全体的に外国人が増えています。
そして、東京都全体で見ても10代に限れば、約1割が外国人です。


─────────────────────────
▼2025年でもプライマリーバランスは黒字化の見通しなし
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内閣府は9日の経済財政諮問会議で、
中長期の経済財政に関する試算を示しました。
これは今後高い成長率が続いても、
国と地方を合わせた基礎的財政収支は2025年度に
2兆4000億円の赤字となり、政府が目標とする黒字化には、
同程度の歳出削減か歳入の増加が必要としたもので、
これを受けて安倍首相は茂木経済再生担当相に対し、
目標達成に向けて歳出削減の工程表を取りまとめるように
指示したとのことです。

プライマリーバランスは2020年に黒字化の予定でしたが、
いつの間にか2025年に変更になっています。
その2025年でさえも、2兆4,000億円も
足りないというのですから、まったく話になりません。
2025年に黒字化するためには、
政府が定めた「成長実現ケース」としての
経済成長が見込まれています。
その「成長実現ケース」では、GDP成長率が
毎年3%と定めているのですから驚きです。
何を根拠に毎年3%のGDP成長率を
見込めるというのでしょうか。

はっきり言えば、役人も政治家もわかった上で
嘘をついているとしか思えません。
今一時的に税収が増えていますが、その増えた税収を
借金返済に使うという話にはなっていません。
私に言わせれば、選挙を見据えた
「無駄遣い」の議論ばかりを繰り返しています。

2025年になってもプライマリーバランスを
黒字化できないのは明白です。
そして、GDP成長率が2%以下では、
永遠に達成することは不可能でしょう。
しかし、この本音を言った途端に
日本の国債が暴落してしまいます。
GPIFも日銀も、内部から爆発することになり、
とんでもない状況を招いてしまうことになります。

GDPに対する国債の割合でみると、
日本は最悪でイタリアよりも悪い状況です。
一般会計歳出の内訳を見ると、社会保障費が
約33兆円あります。この費用は膠着化していて、
なかなか減らすことができません。
減らすとなると、高齢者の反発にあって
選挙に影響することになります。

公共事業などの費用は削減傾向にありますが、
国債費と社会保障費という膠着化して減らせない費用で
約50%に達していますから、
日本の財政はかなり危機的な状況だと思います。


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※この記事は7月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、民泊の話題を中心にお届けいたしました。

民泊新法が6月15日に施行されました。

民泊が本格的に解禁されたものの税金については
場合によっては納付税額が4倍以上になったり、
赤字が出た時には損益通算が出来ないなど、
インバウンドを増やしたい政府の意向と
矛盾した対処となっていると大前は指摘しています。

選択した解決策の効果や影響を考えなければ、
本末転倒になる恐れがあります。

影響の連鎖の探求を行った上で、
何に取り組むべきなのかを取捨選択する必要があります。

2018年07月13日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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メキシコ大統領/米朝関係〜北朝鮮の本性が再び。金王朝崩壊後のシナリオは?

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メキシコ大統領 ロペスオブラドール氏が勝利
米朝関係 「アメリカ側の態度は遺憾」

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▼メキシコ新大統領には、トランプ大統領の牽制などを期待したい
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メキシコ大統領選挙が1日行われ、新興左派の野党、
「国家再生運動」のアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドールが
2位に大差をつけて勝利しました。
ロペスオブラドール氏は米トランプ大統領にも通じる
ポピュリズムの政策を主張、規制政治の打破を訴え、
汚職や治安悪化に対する国民の不満を取り込みました。

ロペスオブラドール氏は、
左派のトランプ大統領と言われる人物です。
基本的な主張はほぼ同じで、ロペスオブラドール氏の場合は
「メキシコファースト」が主張の柱になります。
知名度は高かったのですが、
これまで2度大統領選には敗北してきました。
今回は「メキシコファースト」の主張を軸に、
トランプ大統領を批判することで、選挙に勝ちきりました。

ロペスオブラドール氏が見事に53%の得票率を獲得しました。
ロペスオブラドール氏が大統領になったことで、
めずらしくトランプ米大統領の腰が引けています。
「おめでとう、一緒に仕事をできることを楽しみにしている」
という趣旨のことをTwitterで発言しています。

ロペスオブラドール氏が大統領になることで、
トランプ大統領の牽制につながると思います。
また、北米自由貿易協定(NAFTA)を維持するためにも、
重要な役割を果たしてくれるかも知れません。

OECDのジニ係数を見ると、
メキシコはチリに次いで高い水準となっていて、
貧富の格差が激しくなっています。
石油の埋蔵量も生産量も減ってきています。
代わりに自動車産業など期待できる分野もあります。
国別のメキシコへの直接投資を見ると、
米国が圧倒的にナンバーワンです。
貿易相手国でも、輸出入ともに米国がトップ。
輸入は中国、日本と続きます。

メキシコへの直接投資が大きいということは、
すなわち、米国企業がメキシコに来て
ビジネスを展開しているということです。
この事実をトランプ大統領は正しく認識せず、
メキシコを批判しています。

ロペスオブラドール氏は大統領になって、
汚職や麻薬などの腐敗にメスを入れることを公言しています。
メキシコは今回の選挙期間中にも、
約130人の政治家や立候補者が殺害されています。
メキシコという国は、本当に危険な国です。
ロペスオブラドール氏にとっても、
大変なことは多いと思いますが、
トランプ米大統領への姿勢も含め、
期待してみたいと思います。




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▼北朝鮮の本性が再び。金王朝崩壊後のシナリオは?
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北朝鮮外務省は7日夜、
非核化を巡って平壌で行った2日間にわたる
米朝高官協議に関して「米国側の態度は遺憾極まりない」
とする報道官談話を発表しました。
北朝鮮側が米朝間の交流拡大や
朝鮮戦争の終戦宣言などを変更して扱うことを
提案したのに対し、米国側は完全で検証可能かつ
不可逆的な非核化(CVID)などに言及し、
「一方的で強盗のような非核化要求だけを持ち出した」
と非難しています。

ようやく私たちがよく知っている北朝鮮が戻ってきた、
と感じます。シンガポールでの両首脳会談では
表面的なことしか語られませんでした。
トランプ大統領としてのパフォーマンスとしては
良かったのかもしれませんが、その後はそうはいきません。
具体的なことを話していかなければ、何1つ前に進みません。

今回その役割を担ったのはポンペオ米国務長官でした。
北朝鮮側はポンペオ氏を相手にしない、
という姿勢を見せています。
しかし、ポンペオ米国務長官がやらなければ、
ボルトン大統領補佐官が登場するでしょうし、
背後にはマティス国防長官が控えています。
北朝鮮の思惑通りにはいかないでしょう。

シンガポールでの首脳会談を受けて米国内のマスコミからは、
北朝鮮はまた騙すつもりだ、という指摘がありました。
ポンペオ氏としても、
より具体的な指摘をしていくしかない状況です。
それゆえ、非核化のプロセスやステップを明確にし、
どのような順序で進めていくのかを明示しろ、
という話になったのだと思います。

具体的に言えば、第三者が検証できるように、
北朝鮮が保有する核開発の施設、
開発リストをすべて提出すること。
完成したと言われる核弾頭は20基あると言われていますが、
責任を持ってそれらを破壊するので、
すべて引き渡すこと、など。

このような具体的な話になると、
北朝鮮は「強盗のような要求だ」と非難してきます。
北朝鮮がどのような国なのか、
ということをあらためて十分に理解できたはずです。
トランプ大統領は、話題を提供することしか頭になく、
具体的に話を進めることは何1つ考えていません。
結局、具体的に落とし込もうとすれば、
すぐに北朝鮮は態度を変化させますし、
関係性も悪化します。

シンガポールでの首脳会談は曖昧なまま終わりましたが、
唯一期待できるのは、トランプ大統領は金正恩氏に
「何かあったら、直接電話しろ」と、
自身の携帯電話の番号を伝えたと言われていることです。
もしこのまま事態が進み、
金正恩氏がトランプ大統領に直接相談しなければ、
トランプ大統領のことですから、
「相談がなかった」ということで
強硬手段に出る可能性も大いにあります。
本来なら、シンガポールの首脳会談で
もっと具体的に話を詰めておくべきですが、
今はこのトランプ大統領への直接電話という切り札が、
北朝鮮の抑止力になってくれることを期待したいところです。

もし北朝鮮の金王朝が崩壊するとしたら、
どのようなことが予想できるでしょうか。
韓国、中国、ロシアはが虎視眈々と
その機会を狙っていると思います。
韓国は南北朝鮮の統一をすぐには望んでいないでしょう。
統一すれば、韓国側の財政負担が大きいからです。
一人あたりGDPで1000ドル未満の国と、
2万ドル近い国では差が大きすぎます。
この差がある程度埋まるまでは、
植民地のように安い値段で労働力を活用し、
自国の力をつけることに専念するはずです。

中国もすでに人件費は北朝鮮より高くなっているので、
北朝鮮が倒れたら、その安い労働力を活用したいと考えているでしょう。
ロシアも極東ロシアの開発で人員が足りておらず、
北朝鮮の労働力を手に入れたいという思惑です。

隣国はすべて北朝鮮の崩壊を絶好の機会として狙っており、
邪魔なのは金王朝だけという状況になっています。
そして崩壊しても、北朝鮮国民は職もあるし、
恐怖から開放されて安心して過ごせるはずです。
その後、段々と生活レベルが上がってきて、
韓国と同じレベルの待遇を求めるようになってきたら、
ドイツのように統合する道が見えてきます。
かつてドイツのコール首相は西ドイツを主力として、
統合を実現しました。これは大英断だったと私は思います。
韓国と北朝鮮が統合するなら、
誰かがかつてのコール首相の役割を果たす必要があるでしょう。



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※この記事は7月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、米朝関係の話題を中心にお届けいたしました。

非核化を巡り、米朝高官会議が平壌で行われました。

シンガポールの両首脳会談で、
非核化の共同声明にサインした北朝鮮。
しかし、具体的な話になった今回の米朝高官協議に関しては、
「強盗のような要求だ」と態度を変化させました。

これに対して大前は、シンガポールの首脳会談では
トランプ大統領のパフォーマンスとしてはよかったかもしれないが、
非核化に向けて具体的な話をしていかなければ
前には進まないと指摘しています。

記事中で、非核化のステップなどを
具体的に提示していますが、
問題解決にあたっては、課題を定義した上で
一つ一つのステップに取り組む必要があります。

問題解決のステップを具体的に進めていくことで
大きな成果につながります。

2018年07月07日(土) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
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安倍内閣 〜安倍政権は、何1つとして政策の成果を上げていない

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安倍内閣 支持率52%、不支持率42%

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▼安倍政権は、何1つとして政策の成果を上げていない
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日本経済新聞社が6月末に行った世論調査によると、
安倍内閣の支持率は前月比10ポイント上昇し
52%となったことがわかりました。
一方、不支持率は11ポイント低下し、42%に下がり、
4ヶ月ぶりに支持が不支持を上回りました。
支持の理由としては、「国際感覚がある」「安定感がある」
「指導力がある」などが挙がったとのことです。

現在、大きく支持に傾いているように聞こえますが、
3年前にも似たような状況がありましたし、
支持と不支持は拮抗している状況です。

「国際感覚がある」と言っても、政府専用機を使って
海外に出掛けていく回数は多いものの、
取り立てて成果は上がっていません。
「安定感がある」というのも、
私に言わせれば「森友・加計問題」において、
堂々とブレずに嘘を突き通す安定感はありますが、
皮肉以外の何物でもありません。

今の安倍政権は何1つ、今の日本が抱えている
本当の問題に手を付けていません。3本の矢、憲法改正など、
次々と口先だけの発表をしていますが、何1つ形になっていません。
今は働き方改革やIR法を取り上げて重要法案などと言っていますが、
冗談もほどほどにしてほしいと思います。
これらが今の日本にとって重要法案のはずがありません。
もっと日本にとって重要な問題は山ほどあります。

中央集権の体制を克服し、どのように地方に権限を与えるのか、
という問題。労働人口が圧倒的に足らず、毎年減っているという問題。
AIを始めとした新しい領域における人材が育っておらず、
以前にも増して国際競争力を失っているという問題。

過去の首相の成功事例を振り返ると、
こうした重要な問題に対してシングルイシューで取り組むことが
必要だと私は思います。池田勇人元首相の所得倍増計画、
田中角栄元首相の日本列島改造論、
中曽根康弘元首相の三公社の民営化など、
1つのことに絞って徹底的に実行しました。
小泉純一郎元首相の郵政民営化も同様でしょう。
小泉進次郎氏が進めていた農業改革に私は期待していましたが、
農協の民営化に対して手綱を緩めてしまいました。
残念ながら、父親のように徹底することはできないようです。


それでも、今回の調査で国民が安倍政権を
「支持する」割合が高かったというのは、
文科省の勝利かも知れません。
先生の言うことを忠実に聞く、
という教育が徹底された結果とも言えるでしょう。



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▼野党が奮起しなければ、自民党は長期政権・独裁化の道を歩む
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しかし一方で、安倍政権が信用され支持を受けているのではなく、
野党がだらしなく空中分解している結果という見方もあり、
私もまさにそう感じています。実際、世論調査の結果では
「支持政党なし」が約30%になっています。
この人たちは「都市型のサイレントマジョリティー」です。

民主党や民進党の調子が良かった時代には、
彼らを取り込むことに成功し、いわゆる、
「1区現象」を引き起こしました。
そして、政権奪取にまで成功しました。
しかし、その政権運営があまりに酷すぎました。
それが未だに影響しています。

あのときの失政を認めて反省し、
国民に詫びた上で新しい態度を示さない限り、
民主党などの野党が再び力を持つことは難しいと思います。
小池都知事が優勢だと思えば、
踏み絵を踏んで希望の党に身を寄せ、
小池都知事の人気に陰りが見えれば、
手のひらを返したり、このようなことを繰り返していて
国民から支持されるわけがありません。

今の自民党ではダメだと思っている国民は多いはずです。
「森友・加計問題」への対応などを見ていても、
自民党は嘘ばかりを並べ立てて、国民も野党も
バカにしています。そのような状況を
許してしまっていることが、最大の問題の1つです。

9月に総裁選が予定されていますが、
再び安倍首相が選ばれるとなると、
さらに状況は悪化していくことになると思います。

長期政権で独裁化し、掲げた政策は何1つとして
まともに完了せず、空中分解で成果ゼロ。それでも、
それを追求し指摘するマスコミはほとんどいません。
マスコミも、手痛いしっぺ返しを恐れていて、
「長いものには巻かれろ」という姿勢になっているからです。
特に、産経新聞と読売新聞はそのように感じます。

朝日新聞と毎日新聞は、若干、抵抗していますが、
それも限界が見えています。朝日新聞が最後のあがきで、
「森友・加計問題」関連の資料を掲載していますが、
最終的には黙認したまま力技で押し切られることになりそうです。

自民党と共に政権を担っている公明党にしても、
かつては明確な役割や思想がありました。
しかし、政権政党の旨味を味わった今、
真っ向から自民党を批判することはできず、
やはり「長いものには巻かれろ」状態です。
自民党からすれば、最も御しやすい党に成り下がってしまいました。

今の自民党への支持は、本当の意味での支持ではなく、
野党の失速が生み出してしまったものです。
このままでは、長期政権・独裁化という道を
自民党は進んでいくでしょう。
野党は過去を反省した態度を国民に示し、
野党としての役割を果たしてもらいたいと強く思います。


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※この記事は7月1日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
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今週は、安倍政権の話題を中心にお届けいたしました。

日本経済新聞社が6月末に行った世論調査によると、
安倍内閣の支持率は52%、不支持率は42%となり、
4ヶ月ぶりに支持が不支持を上回りました。

「国際感覚がある」「安定感がある」「指導力がある」
などが支持理由として挙げられたとのことですが、
大前は記事中で、今の安倍政権は、労働人口減少など、
今の日本が抱えている重要な問題に手を付けておらず、
何1つとして政策の成果を上げていないと指摘しています。

問題解決に取り組むにあたって最も重要なことは、
目の前に起きている問題をやみくもに対処するのではなく、
「何を解決すべき課題とするのか」を決めることです。

記事中でも、過去の首相の成功事例を大前が紹介していますが、
本質的な問題を徹底的に分析した上で、
解決策の立案や解決策の実行に取り組むことが大切です。

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