2018年09月21日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

日ロ関係/米中ロ関係〜プーチン大統領といち早く平和条約を締結することが、安倍首相の唯一最大の貢献

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

日ロ関係 一切の前提条件設けず日ロ平和条約締結を提案
米中ロ関係 プーチン氏、打算の中国接近

─────────────────────────
▼北方4島について、日本政府はずっと国民を騙している
─────────────────────────
ロシアのプーチン大統領は12日、安倍首相に対して、
一切の前提条件を設けずに2018年末までに
日ロ平和条約を締結するよう提案しました。
これは安倍首相が平和条約や領土問題の解決について
「アプローチを変えなければならない」と述べたのに対し、
プーチン大統領が賛同したもので、
まず平和条約を締結した上で
友人同士として意見の隔たりがある問題について
解決していこうというものです。

このプーチン大統領の提案について、日本のマスコミは
「なぜ安倍首相は反論しないのか?」と指摘していますが、
安倍首相としては「真実」を理解しているだけに
歯がゆい思いをしていることでしょう。
河野外相は日本とロシアの北方領土に関する真実について、
どこまで理解しているのかわかりませんが、
安倍首相はプーチン大統領との20回を超える
ミーティングなどを通して理解しているはずです。

日本の方針は
「北方4島の返還を前提にして平和条約を締結すること」
であり、これは以前からずっと変わらないもの。
菅官房長官などもこの趣旨の発言をしていますが、
そもそもこの認識が間違いであり、
日本政府がずっと隠してきている「嘘」なのです。

ロシア側の認識は
「北方4島は第二次大戦の結果、ソ連に与えられたもの」であり、
日本は敗戦国としてその条件を受け入れたわけだから、
固有の領土かどうかは関係がない、というもの。
ラブロフ外相もプーチン大統領も、
このような見解を示しています。
そして、このロシア側の主張が「真実」です。

終戦時にソ連と米国の間で交わされた
電報のやり取りが残っています。
ソ連のスターリンが北海道の北半分を
求めたのに対して、米国側は反発。
代わりに北方4島などをソ連が領有することを認めました。

この詳細は拙著「ロシア・ショック」の中でも紹介していますが、
長谷川毅氏の「暗闘」という本に書かれています。
米国の図書館などにある精密な情報を研究した本で、
先ほどの電報などをもとに当時の真実を
見事に浮かび上がらせています。

すなわち、北海道の分割を嫌い、
北方4島をソ連に渡したのは米国なのです。
今でもロシア(ソ連)を悪者のように糾弾する人もいますが、
犯人は米国ですからロシアを非難すること自体がお門違いです。

さらに言えば、日本が「北方4島の返還を前提」
に固執するようになったのも、米国に原因があります。
1956年鳩山内閣の頃、重光外相がダレス国務長官と会合した際、
日本はソ連に対して「2島の返還を前提」
に友好条約を締結したいと告げました。
しかし、ダレス国務長官がこれを受け入れず、
「(ソ連に対して)4島の返還」を求めない限り、
沖縄を返還しないと条件を突きつけました。

つまり、米国は沖縄の返還を条件にしつつ、
日本とソ連を仲違いさせようとしたのでしょう。
この1956年以降、日本では「北方4島の返還」が前提になり、
それなくしてロシア(ソ連)との平和条約の締結はない、
という考え方が一般的になりました。
1956年までの戦後10年間においては「4島の返還」
を絶対条件とする論調ではありませんでしたが、
この時を境にして一気に変わりました。


─────────────────────────
▼プーチン大統領といち早く平和条約を締結することが、安倍首相の唯一最大の貢献
─────────────────────────
今回のプーチン大統領の提案に対して、
マスコミも識者も随分と叩いているようですが、
1956年以降日本の外務省を中心に
政府がずっと国民に嘘をついてきた結果、
真実を理解せずに批判している人がほとんどでしょう。
プーチン大統領の提案は理にかなっています。
日本政府の「嘘」を前提にするのではなく、
とにかくまず平和条約を締結することから
始めようということです。

プーチン大統領の提案通り、まず平和条約を締結すれば、
おそらく「2島の返還」はすぐに実現すると思います。
残りの2島については、折り合いがつくときに返還してもらう、
というくらいで考えればいいでしょう。
相手がプーチン大統領であれば、
このように事を運ぶことはできるでしょうが、
別の人間になったら「1島」も返還されない可能性も大いにあります。

今、安倍首相は「とぼけた」態度を貫いています。
真実を理解しながらも、周りにはそれを知らず
理解していない人も多いでしょうし、
長い間日本を支配してきた自民党が国民に嘘をついていた
という事実をどう説明するか、
など悩ましい状況にあるのだと思います。

安倍首相に期待したいのは、
ロシアに対して経済協力などを続けながら、
とにかくいち早くロシアとの平和条約を締結して欲しい、
ということです。今回の自民党総裁選に勝利した場合、
それが実現できれば、安倍首相にとって唯一にして
最大の貢献になると私は思います。

北方4島の全てが返還されなくても、
それによってどれほどマスコミから叩かれても、
安倍首相とプーチン大統領の間で、
平和条約の締結を実現すべきです。
菅官房長官などは知ったかぶりをして、
4島返還について日本政府の方針に変わりはない
などと発言していますが、全く気にする必要はありません。
プーチン大統領の次を誰が担うのかわかりませんが、
仮にメドベージェフ氏が大統領になれば、
2島返還ですら絶対に容認しないでしょう。
プーチン大統領が在任中にまず平和条約を締結することは、
極めて重要だと私は思います。

というのも、中国がロシアに接近しつつあるので、
ロシアにとって日本の必要性が低下し、
このままだと日本にとってさらに厳しい状況になるからです。
今回の東方経済フォーラムを見ていても、
プーチン大統領と中国は明らかに接近したと私は感じました。

中国は巨大な人口を抱える東北三省の経済状況がよろしくありません。
その対策として、極東ロシアへの投資に向けて動いています。
中国とロシアの国境を流れる黒竜江(アムール川)をまたいで、
現在両国を結ぶ橋を建設しています。
中国側とロシア側でそれぞれ資金を出し合っていて、
橋の建設には中国の技術が活用されています。

中国とロシア間の動きが活発化し、
中国から極東ロシアへの投資が拡大すると、
その貢献度はかなり大きなものになります。
今回、安倍首相とプーチン大統領で見学に行った
と言われているマツダのエンジン工場のレベルではないでしょう。
また中国とロシアは、同じく米国にいじめられている立場として、
ボストーク2018で巨大な軍事演習を予定しています。

日本も目を覚まさないと、全て中国に持っていかれてしまいます。
少なくともプーチン大統領は内心では親日派なので、
今のうちに早く動くべきです。最後にもう1度述べておきます。
安倍首相には、自民党総裁選に勝利したら、
どんな批判を受けても悪役になろうとも、
何が何でもロシアとの平和条約の締結を
実現させて欲しい、と思います。


---
※この記事は9月16日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、日ロ関係の話題を中心にお届けいたしました。

安倍首相に対して、一切の前提条件を設けずに
2018年末までに日ロ平和条約を締結するよう
提案したロシアのプーチン大統領。

これに対して大前は、
どんな批判を受けても悪役になろうとも、
何が何でもロシアとの平和条約の締結を
実現させて欲しい、と言及しています。

交渉はビジネスを行う上で、
避けては通れない永遠のテーマであり、
交渉は双方の問題解決を目指した対話です。

「勝ち負け」として捉えられがちな交渉ですが、
駆け引きによって勝ち負けを決定するコンテストではなく、
当事者双方が意思決定者になり、
双方に納得感のある交渉こそがよい交渉です。

論理的な思考と明瞭な表現を行い、
相手の主張や考え方を知るための積極的な傾聴や
事前準備を十分に行うことによって、
交渉力を高めることができます。

2018年09月14日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

信越化学工業/日本電産/米エアビーアンドビー/クックパッド〜信越化学工業の金川氏、日本電産の永守氏。日本を代表する経営者の手腕

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

信越化学工業 シリコーン5割増産へ
日本電産 「永守流」分権型シフト
米エアビーアンドビー 別府市旅館ホテル組合と提携
クックパッド ウミーベを買収

─────────────────────────
▼信越化学工業の金川氏、日本電産の永守氏。日本を代表する経営者の手腕
─────────────────────────
信越化学工業は3日、車の樹脂部品や化粧品などに
幅広く使うシリコーンの生産を増強するため、
日本、米国、タイなどの工場設備に
1100億円を投じると発表しました。
シリコーンは増産していた中国勢が
環境規制で工場の操業を停止したほか、
米国が中国に追加で制裁関税を課したことで
価格が上昇するなど需給がひっ迫しています。
信越化学はこれらに対応するため、
世界の拠点から供給できる体制を
整える考えとのことです。

信越化学工業といえば、金川千尋氏が90歳を超えて
代表取締役会長を務めています。
最高齢の経営者の一人であり、
今回の対応然り、今なお鋭い経営判断力を
持っていると思います。
信越化学工業の業績を見ると、
塩ビ・化成品、半導体シリコン、電子・機能材料、シリコーンなど
いずれの部門でも利益が出ていて、
また全てが前年を上回っています。
特に、塩ビ・化成品、半導体シリコンの
2つの部門の伸びは素晴らしい状況です。

米トランプ大統領が騒ぐために、米国でシェールガスを使った
塩ビ新工場を設立するなど、柔軟に対応しています。
塩ビ事業は、良い時と悪い時が非常にはっきりしていて
難しい局面もあるはずですが、見事に乗り切っています。
限界サプライヤーであれば憂き目を見る一方で、
トップサプライヤーとして安定しています。

90歳を超えても、周囲から金川氏に対する辞任要求などの話は
聞いたことがありません。
米トランプ大統領への対応なども含め、
不連続リスクを抱えない経営手腕は見事だと感じます。


日経新聞は4日、『「永守流」 分権型シフト』と
題する記事を掲載しました。
日本電産はドイツの産業ロボット部品メーカー、
MSグレスナーを買収すると発表しました。
今回は子会社の日本電産シンポが
買収を主導するとのことで、
世代交代や事業規模の拡大をにらみ、
「永守流」経営を伝授しながら
権限を委譲する新たな段階に入ったとしています。

永守氏と言えば、これまでに60社を超える企業を買収し、
その全てを黒字化させたという驚くべき実績を持っています。
一般的に、M&Aの成功率は10〜15%程度ですから、
60社全てが黒字化というのは世界でも例を見ません。
さらに、全てを1年以内に黒字化させているのですから驚異的です。

日本電産の売上高を見ると、
主力事業の精密小型モータなどは伸び悩んでいます。
ゆえに、車載・家電などその他あらゆる事業を
付け加えていかないと、
永守氏が目指す成長は達成できないでしょう。
1兆円を達成し、次は2兆円を目指すということですから、
M&Aしか実現の道はありません。
今回のグレスナー買収も、その一貫です。

日産自動車から日本電産へうつり、
2社の企業再生に携わった川勝宣昭氏の話を聞く機会がありました。
川勝氏曰く、日産が10年単位で考えるようなことを
日本電産ではその何分の1で
実行するように求められる、とのことでした。
買収した会社に、「一人で行って立て直してこい」
「しかも1年以内に黒字化」と言われるのです。

川勝氏が言うには、永守氏は相当細かいところまで
要点を詰め指示を出すそうです。
私もそこまで細かい点について指示をしていたとは、
初めて知って驚きました。
日産では10年かかっていたかもしれない企業の立て直しも、
永守氏のプレッシャーのもとで「永守流」でやってみたら
2社とも1年で黒字化できたということでした。

今回買収を発表したグレスナーの傘下には6社が入っています。
1社ずつ別の人間に担当させるのかも知れませんが、
今まで以上にハードルが高く、
新しいチャレンジになると思います。
これまで通り、見事に成功をおさめるのか楽しみです。

「永守流」が素晴らしい成果をあげている一方で、
永守氏が居なくなった後、
同じように細かい視点を持って指示できる人はいるかどうか。
これは非常に難しいところだと思います。



─────────────────────────
▼エアビーアンドビーが、一時的に民泊法を回避する手段に出た
─────────────────────────
米エアビーアンドビーは先月27日、
別府市旅館ホテル組合連合会と提携したと発表しました。
別府市は2019年に開催される
ラグビーワールドカップの公認キャンプ地となっており、
宿泊施設のエアビーアンドビー登録で
海外からの集客の拡大につなげたいとのことです。

日本では民泊法が施行されてから、
エアビーアンドビーへの登録は激減していました。
一方で、エアビーアンドビーのシステムは
よく出来ていますし、海外からの旅行者は変わらず
エアビーアンドビーを利用したいと思っている人が多いのです。

そうであれば、伝統的なホテルや旅館も
エアビーアンドビーを経由して、
一般旅行客を取り込んだ方が早い、ということになります。
旅行会社と提携しても、さほど集客効果がないことも多いですから、
エアビーアンドビー経由のほうが確実です。
別府市旅館ホテル組合連合会には
111軒の旅館やホテルが加盟しているそうですから、
結果がどのようになるのか、
私としても非常に興味があります。

エアビーアンドビーとしては、日本において
一時的に民泊法を掻い潜るための方法だと思います。
私に言わせれば、民泊法自体が理不尽なもので、
いずれは民泊を認可するようにならなければ
3000万人を超える外国人観光客を受け入れる体制は整いません。
以前、訪日外国人観光客数が3000万人を超えたときには、
エアビーアンドビーで600万人を吸収しました。
日本としては、普通に民泊ができるように
前向きに進んでいくべきです。



─────────────────────────
▼クックパッドと連携し、釣り情報サイトの圧倒的ナンバーワンの地位を目指す
─────────────────────────
クックパッドは先月24日、
釣り情報サイト「ツリホウ」などを運営する
ウミーベを買収したと発表しました。
ウミーベは渡部一紀CEOが2014年に創業。
月間200万回以上閲覧されるサイトをわずか4日で作り上げました。
クックパッドは渡部氏の手腕を評価し、
今回の買収に至ったとのことです。

クックパッドは主に主婦や独身の人が、
閲覧・引用する回数が多いメディアサイトです。
このメディアから釣り情報サイトに
アクセスを流すこともできるでしょう。
釣り情報サイトは、まだ圧倒的なメディアサイトが
誕生していないので、クックパッドと連携させることで
一気に地位を確立することを狙えます。

逆に釣った魚などをどのように料理するのかという視点で、
クックパッドを強化することもできるので、
いろいろな形でシナジーを発揮できる可能性があります。

2018年09月07日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

トヨタ自動車/米ウーバー・テクノロジーズ/米テスラ〜EVでトヨタのサプライチェーンが大きく変わる

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

トヨタ自動車 自動運転の制御技術外販へ
米ウーバー・テクノロジーズ ウーバーに約550億円出資
米テスラ 株式非公開化計画を撤退

─────────────────────────
▼EVでトヨタのサプライチェーンが大きく変わる
─────────────────────────
トヨタ自動車は先月24日、電装品、駆動部品、
ステアリング、ブレーキなどそれぞれを主軸とする
グループ4社が年内にも新会社を設立し、
トヨタの研究所で開発したAIやソフトウェアなどを
市販車に搭載させる役割を担うとのことで、
グループで制御システムの一貫体制を整え
世界の大手メーカーなどに供給する考えです。

トヨタグループ4社とのことですが、
新会社への出資比率を見ると、
デンソー:65%、アイシン精機:25%、
アドヴィックス:5%、ジェイテクト:5%となっています。
実質的にはデンソーを中心とした
EV対応のための新会社と見て良いでしょう。

EVになると、必要とされる部品や技術がガラリと変わります。
燃料噴射装置、エアクリーナー、
オイルフィルターなどの「エンジン部品」。
スターターモーター、オルタネーターなどの「電装部品」。
そして、フロントアクスル、リアアクスル、
プロペラシャフトなどの「駆動系部品」は
EVになると全て不要になります。
一方で、電極液、セパレーターなどの「リチウムイオン電池」や
モーター、インバーターなどの
「機電一体電動パワートレイン」などが必要になります。

必要とされる部品や技術が変わるため、
業界全体も大きく変わらざるを得ません。
これまではトヨタを頂点とする内燃機関を中心の
サプライチェーンが機能していましたが、
新しいサプライチェーンを再構築する必要があります。
そのための母体となる組織を作るのが、
今回の新会社設立の一番大きな目的でしょう。

中国の自動車メーカーのように、
過去に構築したピラミッド組織(サプライチェーン)が
存在しないほうが、今存在するものを
捨て去る必要がありませんから、
このEV化の波に対応しやすいはずです。
トヨタはこれまでのものを捨て去って、
命がけでも新体制の構築を
成し遂げなければならない状況になっています。



─────────────────────────
▼顧客とのつながりを持てていないメーカーの弱さ
─────────────────────────
トヨタ自動車は先月28日、米ウーバー・テクノロジーズに
5億ドル(約550億円)を出資すると発表しました。
トヨタは2016年にもウーバーに出資し、
すでにライドシェア事業で協業していますが、
今回の提携で自動運転車の開発にも踏み込み、
米グーグル系のウェイモに対抗する考えです。

おそらく今後、トヨタが自動運転の車を開発したら、
それもウーバーに提供していくことになると思います。
なぜ巨大な自動車メーカーが、
ライドシェアを展開する企業や配車アプリの提供会社に、
まるで「媚びる」かのような姿勢を見せているのでしょうか。

一言で言えば、自動車メーカーが
「顧客とつながっていない」からです。
例えば、私はトヨタ車も日産車も数台保有していますが、
おそらくトヨタも日産も私が保有している車を
詳細に把握していないでしょう。
ところが、ライドシェアを展開している企業は、
私のスマホに入っているアプリから取得する情報で、
私が利用したデータを詳細におさえています。

自動車業界は次世代へ移り変わろうとしている状況ですが、
巨大な自動車メーカー各社が
顧客とのつながりを持てていないというのは、
企業にとっては致命的です。
顧客と直接つながっている企業に全てを支配されてしまい、
どの車を使っても変わらないとなったら、
自動車メーカーにとっては命取りです。

実は同じようなことが家電メーカーにも当てはまります。
家電メーカーも顧客とのつながりを持てていません。
私が持っているテレビなどの家電を
各メーカーが把握しているとは思えません。

要するに、これまでのメーカーは
「作って終わり」だったのです。
しかしこれからの世の中では、
最終的にアプリで呼び出してもらえる側として
顧客との接点を持てていないと生き残れません。
ゆえに、ウーバー、滴滴出行などに
自動車メーカーは何としてでも資本を入れて
食い込んでおきたいと思っているのでしょう。



─────────────────────────
▼イーロン・マスクは天才だが、企業人・経営者としての適性はない
─────────────────────────
米電気自動車メーカーのテスラは先月24日、
株式非公開化の計画を撤回し上場を維持すると発表しました。
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、
多くの株主が非公開化を望まなかったとともに、
非公開化には当初の想定よりも時間がかかることが
判明したため、と説明しています。
しかし情報開示の手法や内容を巡っては
一部の投資家が訴訟を起こしており、
計画撤回後もテスラの経営に影響を及ぼす可能性があります。

イーロン・マスク氏は「天才」ではありますが、
同時に非常に「性格に問題がある」人物だと思います。
テスラほどの時価総額を持つ企業の創業者が、
今回のように突如として株式非公開化などと発表すれば、
その影響力は相当大きいのは言うまでもありません。
株式市場にとってはいい迷惑としか言えないでしょう。

イーロン・マスク氏が企業人として、
経営者としての適性に問題があると感じるのは、
今回のことだけに留まりません。
日本企業との関係性だけを見ても、
以前にはトヨタと仲違いをしています。
さらにはパナソニックと提携しアリゾナに
巨大なバッテリー工場を作らせておきながら、
中国のメーカーに乗り換えるような素振りを見せています。
今まさにパナソニックは翻弄されています。

今回の株式非公開化の騒動においても、
途中経過においてサウジアラビアの
政府系ファンドとの接触を匂わせてみるなど、
イーロン・マスク氏には、従来の経営者であれば
許されない行為が目立ちます。
非常に感情的な人物で、企業経営者として
「適性」に問題があり、テスラという企業にとっての
キーマンリスクにもなっていると思います。

テスラに振り回されているパナソニックですが、
オートモーティブ関連の売上は大きく、
利益でも1000億円に迫るほど稼ぎ、非常に順調です。
オートモーティブに次いで家電関連も
利益で1000億円を超え、環境関係、モバイル機器
その他の領域でも収益を上げていて、
全体としてバランスが取れた収益構造になっています。

現在順調なパナソニックにとって、
テスラに手の平を返されるのは非常に厄介でしょう。
売上・利益ともに大きいオートモーティブが
ぐらついてしまう可能性があるからです。
テスラとパナソニックの関係性が
今後どのような展開を見せるのか、
今後も注意深く見ていく必要があると思います。


---
※この記事は9月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、自動車業界の話題をお届けいたしました。

トヨタ自動車は、グループ4社が年内にも
EV対応のための新会社を設立し、
グループで制御システムの一貫体制を整え
世界の大手メーカーなどに供給する考えを発表しました。

自動車業界では、急速にEV化のトレンドが形成されています。

しかし、EV化対策に成功し、上手にシフト出来た場合にも、
日本が世界に誇る部品産業が大打撃を受ける
という課題が日本にはあります。

そのため、大前も記事中で指摘しているように、
電気自動車になると使用する部品の数も大きく減り、
コストや組み立て工数は激減する中で、
これまでのサプライチェーンの機能を捨て去り、
新しいサプライチェーンを再構築する必要があります。

このような不確実な世の中で成功を収めるには、
状況の変化に応じて競合よりも早く行動を起こすことが重要です。

そのために必要なことは、不確実要因の展開によって
可能性のある将来に応じた一連のシナリオを用意し、
それぞれのシナリオにおける脅威や機会を議論しておくことです。

そうすることで、環境変化の予兆を早く感じることができ、
いざその時が来た際に迅速に行動に移すことができます。

2018年08月31日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

原子力産業/福島第一原発〜原子力事業は日本全体で1つの事業体で担うべき

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

原子力産業 膨らむ費用、再編迫る
福島第一原発 足りない廃炉人材

─────────────────────────
▼原子力事業は日本全体で1つの事業体で担うべき
─────────────────────────
日経新聞は23日、「原発 膨らむ費用、再編迫る」と
題する記事を掲載しました。
東京電力と中部電力、日立製作所、東芝が
原子力事業で提携協議に入ったと紹介。
原発事業は世界的にコストが膨らむ傾向にあり、
4社とも「1社では事業を担えない」という共通の焦りがあり、
今回の提携をきっかけに国内の原発は
もう一つの連合との2陣営時代を迎える
可能性もあるとしています。

確かに一昔前は、BWR(沸騰水型軽水炉)と
PWR(加圧水型軽水炉)の2つの陣営に
別れていましたが、今ではそれほど明確に
分かれてはいないと私は見ています。

BWR陣営には、日立、東芝、東京電力、
中部電力、東北電力、中国電力、北陸電力。
そしてPWR陣営には、三菱重工、関西電力、
九州電力、四国電力、北海道電力。
これがかつての2陣営の構図でした。

PWRを世界で初めて商用化したのは
ウエスチングハウスで、かつて日本国内では
三菱重工が提携し、PWR陣営の一翼を担っていました。
しかし、東芝がウエスチングハウスを
傘下におさめたことで、東芝はBWRもPWRも
どちらも対応できるようになっています。
一方、三菱重工は仏アレバと提携しました。
現在、全体として見ればBWR陣営、
PWR陣営という区分けに敏感ではなくなっています。

また「1社では無理なので4社で」
原子力事業を担っていこうとのことですが、
4社でも不十分だと思います。

私は東日本大震災が発生した3月11日の直後、
すでに次のように提案していました。
すなわち、9電力会社の原子力部分を全て切り離し、
そこに日立、東芝、三菱重工を加えて、
「日本原子力機構」という組織を作るべきだ、と。
このように提案した理由は明確です。
とても1社だけでは無理ですし、
日本全体で1つにならなければ対応できないからです。

東京電力は相当大きな企業ですが、
それでも福島の原発だけで持て余す状態になっています。
原子力損害賠償・廃炉等支援機構が資金を注入しなければ、
存在できない状況です。中部電力は、浜岡原発を
当時の菅直人首相に閉鎖させられて困り果てています。

フランスでも実質的にアレバ1社に
原子力事業が集約されているように、
日本も「とりあえず4社で」などと言わず、
全体として1つに集約されなければ
原子力の体制を立て直すことは難しいと思います。

福島第一原発事故もあって、日本国内で
新しい原子炉を作るのはほぼ不可能な状況にあります。
これから先は海外に出ていくしかありません。
その意味でも、日本全体でまとまらないと
企業体力の面でも厳しいことは目に見えています。



─────────────────────────
▼廃炉のイメージを払拭し、環境産業として位置づけて人材を確保せよ
─────────────────────────
日刊工業新聞の情報サイトは21日、
「東京電力と大学の思惑一致せず…足りない廃炉人材」と
題する記事を掲載しました。
福島第一原発の廃炉作業を支える人材育成について、
大学が廃炉技術の研究者を育てている一方、
実際に現場で求められるのは
日々発生するトラブルに対応しながら
計画管理ができるプロジェクトマネージャーであると紹介。
こうした人材を育てるには、
自身の専門以外の基礎を働きながら学べる仕組みや
大学と現場をつなぐ場が必要としています。

かつて私がMITで原子力工学を学んだときには、
同級生が130人もいました。
しかしスリーマイル島原発事故が起こって
状況が一変しました。97年頃私がMITに訪れたときには、
原子力工学を学ぶ生徒は1学年で15人くらいに激減していました。
しかも、その15人の中に米国人は一人もいませんでした。
ほとんどは奨学金をもらって
アフリカから来ていた留学生でした。

私が学んでいた時代には、
原子力工学には夢がありました。
マンハッタン計画の後は、
原子力の平和利用だと誰もが思っていましたし、
MITでも非常に有名な先生が教鞭を執っていました。
ところが、スリーマイル島原発事故の後、
米国人の中に原子力を学ぶという発想はなくなりました。

福島第一原発事故で、同じことが日本でも
起こってしまいました。当時の米国でもそうでしたが、
今、日本で原子力を学んでいると言ったら
「将来性がない」と思われるでしょう。
だから誰も学ぶ人がいなくなります。

この問題は廃炉人材がいなくなることになるので、
極めて重要な問題です。
廃炉のために外国人を雇用して
危険な環境の中で仕事をさせるのは、
国際的な批判も受けるでしょうし、難しい点があります。
とは言え、廃炉は絶対にやらなければいけないことです。

私は「廃炉」という言葉も、
その印象が良くないと思います。
グリーン技術の1つとして環境学科の科目にするなど
工夫するのも1つの策でしょう。
「グリーン」「環境」という言葉で表現すれば、
興味関心を持ってくれる生徒も増える可能性があります。
実はMITでもそのようにしています。

また考え方次第では、これは成長産業です。
なぜなら、先程も述べたように廃炉は
「絶対にやらなくてはいけないこと」だからです。
完全なニーズがあります。
「廃炉」という見せ方ではなく、
成長が約束された環境産業として位置づけて
人材を確保して欲しいと思います。


---
※この記事は8月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、原子力産業の話題をお届けいたしました。

東京電力と中部電力、日立製作所、東芝の4社が
原子力事業で提携協議に入りました。

これに対して大前は、東京電力でさえも
福島の原発だけで持て余す状態になっており、
日本全体として1つに集約されなければ
原子力の体制を立て直すことは難しいと指摘しています。

原発事業は、コストの問題、廃炉の問題、
人材確保の問題など、様々な問題を抱えており、
どの課題も電力会社が単独でマネジメントできる
範疇を超えてしまっています。

また、日本国内で新しい原子炉を建設することが難しく、
これから先、海外に出ていくしかないということを考えても、
日本全体でまとまらないと企業体力の面でも厳しいとも
大前は記事中で指摘しています。

問題を解決するにあたっては、
現在の延長として解決策を考えるのではなく、
未来がどうなるかを推測し、その中で、
どうあるべきかを考えることが大切となってきます。
大局観や長期的な視野を持ち、物事を考えることが大切です。

2018年08月24日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

IHI/事務機器メーカー大手/パイオニア〜かつて世界に君臨した日本の造船業が、今は見る影もない

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

IHI 造船所・愛知工場を閉鎖
事務機器メーカー大手 複合機に「複合不振」
パイオニア 車載特価裏目、再建へ支援要請

─────────────────────────
▼かつて世界に君臨した日本の造船業が、今は見る影もない
─────────────────────────
IHIは10日、愛知工場で最後の工事となった
液化天然ガス(LNG)タンクの完工式を開きました。
愛知工場は1973年に当時最新鋭の造船所として開設。
造船日本の象徴的存在でしたが、
近年は中国や韓国の攻勢で受注増加が見込めなくなっており、
9月にタンクを引き渡し完全に閉鎖するとのことです。

かつて十数年に渡って造船会社のコンサルティングを
やっていた私にとっても、
これは非常にショッキングなニュースです。
当時は100万トン級の造船ドッグの建設ブームで、
三菱重工業、IHIなどを筆頭に「造船日本」と
言われた時代でした。世界シェアの約50%を
日本企業で占めていました。

ところが、日本国内の労働賃金が上昇し、
ノウハウが海外に流出しました。
現代重工業を中心に韓国勢に取って代わられてしまい、
今ではその韓国勢も中国勢に押されて
守勢に回っている状況になりました。

世界の造船企業別の竣工量を見ると、
まだ韓国勢が上位を占め、現代重工業がトップで、
大宇造船、現代三湖重工業でトップ3になっています。
そして4位に日本の今治造船が入り、
サムスン重工業、JMUと続きます。
JMUはユニバーサル造船
(=日立造船と日本鋼管造船部門)と
IHIマリンユナイテッド
(=IHIと住友重機械工業の関連部門)が
統合した企業です。これだけの会社が
一緒になっても世界6位という状況です。

日本国内では今治造船が1位で、JMUが2位、
名門の三菱重工業は国内でも7位になっています。
日本は造船業界が旺盛の頃、
敢えて過当競争にならないように、
造船ドッグを潰していく時代がありました。
一方の韓国と中国は、収益が伸びているうちに
ボリュームを追求しました。
結果として、この20年間で日本勢は
手も足も出ない状況になってしまった、というのが現状です。

IHIのセグメント別業績を見ると、
ボリュームが大きいのは、資源・エネルギー・環境、
そして航空・宇宙・防衛です。
海洋部門はボリュームも小さく利益も出ていないし、
衰退しています。では、資源・エネルギー・環境などが
牽引してくれるおかげで安泰か?というと、
全くそんなことはありません。
資源・エネルギー・環境部門は売上ボリュームが大きいですが赤字です。

また航空・宇宙・防衛などをメインでやっていけるかも
確証が持てません。会社全体として見たとき、
IHIは非常に運営が難しい状況に置かれていると思います。



─────────────────────────
▼デジタル革命の影響による複合機、AV機器業界の苦しさ
─────────────────────────
日経新聞は10日、『複合機に「複合不振」』と
題する記事を掲載しました。
ペーパーレス化が進み需要が伸び悩むなか、
トナーなど消耗品で稼ぐモデルにも
影が差し始めていると紹介。
また市場関係者も今後の技術革新や市場拡大は
見込めないと分析しており、
各社は生き残りの道を探り時間との戦いを
続けているとのことです。

以前はパソコンでプリントアウトするというのが
当たり前の光景でしたが、今ではすっかり
そんなことはしなくなり、複合機・プリンター
ニーズが減ってきています。
また、様々なメーカーの機械を統合的に管理する
MPS(マネージド・プリント・サービス)が
幅を利かせるようになってきて、
なおさら厳しい状況になっています。

業界最大手の1つであるキヤノンの
セグメント別業績を見ると、複写機の売上は下降、
イメージングシステム(カメラ等)は
まだ強さはあるものの減少傾向です。
買収したメディカル関連が
ようやく黒字化してきたという状況です。

あれほど収益が高かったキヤノンにしても、
CTなど画像診断装置などで
躍進する可能性はありますが、
現状は非常に苦しい状況です。
富士フイルムなど、このような
逃げ出したくなる業界で
よく米ゼロックスの買収に踏み切ったものだと思います。

キヤノンにしても富士フイルムにしても、
デジタル革命の影響を受けて、
今後しばらくの間、非常につらい思いをすることは
間違いないでしょう。


同じように、スマホにAV機器が吸収されて
衰退していく状況も加速しています。
日経新聞は9日、「車載特価裏目、再建へ支援要請」と
題する記事を掲載しました。
パイオニアは近年、カーナビなど車載機器事業に
経営資源を集中してきましたが、
スマートフォン(スマホ)の普及など需要が急速に減少。
今後は自動運転車のセンサーや
高精度地図の開発に着手する方針で、
そのためにはまず他社からの支援を受け入れ
財務の改善を目指す考えとしています。

AV機器が衰退していく中、GPSのカーナビに
特化したものの、グーグルマップなどに
見事に持っていかれてしまいました。
いまだにトラックに付いている専用の
GPS機能(車の大きさに合わせて道路の選択をする機能など)は
スマホが対応していませんが、
普通の乗用車を運転する限りでは
代替されてしまうでしょう。

パイオニアの業績推移を見ると、
非常に苦しい状況を見て取れます。
売上は3000億円台に減少し、
2014年100億円を超えていた営業利益は
20億円を下回っています。
純損益はすでに赤字に転落していて、
しかも50億円を超えています。
今後も苦しい状況が続いていくと思います。


---
※この記事は8月19日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

1973年に当時最新鋭の造船所として開設された
IHIの愛知工場が、9月にタンクを引き渡し、
工場を完全に閉鎖するとしています。

IHIの市場セグメント別の業績では、
航空・宇宙・防衛などはボリュームが大きいものの、
メインでやっていけるかも確証が持てず、
会社全体として見たとき、IHIは非常に運営が難しい状況に
置かれていると大前は指摘しています。

戦略の中でも市場の選択は戦略の中心となり、
どの市場に経営資源を投入するかは重要となります。

選択している産業や市場が衰退をしている場合には、
別の新たな産業や市場を選択していくのか?
はたまた、衰退産業の中でも、伸びているセグメントはあるか?
などを考えることが必要となってきます。

2018年08月03日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

米ゴールドマン・サックス/米ゼネラル・エレクトリック/九州観光〜GEは医療事業を手放すべきではない

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

米ゴールドマン・サックス 次期CEOにデービッド・ソロモン氏
米ゼネラル・エレクトリック 照明事業から年内に撤退
九州観光 観光客誘致で戦略的提携

─────────────────────────
▼ゴールドマンの収益構造の変化
─────────────────────────
米金融機関大手のゴールドマン・サックスは先月17日、
ロイド・ブランクファイン最高経営責任者の後任として、
デービッド・ソロモン最高執行責任者を
指名したと発表しました。ブランクファイン氏の
在職期間は10年を超えていますが、近年は
フィンテックを活用した個人向け融資事業を
立ち上げるなど、新たな収益基盤を構築。
後任のソロモン氏がこれを引き継ぎ、
成長戦略を加速させる考えです。

ゴールドマンのブランクファイン氏が
辞任するというのは、投資銀行業界にとっては
1つのエポックでしょう。
この10年間でゴールドマンは大きく
業態を変えました。10年前は純収入の約7割は
トレーディングでしたが、
今後は機関投資家向けサービスで
牽引していく方向性です。その意味でも、
投資銀行部門で高い利益を出した実績を持つ
ソロモン氏が後任として選ばれたのでしょう。
有名な話ですが、ゴールドマンはかつて、
ニューヨーク本社の現物株式取引部門に
600人ほど抱えていたトレーダーが今では2人になっていて、
トレーディングは機械(AI)が行っています。

当面ゴールドマンが目指すべき存在になるのが、
JPモルガンでしょう。現状、収益で比較すると
JPモルガンが圧倒的に上回っています。
かつては高い収益を誇ったゴールドマンですが、
現在はJPモルガンの方が安定した基盤を
構築していると言えます。ソロモン氏がCEOに就任し、
JPモルガンに追いつき、追い越すために、
どのように収益を伸ばしていけるでしょうか。


─────────────────────────
▼GEは医療事業を手放すべきではない
─────────────────────────
日経新聞が報じたところによると、
米ゼネラル・エレクトリックが先月20日、
祖業である照明事業から年内に撤退すると
表明したことがわかりました。
7つの主要事業のうち4つを分離・売却し、
電力、航空、再生エネルギーの3部門に集中し、
過去の複合経営と決別し、「シンプルなGE」として
再起する考えとのことです。

私はこの方針に全く納得ができません。
祖業とはいえ照明事業はすでにかなり縮小していますし、
撤退するのも全く問題ないでしょう。
理解に苦しむのは、なぜ再生可能エネルギーを選択し、
医療事業を分離・売却対象とするのか?ということです。

GEのセグメント別業績を見ると、
電力、航空事業は大きく今後も主力事業として
位置づけていくのは頷けます。
しかし再生可能エネルギー事業は、
それほど利益を生んでいません。
再生可能エネルギーに力を入れていく理由がわかりません。
一方で、GEはシーメンス、フィリップスと並び、
世界3大メディカルエレクトロニクスのメーカーです。
MRI、CT、X線などGEは米国の医者の信頼を勝ち得ています。

たしかに医療分野が今後飛躍的に
伸びていくことはないでしょうが、
それでもGEがこの事業から
撤退する理由もないと思いますし、
実際、そうなるとかなり困る人が出てくるはずです。
この事業を諦める理由は私には全く思いつきません。

また、もしGEが発表のとおりに
交通事業も分離・売却対象とするなら、
日立などには買収のチャンスかも知れません。
GEは交通事業で強い領域を持っています。
日立は特に欧州で交通事業に力を入れています。
GEの交通事業を買収できれば、
世界で戦うための大きな武器になる可能性はあります。
日立としては目を光らせておくべきでしょう。


─────────────────────────
▼JR九州とアリババの提携の意義/ネット企業の旅行事業参入のKFSは?
─────────────────────────
JR九州と中国・アリババ集団は先月23日、
訪日観光客の誘致で戦略的提携を結んだと発表しました。
アリババの旅行予約サイトを通じて
九州の観光地を紹介する一方、JR九州は九州内で
アリババのスマートフォン決済サービス
「支付宝(アリペイ)」の導入を
促進するというもの。2023年度に中国から九州へ
100万人の送客を目指すとのことです。

九州は今、日本で唯一明るい話題で
あふれている地域です。
私は月2回程度九州に行きますが、
目に見える景色が全く東京などとは違います。
ホテルの周辺や商店街など、
出会う人の2人に1人は中国からの観光客です。
JR九州とアリババが手を組むことで、
九州経済はガラッと変わっていく可能性があります。
そしてその九州から、日本全体に対しても
大きな影響があるでしょう。
JR九州とアリババが提携する意義は
非常に大きいと思います。

さて、そのアリババなど中国勢が牽引する
スマホ決済ですが、
日本においてもスマホ決済への流れは
止めることはできないでしょう。
これまでクレジットカードで、
ぬくぬくと利益を上げていた企業にとっては、
デビットカード方式は苦手です。
実現するにはいくつかの課題がありますが、
まずはできるところから実践するしかありません。

また、LINE、DMM、メルカリなどのベンチャー企業が
旅行市場に参入しています。
これはデスティネーションツーリズム
という市場を狙ったものでしょう。
1泊2日程度の短い旅行が多い日本では
あまり馴染みがないのですが、1ヵ月以上など
長い期間旅行する市場のことを言います。
実は、観光の輸出額の規模は、
世界的に見ると自動車産業よりも大きく、
今後も非常に期待できる市場です。

これまで旅行では、ホテル、飛行機、
そして現地のレストランの予約など、
全て縦割りで別々に手配する必要がありました。
エクスペディアなどが統合したサービスの展開を
試みていましたが、なかなか上手くいっていません。
ところが、LINE、DMM、メルカリなどネット企業にとっては、
統合サービスを提供することはお手の物です。

かつて私も辞書のように
分厚いガイドブックを片手に、
欧州を一周したことがあります。
数ドルで泊まれるユースホテルが
紹介されていたり、非常に重宝しました。
今は旅行中も常にスマホで
ネットに繋がっていますから、
これをさらに精度を高めて
実現することができるでしょう。
単に統合サービスとして提供するにとどまらず、
コンシェルジュ的なコンテンツまで
提供してほしいところです。
例えるなら、JTBのエキスパートガイドが
自分のポケットにいるという感覚です。

LINE、DMM、メルカリにとって、
技術的な問題はほとんどないと思います。
重要なことは、内容をどれだけ
エキスパートにできるかということです。
中国人の観光客は、中国人留学生が
百度にアップしている大量の観光情報や案内を
参考にしているそうです。最終的には、
内容をどれだけ充実したものにできるか。
ここができないと片手落ちの
サービスになってしまうでしょう。



---
※この記事は7月29日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

米ゼネラル・エレクトリックは、
医療機器や輸送など7つの主要事業のうち4つを分離・売却し、
電力、航空、再生エネルギーの3部門に集中することで、
「シンプルで強固なGEを目指す」と宣言しました。

利益をそれほど生んでいない再生可能エネルギー
を選択し、医療事業を手放す対象とする
ことに対して大前は疑問視をしていますが、
選択と集中を実行する際は、組織の中核となる
事業は何かを見極めることが重要となります。

選択と集中は、経営の効率化や企業価値を高めるなど
メリットがある反面、リスクも伴う戦略となります。

現在の自社の状況や今後の市場成長の予測などを
客観的に分析した上で、意思決定をしていく必要があります。

2018年07月27日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

旭化成/外資系スーパー/ポーラ・オルビスHD/配車サービス/セブン-イレブン・ジャパン〜ウォルマート日本撤退は既定路線

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

旭化成 セージ・オートモーティブを買収
外資系スーパー 「黒船」、相次ぐ日本撤退
ポーラ・オルビスHD 内紛泥沼化で汚れるブランド
配車サービス 日本市場参入へ合弁会社設立
セブン-イレブン・ジャパン コンビニ「ちょい生」中止騒動

─────────────────────────
▼旭化成の買収は合理的
─────────────────────────
旭化成は、自動車の内装材などを製造する
米セージ・オートモーティブ・インテリアズを
約7億ドル(約791億円)で買収すると発表しました。

旭化成は人工皮革の商品などを
セージ・オートモーティブ・インテリアズに納入しているので、
すでに両社に関係性はあるのでしょう。
自動車業界が衰退していく潮流において、
この値段で買収に踏み切ったのは思い切った決断だと思います。
自動運転や電気自動車になっても、
座席などの需要は減るわけではないので、
この買収はある程度合理的だと言えるでしょう。

残念なのは、もう少し早く買収していれば、
それこそ自動車業界の最盛期を謳歌できたでしょう。
買収に合理性は見られますが、
タイミングはもったいない点があると感じます。


─────────────────────────
▼ウォルマート日本撤退は既定路線
─────────────────────────
時事通信は14日、『「黒船」、相次ぐ日本撤退』と
題する記事を掲載しました。
2000年前後に鳴り物入りで日本市場に参入し、
「黒船」と呼ばれた海外の大手スーパーが
相次ぎ撤退しているとのこと。

カルフールやテスコはすでに撤退しています。
ウォルマートは、撤退の決定はしていないものの、
撤退に向けて動いている事実は確認されています。
コストコやメトロは独自に健闘していて、
特にコストコは根強いファンを獲得しています。
ユニークな商品開発にも成功しています。
そのようなことができなければ、
「Everyday low price」だけでは
生き残れない時代になったということでしょう。

ウォルマートの海外店舗数を見ると、
日本の店舗数は300店を超えていますが、
それでも4年前と比べると、100以上も
店舗数を減らしています。
ブラジルも同様に4年前と比べて、
店舗数を減らしています。
日本もブラジルも撤退するというのは、
当然の流れでしょう。


─────────────────────────
▼ポーラの内紛は残念の極み
─────────────────────────
ビジネスジャーナルは20日、
「化粧品のポーラ、内紛泥沼化で汚れるブランド」
と題する記事を掲載しました。今年2月、
各週刊誌がポーラ・オルビスのお家騒動を報じました。
鈴木郷史社長の元側近が鈴木氏の不正を暴くメールを
取締役などに宛てて一斉に送信したというもの。
これをきっかけに2000年に亡くなった
ポーラ2代目社長の千壽夫人が、
遺産相続をめぐり鈴木社長を提訴したとのことです。

不正を暴くメールを送信した人という元側近の一人も、
社長になる約束だったのに反故にされた
という話があるとも聞きます。
何ともレベルが低すぎる話で呆れるばかりです。
ポーラ・オルビスは、海外比率は低いものの、
営業利益率も高く、非常に優秀な経営をしていました。
それだけに、残念でなりません。


─────────────────────────
▼ライドシェア規制は日本だけではない
─────────────────────────
ソフトバンクは19日、中国配車アプリ大手の滴滴出行と
タクシー配車サービスを手掛ける合弁会社を設立したと
発表しました。新会社はスマホアプリで
タクシーを呼ぶことができるサービスを展開する他、
AIを活用しどの場所にどのくらいの乗車需要があるかを
事前に予測するシステムをタクシー会社に提供します。
滴滴出行はアリババから出資を受けていて、
ご存知のとおりそのアリババに
ソフトバンクは投資しています。

孫社長が日本政府による
ライドシェア(白タク)サービスの規制に対して
「こんなバカな国はない」と批判したことが
報じられていますが、これは孫社長の発言が
間違っています。世界の主要国の
ライドシェア(白タク)への
対応状況を見ると、すぐに理解できます。

米国はカリフォルニア州など一部で
許可しているだけで基本的に禁止、
英国・フランス・ドイツ・日本・韓国・台湾・シンガポールは
すべて禁止です。孫社長は日本だけがバカなことを
やっていると批判したわけですが、他の国も同様です。
逆に中国だけが実質無法状態で、
旅客運送に関する法整備が
追いついていないだけです。それゆえ、滴滴出行が
シェアの9割を獲得することができたのです。

私も個人的には市場を開放しても
良いのではないかと感じますが、
今回の発言は別問題です。
滴滴出行、グラブ、ウーバーなど
自分が配車アプリの企業に投資したからといって、
それを正当化するために、
国を批判するのはおかしな話ですし、
経営者としてあるまじき姿勢でしょう。
この点では孫社長ももっと勉強してから
発言するべきだと思います。


─────────────────────────
▼セブンイレブンの生ビールサービスは勇み足
─────────────────────────
まぐまぐニュースは20日、
『コンビニ「ちょい生」中止騒動。
セブンイレブンは何を誤ったのか』と
題する記事を掲載しました。
セブンイレブンの一部店舗で17日から試験販売が
始まる予定だった「生ビールサーバー」が
想定を大幅に上回る反響で
中止になったとのことです。

コーヒーを販売している横で、
ジョッキで飲めるビールを販売するというのは
非常に魅力的に感じます。
日本はアルコール類の販売について
他の国に比べると規制は緩やかです。
日本に来た外国人の多くは、
自販機でアルコール類が売っていることに驚きます。

しかし、今回のようにコンビニの店内で、
気軽に飲めるような形でアルコール類の
販売をするとなると、未成年者や運転手への販売など
考慮すべきことが多々あります。
セブンイレブンとしても、今回のことは調子に乗りすぎて
事前の調整などを怠って進めてしまったのでしょう。



---
※この記事は7月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

2000年前後に鳴り物入りで日本市場に参入し、
「黒船」と呼ばれた海外の大手スーパーが
相次ぎ撤退しています。

コストコやメトロのような、
根強いファンの獲得やユニークな商品開発に成功している
海外の大手スーパーもありますが、
「Everyday low price」だけでは、
生き残れない時代になったと大前は指摘しています。

将来の環境を見通して、今後どのような市場が伸びるのか、
どういう差別性をとればよいのかを考えることは非常に重要です。

どこまで将来を見通すかは業界によって変わりますが、
ベースとなる環境変化を合理的に想定しておくことが大切です。

2〜3つ違う未来を予想し、それぞれの未来について話し合うだけでも、
その環境が出現したときに素早く対応することができます。

どのような差別性をとればよく売れるのか?
今後、競合に勝つための事業のKFSはなにか?
など、競合より先を見通すことが重要です。

2018年07月20日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

民泊/在日外国人/財政健全化〜外国人観光客を4000万人レベルで受け入れるには、民泊以外の道はない

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

民泊 民泊営むと課税4倍も
在日外国人 日本で暮らす外国人が過去最多
財政健全化 中長期の経済財政試算提示

─────────────────────────
▼外国人観光客を4000万人レベルで受け入れるには、民泊以外の道はない
─────────────────────────
日経新聞は7日、「民泊営むと課税4倍も」と題する記事を
掲載しました。これは民泊新法が6月15日に施行され、
民泊が本格的に解禁されたものの税金については
注意が必要だと指摘しています。民泊で得た収入は
「雑所得」となるため、他の所得区分と損益通算が
できないことや居住する家の半分以上を
民泊で使用する場合、固定資産税の特例措置が受けられず、
場合によっては納付税額が4倍以上になることも
あるとのことです。

民泊新法が制定されても、
税金の問題については浮いていましたが、
正直、ここまで「いじめる必要があるの?」
と言いたくなります。不動産所得ではなく、
雑所得とするため赤字が出たときには損益通算ができない、
半分以上を民泊として利用すると
居住用として認められないため、
固定資産税や相続税の軽減措置が適用外となる、
など厳しすぎると感じます。

そもそも、インバウンド(訪日外国人旅行)を
3000万人、4000万人に増やしたい、ゆくゆくは
6000万人まで増やしたいと言っておきながら、
このような対処をするのは矛盾しています。
インバウンドを3000万人、さらには6000万人まで
増やす唯一の道は、民泊です。

新しい民泊などを叩くばかりで、結局のところは、
大したこともやっていない既得権益の旅館やホテルを
守ろうとしているだけです。既存の旅館やホテルだけでは、
1900万人までしか対応できないことは既に判明しています。
本当にインバウンドを3000万人、4000万人、
あるいはそれ以上受け入れたいなら、その体制を整えるべきです。

将来に対する正しい道を示せていないという点では、
日本で暮らす外国人の数においても同様で、
政府の行き当たりばったりの対応が見て取れます。
総務省が11日発表した人口動態調査によると、
日本で暮らす外国人の数が1月1日時点で
249万7000人と過去最多を更新しました。
全国で最も増加率が高かったのは、
北海道夕張市で訪日客への対応強化のため、
観光施設での採用が増えたことが背景にあります。

ポリシーもルールもないままに人数だけが増えてきて、
すごい状況になってきています。
外国住民の比率は、東京都全体で見ると約3.8%ですが、
一部の区では異常に高い水準になっています。
新宿区の外国人比率は、20〜24歳では約62%に達します。
15〜30歳で見ても、約30%が外国人です。
新大久保や大久保だけではなく、
全体的に外国人が増えています。
そして、東京都全体で見ても10代に限れば、約1割が外国人です。


─────────────────────────
▼2025年でもプライマリーバランスは黒字化の見通しなし
─────────────────────────
内閣府は9日の経済財政諮問会議で、
中長期の経済財政に関する試算を示しました。
これは今後高い成長率が続いても、
国と地方を合わせた基礎的財政収支は2025年度に
2兆4000億円の赤字となり、政府が目標とする黒字化には、
同程度の歳出削減か歳入の増加が必要としたもので、
これを受けて安倍首相は茂木経済再生担当相に対し、
目標達成に向けて歳出削減の工程表を取りまとめるように
指示したとのことです。

プライマリーバランスは2020年に黒字化の予定でしたが、
いつの間にか2025年に変更になっています。
その2025年でさえも、2兆4,000億円も
足りないというのですから、まったく話になりません。
2025年に黒字化するためには、
政府が定めた「成長実現ケース」としての
経済成長が見込まれています。
その「成長実現ケース」では、GDP成長率が
毎年3%と定めているのですから驚きです。
何を根拠に毎年3%のGDP成長率を
見込めるというのでしょうか。

はっきり言えば、役人も政治家もわかった上で
嘘をついているとしか思えません。
今一時的に税収が増えていますが、その増えた税収を
借金返済に使うという話にはなっていません。
私に言わせれば、選挙を見据えた
「無駄遣い」の議論ばかりを繰り返しています。

2025年になってもプライマリーバランスを
黒字化できないのは明白です。
そして、GDP成長率が2%以下では、
永遠に達成することは不可能でしょう。
しかし、この本音を言った途端に
日本の国債が暴落してしまいます。
GPIFも日銀も、内部から爆発することになり、
とんでもない状況を招いてしまうことになります。

GDPに対する国債の割合でみると、
日本は最悪でイタリアよりも悪い状況です。
一般会計歳出の内訳を見ると、社会保障費が
約33兆円あります。この費用は膠着化していて、
なかなか減らすことができません。
減らすとなると、高齢者の反発にあって
選挙に影響することになります。

公共事業などの費用は削減傾向にありますが、
国債費と社会保障費という膠着化して減らせない費用で
約50%に達していますから、
日本の財政はかなり危機的な状況だと思います。


---
※この記事は7月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、民泊の話題を中心にお届けいたしました。

民泊新法が6月15日に施行されました。

民泊が本格的に解禁されたものの税金については
場合によっては納付税額が4倍以上になったり、
赤字が出た時には損益通算が出来ないなど、
インバウンドを増やしたい政府の意向と
矛盾した対処となっていると大前は指摘しています。

選択した解決策の効果や影響を考えなければ、
本末転倒になる恐れがあります。

影響の連鎖の探求を行った上で、
何に取り組むべきなのかを取捨選択する必要があります。

2018年07月13日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

メキシコ大統領/米朝関係〜北朝鮮の本性が再び。金王朝崩壊後のシナリオは?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

メキシコ大統領 ロペスオブラドール氏が勝利
米朝関係 「アメリカ側の態度は遺憾」

─────────────────────────
▼メキシコ新大統領には、トランプ大統領の牽制などを期待したい
─────────────────────────
メキシコ大統領選挙が1日行われ、新興左派の野党、
「国家再生運動」のアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドールが
2位に大差をつけて勝利しました。
ロペスオブラドール氏は米トランプ大統領にも通じる
ポピュリズムの政策を主張、規制政治の打破を訴え、
汚職や治安悪化に対する国民の不満を取り込みました。

ロペスオブラドール氏は、
左派のトランプ大統領と言われる人物です。
基本的な主張はほぼ同じで、ロペスオブラドール氏の場合は
「メキシコファースト」が主張の柱になります。
知名度は高かったのですが、
これまで2度大統領選には敗北してきました。
今回は「メキシコファースト」の主張を軸に、
トランプ大統領を批判することで、選挙に勝ちきりました。

ロペスオブラドール氏が見事に53%の得票率を獲得しました。
ロペスオブラドール氏が大統領になったことで、
めずらしくトランプ米大統領の腰が引けています。
「おめでとう、一緒に仕事をできることを楽しみにしている」
という趣旨のことをTwitterで発言しています。

ロペスオブラドール氏が大統領になることで、
トランプ大統領の牽制につながると思います。
また、北米自由貿易協定(NAFTA)を維持するためにも、
重要な役割を果たしてくれるかも知れません。

OECDのジニ係数を見ると、
メキシコはチリに次いで高い水準となっていて、
貧富の格差が激しくなっています。
石油の埋蔵量も生産量も減ってきています。
代わりに自動車産業など期待できる分野もあります。
国別のメキシコへの直接投資を見ると、
米国が圧倒的にナンバーワンです。
貿易相手国でも、輸出入ともに米国がトップ。
輸入は中国、日本と続きます。

メキシコへの直接投資が大きいということは、
すなわち、米国企業がメキシコに来て
ビジネスを展開しているということです。
この事実をトランプ大統領は正しく認識せず、
メキシコを批判しています。

ロペスオブラドール氏は大統領になって、
汚職や麻薬などの腐敗にメスを入れることを公言しています。
メキシコは今回の選挙期間中にも、
約130人の政治家や立候補者が殺害されています。
メキシコという国は、本当に危険な国です。
ロペスオブラドール氏にとっても、
大変なことは多いと思いますが、
トランプ米大統領への姿勢も含め、
期待してみたいと思います。




─────────────────────────
▼北朝鮮の本性が再び。金王朝崩壊後のシナリオは?
─────────────────────────
北朝鮮外務省は7日夜、
非核化を巡って平壌で行った2日間にわたる
米朝高官協議に関して「米国側の態度は遺憾極まりない」
とする報道官談話を発表しました。
北朝鮮側が米朝間の交流拡大や
朝鮮戦争の終戦宣言などを変更して扱うことを
提案したのに対し、米国側は完全で検証可能かつ
不可逆的な非核化(CVID)などに言及し、
「一方的で強盗のような非核化要求だけを持ち出した」
と非難しています。

ようやく私たちがよく知っている北朝鮮が戻ってきた、
と感じます。シンガポールでの両首脳会談では
表面的なことしか語られませんでした。
トランプ大統領としてのパフォーマンスとしては
良かったのかもしれませんが、その後はそうはいきません。
具体的なことを話していかなければ、何1つ前に進みません。

今回その役割を担ったのはポンペオ米国務長官でした。
北朝鮮側はポンペオ氏を相手にしない、
という姿勢を見せています。
しかし、ポンペオ米国務長官がやらなければ、
ボルトン大統領補佐官が登場するでしょうし、
背後にはマティス国防長官が控えています。
北朝鮮の思惑通りにはいかないでしょう。

シンガポールでの首脳会談を受けて米国内のマスコミからは、
北朝鮮はまた騙すつもりだ、という指摘がありました。
ポンペオ氏としても、
より具体的な指摘をしていくしかない状況です。
それゆえ、非核化のプロセスやステップを明確にし、
どのような順序で進めていくのかを明示しろ、
という話になったのだと思います。

具体的に言えば、第三者が検証できるように、
北朝鮮が保有する核開発の施設、
開発リストをすべて提出すること。
完成したと言われる核弾頭は20基あると言われていますが、
責任を持ってそれらを破壊するので、
すべて引き渡すこと、など。

このような具体的な話になると、
北朝鮮は「強盗のような要求だ」と非難してきます。
北朝鮮がどのような国なのか、
ということをあらためて十分に理解できたはずです。
トランプ大統領は、話題を提供することしか頭になく、
具体的に話を進めることは何1つ考えていません。
結局、具体的に落とし込もうとすれば、
すぐに北朝鮮は態度を変化させますし、
関係性も悪化します。

シンガポールでの首脳会談は曖昧なまま終わりましたが、
唯一期待できるのは、トランプ大統領は金正恩氏に
「何かあったら、直接電話しろ」と、
自身の携帯電話の番号を伝えたと言われていることです。
もしこのまま事態が進み、
金正恩氏がトランプ大統領に直接相談しなければ、
トランプ大統領のことですから、
「相談がなかった」ということで
強硬手段に出る可能性も大いにあります。
本来なら、シンガポールの首脳会談で
もっと具体的に話を詰めておくべきですが、
今はこのトランプ大統領への直接電話という切り札が、
北朝鮮の抑止力になってくれることを期待したいところです。

もし北朝鮮の金王朝が崩壊するとしたら、
どのようなことが予想できるでしょうか。
韓国、中国、ロシアはが虎視眈々と
その機会を狙っていると思います。
韓国は南北朝鮮の統一をすぐには望んでいないでしょう。
統一すれば、韓国側の財政負担が大きいからです。
一人あたりGDPで1000ドル未満の国と、
2万ドル近い国では差が大きすぎます。
この差がある程度埋まるまでは、
植民地のように安い値段で労働力を活用し、
自国の力をつけることに専念するはずです。

中国もすでに人件費は北朝鮮より高くなっているので、
北朝鮮が倒れたら、その安い労働力を活用したいと考えているでしょう。
ロシアも極東ロシアの開発で人員が足りておらず、
北朝鮮の労働力を手に入れたいという思惑です。

隣国はすべて北朝鮮の崩壊を絶好の機会として狙っており、
邪魔なのは金王朝だけという状況になっています。
そして崩壊しても、北朝鮮国民は職もあるし、
恐怖から開放されて安心して過ごせるはずです。
その後、段々と生活レベルが上がってきて、
韓国と同じレベルの待遇を求めるようになってきたら、
ドイツのように統合する道が見えてきます。
かつてドイツのコール首相は西ドイツを主力として、
統合を実現しました。これは大英断だったと私は思います。
韓国と北朝鮮が統合するなら、
誰かがかつてのコール首相の役割を果たす必要があるでしょう。



---
※この記事は7月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、米朝関係の話題を中心にお届けいたしました。

非核化を巡り、米朝高官会議が平壌で行われました。

シンガポールの両首脳会談で、
非核化の共同声明にサインした北朝鮮。
しかし、具体的な話になった今回の米朝高官協議に関しては、
「強盗のような要求だ」と態度を変化させました。

これに対して大前は、シンガポールの首脳会談では
トランプ大統領のパフォーマンスとしてはよかったかもしれないが、
非核化に向けて具体的な話をしていかなければ
前には進まないと指摘しています。

記事中で、非核化のステップなどを
具体的に提示していますが、
問題解決にあたっては、課題を定義した上で
一つ一つのステップに取り組む必要があります。

問題解決のステップを具体的に進めていくことで
大きな成果につながります。

2018年07月07日(土) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

安倍内閣 〜安倍政権は、何1つとして政策の成果を上げていない

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

安倍内閣 支持率52%、不支持率42%

─────────────────────────
▼安倍政権は、何1つとして政策の成果を上げていない
─────────────────────────
日本経済新聞社が6月末に行った世論調査によると、
安倍内閣の支持率は前月比10ポイント上昇し
52%となったことがわかりました。
一方、不支持率は11ポイント低下し、42%に下がり、
4ヶ月ぶりに支持が不支持を上回りました。
支持の理由としては、「国際感覚がある」「安定感がある」
「指導力がある」などが挙がったとのことです。

現在、大きく支持に傾いているように聞こえますが、
3年前にも似たような状況がありましたし、
支持と不支持は拮抗している状況です。

「国際感覚がある」と言っても、政府専用機を使って
海外に出掛けていく回数は多いものの、
取り立てて成果は上がっていません。
「安定感がある」というのも、
私に言わせれば「森友・加計問題」において、
堂々とブレずに嘘を突き通す安定感はありますが、
皮肉以外の何物でもありません。

今の安倍政権は何1つ、今の日本が抱えている
本当の問題に手を付けていません。3本の矢、憲法改正など、
次々と口先だけの発表をしていますが、何1つ形になっていません。
今は働き方改革やIR法を取り上げて重要法案などと言っていますが、
冗談もほどほどにしてほしいと思います。
これらが今の日本にとって重要法案のはずがありません。
もっと日本にとって重要な問題は山ほどあります。

中央集権の体制を克服し、どのように地方に権限を与えるのか、
という問題。労働人口が圧倒的に足らず、毎年減っているという問題。
AIを始めとした新しい領域における人材が育っておらず、
以前にも増して国際競争力を失っているという問題。

過去の首相の成功事例を振り返ると、
こうした重要な問題に対してシングルイシューで取り組むことが
必要だと私は思います。池田勇人元首相の所得倍増計画、
田中角栄元首相の日本列島改造論、
中曽根康弘元首相の三公社の民営化など、
1つのことに絞って徹底的に実行しました。
小泉純一郎元首相の郵政民営化も同様でしょう。
小泉進次郎氏が進めていた農業改革に私は期待していましたが、
農協の民営化に対して手綱を緩めてしまいました。
残念ながら、父親のように徹底することはできないようです。


それでも、今回の調査で国民が安倍政権を
「支持する」割合が高かったというのは、
文科省の勝利かも知れません。
先生の言うことを忠実に聞く、
という教育が徹底された結果とも言えるでしょう。



─────────────────────────
▼野党が奮起しなければ、自民党は長期政権・独裁化の道を歩む
─────────────────────────
しかし一方で、安倍政権が信用され支持を受けているのではなく、
野党がだらしなく空中分解している結果という見方もあり、
私もまさにそう感じています。実際、世論調査の結果では
「支持政党なし」が約30%になっています。
この人たちは「都市型のサイレントマジョリティー」です。

民主党や民進党の調子が良かった時代には、
彼らを取り込むことに成功し、いわゆる、
「1区現象」を引き起こしました。
そして、政権奪取にまで成功しました。
しかし、その政権運営があまりに酷すぎました。
それが未だに影響しています。

あのときの失政を認めて反省し、
国民に詫びた上で新しい態度を示さない限り、
民主党などの野党が再び力を持つことは難しいと思います。
小池都知事が優勢だと思えば、
踏み絵を踏んで希望の党に身を寄せ、
小池都知事の人気に陰りが見えれば、
手のひらを返したり、このようなことを繰り返していて
国民から支持されるわけがありません。

今の自民党ではダメだと思っている国民は多いはずです。
「森友・加計問題」への対応などを見ていても、
自民党は嘘ばかりを並べ立てて、国民も野党も
バカにしています。そのような状況を
許してしまっていることが、最大の問題の1つです。

9月に総裁選が予定されていますが、
再び安倍首相が選ばれるとなると、
さらに状況は悪化していくことになると思います。

長期政権で独裁化し、掲げた政策は何1つとして
まともに完了せず、空中分解で成果ゼロ。それでも、
それを追求し指摘するマスコミはほとんどいません。
マスコミも、手痛いしっぺ返しを恐れていて、
「長いものには巻かれろ」という姿勢になっているからです。
特に、産経新聞と読売新聞はそのように感じます。

朝日新聞と毎日新聞は、若干、抵抗していますが、
それも限界が見えています。朝日新聞が最後のあがきで、
「森友・加計問題」関連の資料を掲載していますが、
最終的には黙認したまま力技で押し切られることになりそうです。

自民党と共に政権を担っている公明党にしても、
かつては明確な役割や思想がありました。
しかし、政権政党の旨味を味わった今、
真っ向から自民党を批判することはできず、
やはり「長いものには巻かれろ」状態です。
自民党からすれば、最も御しやすい党に成り下がってしまいました。

今の自民党への支持は、本当の意味での支持ではなく、
野党の失速が生み出してしまったものです。
このままでは、長期政権・独裁化という道を
自民党は進んでいくでしょう。
野党は過去を反省した態度を国民に示し、
野党としての役割を果たしてもらいたいと強く思います。


---
※この記事は7月1日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、安倍政権の話題を中心にお届けいたしました。

日本経済新聞社が6月末に行った世論調査によると、
安倍内閣の支持率は52%、不支持率は42%となり、
4ヶ月ぶりに支持が不支持を上回りました。

「国際感覚がある」「安定感がある」「指導力がある」
などが支持理由として挙げられたとのことですが、
大前は記事中で、今の安倍政権は、労働人口減少など、
今の日本が抱えている重要な問題に手を付けておらず、
何1つとして政策の成果を上げていないと指摘しています。

問題解決に取り組むにあたって最も重要なことは、
目の前に起きている問題をやみくもに対処するのではなく、
「何を解決すべき課題とするのか」を決めることです。

記事中でも、過去の首相の成功事例を大前が紹介していますが、
本質的な問題を徹底的に分析した上で、
解決策の立案や解決策の実行に取り組むことが大切です。

2018年06月29日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

英EU離脱/イタリア情勢/ギリシャ情勢/イスラエル情勢 〜ギリシャの財政再建の見通しと、イタリアの今後への不安

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

英EU離脱 先行き再び不透明に
イタリア情勢 少数民族ロマの調査実施へ
ギリシャ情勢 8月にギリシャ金融支援終了
イスラエル情勢 ネタニヤフ首相の妻サラ夫人を在宅起訴

─────────────────────────
▼英国EU離脱によって、United kingdomの崩壊の可能性
─────────────────────────
日経新聞は20日、「英EU離脱、先行き再び不透明に」
と題する記事を掲載しました。19日に公表した
共同文書について、EUのバルニエ首席交渉官は
「アイルランド問題をめぐって深刻な相違が残っている」
と警鐘を鳴らしたと紹介。当初は6月の首脳会議で
アイルランドの国境問題を打開する想定でしたが、
英国側がメイ政権の求心力低下により具体策を
示せていないのが現状で、交渉が「白紙」に戻り、
2019年3月に無秩序な離脱に陥るリスクも
意識され始めているとのことです。

無秩序な離脱、すなわち、「合意しないまま離脱する」
という可能性が浮上しています。
アイルランド側の言い分としては、
共通旅行区域(Common Travel Area)は、
EUが発足する前から英国とアイルランドの間で取り交わした協定なので、
英国がEUを離脱しても不問にしてほしい、というものです。

しかしEU側には認める様子はなく、英国がEUを離脱するならば、
アイルランドとの間には国境線を引かなければだめだと主張しています。

実際問題としては、アイルランドから
北アイルランドへ働きに出ている人も多いですし、
北アイルランドとアイルランドの間は
配送トラックが1日の間に何度も往復しているというのが現状です。

このような現状を考えても、この問題はおそらく
最後まで尾を引くことになると思います。
もしEUが言うように、アイルランドと北アイルランドの間に
国境線を引かなければならないとすれば、
北アイルランドはEUに残りたいと主張するでしょう。
そして、その場合には北アイルランドはアイルランドと
一緒になりたいと言うかもしれません。

これは「United Kingdom」の崩壊を意味すると思います。
そうなると、北アイルランドに続いて、
ウェールズ、スコットランドも離脱し、
イングランドだけが残り、「England Alone」
になってしまう可能性も大いにあると私は見ています。


─────────────────────────
▼ギリシャの財政再建の見通しと、イタリアの今後への不安
─────────────────────────
欧州連合(EU)は21日、ギリシャの8年に及んだ金融支援を
8月に「終了」させる枠組みで合意しました。
過去の支援融資の償還期間を10年延長するなど
返済の負担を軽減。新たな金融支援なしでもギリシャが
財政再建を続けられるようにする内容となっています。

ギリシャのツィプラス首相にとっては、
非常に嬉しい状況になったと言えるでしょう。
「反EU」を掲げ「負債の支払いはしない」
と公言し首相になったものの、ドイツに厳しい指摘を受けて、
思うようにはいかない我慢の年月を過ごしてきたはずです。

支援融資の償還期間の10年延長に加え、1部の債権放棄によって、
ようやく支援なしでギリシャ再建の道筋が見えてきました。
赤いネクタイを締めて、初めてスーツ姿を現した
ツィプラス首相としては、嬉しかったことでしょう。

ギリシャの政府債務残高の推移を見ると、
対GDP比で約160%という高い水準にはありますが、
依然問題を抱えながらも、ギリシャが一応は危機を脱したというのは、
EUにとっても非常に重要なことだと思います。
一方で、次はイタリアではないか?と言われており、
一難去ってまた一難という予断を許さない状況でもあります。

そのイタリアですが、マッテオ・サルビーニ内相は18日、
イタリア国内に居住する少数民族ロマに対する調査を実施し、
イタリア国籍がなければ国外追放する考えを示しました。
サルビーニ氏は今月、地中海で救助されたアフリカ系移民
約630人を乗せた船の入港を拒否して避難を浴びましたが、
今回の発言にも抗議の声が上がっているとのことです。

サルビーニ氏は反移民を掲げる極右政党「同盟」の党首です。
出身地である北部ロンバルディア州は、
かつての「ロンバルディア同盟」でも有名ですが、
今のサルビーニ氏の考え方はロンバルディア同盟とも異なってきています。

サルビーニ氏が手を付けた問題は、非常に難しいものです。
少数民族ロマの人々は、もともとはインドから移住してきたといわれ、
中東欧に多いことで知られています。古くからイタリアに来ていて、
住所不定であったり、国籍を持っていない人が多いのも事実です。

この人達の問題に手をつけるとなると、イタリアは
収集がつかなくなる可能性が非常に高いと私は思います。
事実、彼らが生み出すごみ問題などもありますが、
歴代の政府はすべて目をつぶってきました。
同じEUのルーマニアとの関係性の悪化も懸念されます。

スペインが受け入れてくれたのでEUとしては面目が立ちましたが、
過日、イタリアはリビアからの難民を受け入れませんでした。
「反EU」「反移民・難民」を掲げて政権をとっただけに、
今のイタリア政府の今後はさらに心配になります。
イタリア問題が第2のギリシャ化してしまうのではないか、
と私は懸念しています。


─────────────────────────
▼長期政権になると、どこの国も同じように腐敗している
─────────────────────────
イスラエルの検察当局は21日、
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の妻、
サラ夫人を詐欺などの罪で在宅のまま起訴しました。
サラ夫人は、首相公邸に料理人がいないように装い、
高級レストランから食事のデリバリーを
繰り返し注文していたとのことです。

ネタニヤフ首相自身も収賄の容疑で起訴されています。
首相在任期間も9年を超えてきて、
夫人共々やりたい放題といったところでしょう。
ネタニヤフ首相はトランプ大統領とは仲がよく、
トランプ大統領は、イスラエルが言うとおりに
米国大使館をエルサレムに移転するほどです。
トランプファミリーからの支持は得ています。

しかし一方では、完全に国民からの支持は失ってきていて、
その1つの象徴が首相夫人のこのような事件でしょう。
日本を顧みても、どこの国においても長期政権になると
似たようなものだと思うと、残念であり、情けない限りです。


---
※この記事は6月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、世界情勢の話題を中心にお届けいたしました。

「反EU」「反移民・難民」を掲げているイタリア政府。

ギリシャの財政再建の見通しが立ってきている中で、
イタリア問題が第2のギリシャ化してしまうのではないか、
と懸念されています。

また、ロマの問題に手をつけるとなると
収集がつかなくなる可能性が非常に高いと、
大前は指摘していますが、正しく現状を認識しなければ、
企業であろうと国であろうと迷走してしまいます。

まずは、現状を見誤らないこと。
そして、目指す状態を決め、それに向かって
どの実現経路をたどるかが重要です。

2018年06月22日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

米朝首脳会談 〜雪解けしたあと、北朝鮮と日本の問題はどのような展開が予想できるか?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

米朝首脳会談 非核化合意の共同声明に署名

─────────────────────────
▼米朝首脳会談は、トランプ大統領演出のテレビショー
─────────────────────────
トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長は12日、
史上初となる米朝首脳会談を行いました。
対談後、両首脳は新たな米朝関係を確立するとともに、
朝鮮半島の平和体制構築及び完全非核化へ向けた努力を
約束することを盛り込んだ共同宣言に署名しました。

今回の会談・声明についての海外の主要メディアの反応を見ると、
以下のようになっています。

ニューヨークタイムズ:声明の内容があいまい
ウォール・ストリート・ジャーナル:中身がない
ワシントン・ポスト:具体性のない声明
USAトゥデイ:韓国に不意打ちを食らわせた
ファイナンシャル・タイムズ:勝者は金正恩委員長
エコノミスト:トランプはショーマンシップを発揮

私の率直な印象を言えば、エコノミストの感覚に非常に近く、
トランプ大統領は「テレビショー」と同じように、
今回の会談を演出したということです。

メディアからは共同声明の内容に具体性がないなどと批判されても、
トランプ大統領としては気にしていないでしょう。
「金正恩委員長が出てきて、サインをした」という
今までになかったことを「演出」できたのですから成功だ、
という認識だと思います。一般の人の感覚からも、
もちろん外交筋の感覚からも大きくズレています。

ただ一方で、これまでの外交筋のやり方も成功していたわけではなく、
全て失敗してきました。その点から言えば、
金正恩委員長を引っ張り出して、どんな形にせよ
共同声明にサインをさせるところまで実現したと言えます。
また、この状況になると、金正恩委員長もこれから下手な行動に出れば、
さすがに米国が黙っていないだろう、という脅威を感じていると思います。
その意味において、金正恩委員長が今後は
従来と異なる反応を示す可能性もあるでしょう。

共同声明の内容を見ると、「新しい関係性」
「安定した平和体制の構築」「韓国と北朝鮮の板門店宣言の再確認」
「朝鮮半島の完全な非核化」などが示されています。
朝鮮半島の完全な非核化は、韓国も含めることになるので
北朝鮮の意向を取り入れた形になります。

安倍首相によると、金正恩委員長が拉致被害者についても
言及していたとのことですが、この共同宣言を見る限りは、
それは読み取れません。あくまでも、
自分たちの戦争捕虜や遺体回収に取り組むというだけの話です。
安倍首相は、トランプ大統領に日本の拉致被害者について
一言言ってほしいと依頼していたようですが、
私に言わせれば、他人に頼むことではなく、自分でやるべきことです。

これまで北朝鮮は、何度も非核化合意を反故にしてきました。
91年韓国、94年米国、さらには6カ国協議での合意も
反故にしてきました。しかし今回の共同声明を反故にすると、
さすがに米国から大きなしっぺ返しが来ると
金正恩委員長も理解しているでしょう。これまでと同じように、
非核化を反故にして核開発を進めることはないと思います。
「成功」と呼べるかは疑問ですが、
ある意味では抑止力にはなると言えます。

核開発への抑止力は期待できたとしても、
核兵器以外の化学兵器、生物兵器、
弾道ミサイルなどについてはわかりません。
今回の共同声明がどこまでを対象にしているのか、
まだ不明だからです。核兵器を使わなくても、
他の兵器を組み合わせることで核兵器と同じような被害を
及ぼすことは十分に可能ですし、日本としては警戒すべきです。
トランプ大統領の発言にもありましたが、
今回の会談は「第1歩」「入口」に過ぎません。
第2弾、第3弾の日程も決まっているそうですが、
現時点では「誰がどうやって具体的に詰めていくのか」
何も見えていません。


─────────────────────────
▼雪解けしたあと、北朝鮮と日本の問題はどのような展開が予想できるか?
─────────────────────────
今後の北朝鮮と日本との関係性の中で予想できるのは、
北朝鮮の経済復興のために日本が資金と技術を
提供する形になる可能性が高いということです。
おそらく、安倍首相からの拉致被害者についての依頼への見返りとして、
トランプ大統領から要求されるのではないかと私は見ています。
北朝鮮からすれば、日本に対しては
「戦前、戦中の賠償がおわっていない」と思っていますから、
渡りに船といったところでしょう。

かつて韓国が日本からの賠償金などを活用して、
「漢江の奇跡」という経済復興を成し遂げたのを見ていますから、
北朝鮮は自分たちも同じように復興に使うお金を欲しています。
本来、戦争に関する賠償は日本と韓国間で完了していますから、
北朝鮮もそこに含まれるはずですが、全くその認識はないようです。
北朝鮮が日本に賠償金として要求している金額は、
6兆円という莫大な額になります。

拉致問題について、北朝鮮側は「解決済み」という姿勢をとって、
一向に具体的なことを発表しないままになっています。
おそらく、すでに存命ではない人や、
墓もなく生死が定かではない人もいて、
満足できる説明ができない、というのが本音でしょう。
また、存命であれば日本に帰した後に
何を言われるのかわからないので公表したくない、
という意図もあると思います。いずれにせよ、
1年以内に解決すると言っておきながら、
急に「日本の態度が悪いから」と難癖をつけてくる国ですから、
この問題を日本が望むような形で解決することは、
かなり難しいと思います。


---
※この記事は6月17日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、米朝首脳会談の話題を中心にお届けいたしました。

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長が、
史上初となる米朝首脳会談を行い、
朝鮮半島の平和体制構築及び完全非核化へ向けた努力を
約束することを盛り込んだ共同宣言に署名しました。

しかし、今回の会談は「第1歩」「入口」に過ぎず、
第2弾、第3弾の日程も決まっているものの、
現時点では、何も見えていない状況となっています。

この米朝首脳会談をうけ、大前は記事中で、
今後の北朝鮮と日本との関係性の中で予想できるのは、
北朝鮮の経済復興のために日本が資金と技術を
提供する形になる可能性が高いと指摘をしています。

北朝鮮の今後のシナリオについては、
様々なシナリオが考えられますが、
あらゆるシナリオをあらかじめ想定しておくことで、
「想定外」の出来事を減らすことが可能となります。

「もしも」の事態に真剣に取り組み対策を講じることで、
想定外の出来事に慌てることは少なくなります。

2018年06月15日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

欧州情報規制/中国情勢/中国・紫光集団/日立製作所 〜フェイスブックの個人情報問題は、「注意」しても解決しない

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

欧州情報規制 個人データの相互移転で合意
中国情勢 「天網」が覆う中国の超監視社会
中国・紫光集団 紅い半導体、自立の夢
日立製作所 原発建設計画継続で合意

─────────────────────────
▼フェイスブックの個人情報問題は、「注意」しても解決しない
─────────────────────────
日本と欧州連合(EU)は先月31日、
現地で得た個人データの移転を相互に認めることで実質合意しました。
EUは5月に施行した一般データ保護規則(GDPR)で、
域外へのデータ持ち出しを厳しく規制しています。
日本側が、企業が新たに守るべき指針を7月初旬までに定めることで、
今秋にもデータを円滑に移転する枠組みを作る方針です。

GDPRにおいて、日本はEU域外への
データ持ち出し可能な国として認定されていないので、
今回新たに日本との間のルールを制定する運びになりました。
この枠組みが円滑に運営されればされるほど、
フェイスブックが起こした個人情報流出の問題の大きさが
改めて浮き彫りになってくる気がします。
フェイスブックの問題の厄介なところは、
例えばクレジットカードのデータなどを購入してきて、
それをフェイスブックのデータと重ね合わせることで、
活用しやすくなり価値も上がるということです。

欧州の場合には、業を煮やしてGDPRを施行し、
フェイスブックなどにも罰金を課せるようにしました。
非常に高いペナルティなので、しばらくの間は
GDPRが抑止力として働くことになると思います。
しかし、フェイスブックのようなデータを持っているところは
他にもありますし、そのデータを広告に活用すると
多くの広告費が取れるので簡単にはなくならないでしょう。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、
「厳重に注意します」と述べていますが、
フェイスブックそのものを会社として潰さない限りは、
芋づる式にこの問題は続いていくと思います。


----
日経新聞は1日、『「天網」が覆う中国の超監視社会』
と題する記事を掲載しました。
中国政府が運用する監視システム「天網」により
過去2年間に2000人以上の逃亡犯が逮捕されています。
中国に1億7000万台ある監視カメラのうち、
2000万台がこのシステムの下にあるほか、
核となる顔認証技術により14億人の全国民を
1秒もかからずに照合できるとしています。

2000人の逃亡犯を逮捕できたというのは、
恐ろしいほどの超監視社会になっています。
犯罪の抑止につながるのは間違いありませんが、
逆に言うとこの監視システムを使って
政府に都合が悪い人間を追いかけるということもできてしまいます。
さらにSNSなどのデータと照合して組み合わせれば、
政治思想や宗教など、より深い個人情報として
認識することも簡単でしょう。

政府が恣意的に利用するという可能性を考えると、
中国はスマホ決済で便利だと喜んでいる場合ではないかもしれません。
日本の場合には警察が保有しているデータが指紋データなので、
中国のように顔認証システムによる監視はできません。
ある意味、技術が先行しているがゆえの課題です。

こうした監視システムが社会秩序を守るのに有効なことは間違いありません。
しかし、一体「誰の秩序」を守るために利用されるのか。
ここが恣意的になってくると大きな問題になってしまうでしょう。


─────────────────────────
▼国策として大きくしたい紫光集団
─────────────────────────
日経新聞は1日、『紅い半導体、自立の夢』
と題する記事を掲載しました。中国の国策半導体メーカー、
紫光集団の新たな工場が年内に稼働する見通しです。
総額3兆円を投じ湖北省武漢市で建設を進めているものです。
今後10年で1000億ドル(約11兆円)を投資する方針で、
供給過剰を懸念する世界の半導体関係者が
固唾をのんで見守っているとしています。

中国企業の課題の1つは、米国企業の半導体を使っているケースが多く、
そこに依存している状況があることです。
それゆえ、ZTEのように米国企業とのつながりを断たれると、
ひっくり返ってしまいます。

中国市場の中心になる半導体メーカーは米国メーカーであり、
中国の半導体メーカーはメインではありません。
中国が国を挙げて紫光集団を大きくしていきたいと考えるのも頷けます。
10年間で約11兆円の投資というのは、通常の企業では到底できません。
国策として投資していく方針だからこそ、可能な額でしょう。
この方針が実現していくとすれば、長期的に見ると、
サムスンを筆頭に大手半導体メーカーにも
大きく影響してくる可能性があると思います。


─────────────────────────
▼日立の英国における原発受注は非常に貴重
─────────────────────────
英国のクラーク・ビジネス・エネルギー・産業戦略相は4日、
日立製作所が英国で進める原子力発電所の建設計画を
継続することで日立側と合意したと発表しました。
クラーク氏は「英国が低炭素経済へと移行するなかで
原子力は重要なエネルギーだ」と述べるとともに、
日立の新たな事業が地元経済に
多くの雇用を生み出すとも指摘しました。

日立としても、背に腹は代えられないという決断だと思います。
原子力発電所の開発を行う場合、
どこまでリスクを抑えられるかというのが非常に重要です。
あまり大きなリスクを背負ってしまうと、
かつての米国における東芝の二の舞になってしまいます。
三菱重工は仏アレバに出資しましたが、
アレバは半分倒産しているような瀕死状態でしたから、
リスクを抑えられたとはとても言えないでしょう。

日立が建設する予定の2基の原子炉は、世界でもめずらしいことに、
先進国で原子炉建設が国民投票で承認されたものです。
これまでにも英国では中国系の企業が原子炉の建設を進めてきました。
しかし、国として補助しなかったために
建設コストが跳ね上がってしまいました。
これは結果として電気料金に影響するため、
その不満が国民から政府に寄せられる可能性があります。

日立は、このような背景を理解した上で、
電気料金を抑えるための建設コストについて、
英国のメイ首相にも説明したそうです。
クラーク氏も、元BCG出身の人なのでビジネスに明るく、
そのような話が通じやすかったという側面もあるでしょう。
今回の2基の原子炉建設については、
これまでの日本企業が見せたことがないような
周到な交渉が行われたと思います。
リスクについてもある程度は抑えられたと言えるでしょう。
ただし、最終的に電力をいくらで買い取ってもらえるのか、
という電力会社との交渉はまだ残っています。

各国の建設中・計画中の原発基数を見ると、
中国、ロシア、インドが非常に多くなっているのが分かります。
日本は計画中のものは多くありますが、
建設中のものを含めて今後進んでいく見通しはありません。
計画中の原発基数が多いトルコの案件も、
このままなら中国やロシアに持っていかれるでしょう。
その意味でも、英国の2基の原発を日立が抑えられたのは
貴重なことだと思います。


---
※この記事は6月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、欧州情報規制やフェイスブックの話題を
中心にお届けいたしました。

日本と欧州連合(EU)は、現地で得た個人データの移転を
相互に認めることで実質合意しました。
日本側が、企業が新たに守るべき指針を7月初旬までに定めることで、
今秋にもデータを円滑に移転する枠組みを作る方針です。

GDPRの施行により、グローバルに事業を展開する企業をはじめ、
EU域内の個人データを扱う可能性がある場合は、
社内ルールの見直しや管理体制の強化など、
影響は大きいものになるとみられています。

このように、自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)が、
現在または将来にどのような影響を与えるかを
把握・予測することは、事業を成功に導くために不可欠です。

今回の欧州情報規制のように、政治・法律的環境要因は
企業では制御できない前提条件となってきます。

新たな法律が施行された場合は、
市場や自社に対してどのような影響が与えられるかを
事前にシミュレーションしておくことが重要です。

2018年06月08日(金) 
■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

働き方改革/外国人労働者 〜高度プロフェッショナル制度より、労働生産性の改善の方がよほど重要な問題

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

働き方改革 働き方改革関連法案が可決
外国人労働者 新たな受け入れ策の原案まとめ

─────────────────────────
▼高度プロフェッショナル制度より、労働生産性の改善の方がよほど重要な問題
─────────────────────────
安倍政権が今国会の目玉法案と位置づける
働き方改革関連法案が先月31日、衆院本会議で採決されました。
これは、残業規制、同一労働同一賃金、
脱時間給制度が3本柱となっているもので、
4日にも参院で審議入りし、今国会で成立する見通しです。

今国会の目玉という割には、働き方改革関連法案の中身を見ると、
全く大したことがありません。高度プロフェッショナル制度も
私に言わせれば、余計なお世話です。
野党側はこの制度が隠れ蓑になって、
また企業がブラック化するのではないかと指摘していますが、
これも余計なお世話だと感じます。

もし従業員が不当に働かされていると感じたなら、
労働基準監督署に申し出ればいいのです。
それを受けて労働基準監督署が、
従業員の名前などを伏せて会社に対して
匿名で警告することができれば良いでしょう。
現状では、従業員がそのような動きを取れば、
会社における身分を脅かされる可能性があります。
この制度を変えるほうがよほど現実的で重要なことだと思います。

また、裁量労働制が適用されている働き方について、
企画型業務の対象拡大が見送りになったとのことですが、
そもそも「企画型業務」を行政や政治が理解できるとはとても思えません。
重要なポイントは、今後はロボットやAIに置き換えられるような
労働集約型業務が減り、企画型業務が増えていかなくてはならないということです。
どこか論点が間違っているように感じます。

働き方について、最も大きな問題の1つだと私が感じているのは、
フルタイムとパートタイムの賃金水準の違いです。
日本では賃金水準は「フルタイム:パートタイム=2:1」となっていて、
非常に差が大きくなっています。
フランスの場合には「100:90」でほとんど差がありません。

このように賃金水準の格差が大きいために、
日本ではパートタイムをたくさん採用し、
その待遇を低く抑えることに注力されています。
逆に言うと、フルタイムに対する保護が厚すぎると言えるでしょう。
ゆえに、この問題を解決するためには、パートタイムの待遇の改善と同時に、
フルタイムの雇用の保証を撤廃するような手を打つべきでしょう。

また、日本にとってさらに深刻な労働問題になっているのが、
一人当たりの労働生産性が非常に低いということです。
OECDの中でも最下層で、アイルランド、ルクセンブルグ、
米国、ノルウェー、スイスといった上位には遠く及ばず、
20位にも入れず、あのギリシャを下回る水準になっています。

かつて日本はブルーカラー業務の機械化や自動化には見事に成功しました。
しかし一方で、間接業務の自動化やコンピューター化には
大きく出遅れています。いまだに、属人的で標準化されていない業務が多く、
大きなネックになっています。この20年間で、
世界的には間接業務のコンピューター化や自動化が大きく進みましたが、
日本ではそれがなされていません。給料も生産性も上がらず、
いつの間にか日本は労働後進国になってしまったのです。

今国会で議論されている高度プロフェッショナル制度などよりも、
こうした問題の改善の方が極めて重要だと私は思います。



─────────────────────────
▼50万人の外国人労働者受け入れでは、付け焼き刃に過ぎず、何も解決しない
─────────────────────────
政府が検討している新たな外国人労働者受け入れ策の原案が
先月29日、明らかになりました。
建設・農業などの5分野を対象に日本語と技能試験に合格すれば、
単純労働分野でも最長5年の就労を認めるもので、
人手不足に直面する5分野で2025年ごろまでに
50万人超の就業を想定するとのことです。

2025年までに外国人労働者を50万人受け入れると言っても、
全く足りません。日本の労働人口は「毎年」30〜40万人ずつ減っているからです。
これまでは認められていなかった単純労働分野の外国人労働者を
2025年までに50万人にしようという話ですが、
私の計算では日本という国は外国人労働者が
1000万規模で入ってこなければ成り立たなくなります。

仮に2030年までに1000万人としても、
毎年100万人規模で外国人労働者の受け入れが必要となります。
私はもう何年も前から、「そのための制度を作れ」と主張しています。
そんな特別な制度を作らなくても、単純作業であれば
日本語と少し技能があればなんとかなるというのは、
そもそも問題を認識していないのでしょう。

最近では、中国、ベトナム、ネパール、さらに南米からは
ブラジルやペルーからの外国人労働者が増えているとのことです。
こうした国際的な多様化は今後も進むでしょう。
それに対応できるような制度が必要なのです。

例えば、計画的に2年間の無償教育を施します。
そこでは、単に日本語を教えるだけではなく、
日本人とはなにか、日本人として、
日本の社会に生きる社会人としてどうあるべきか、
ということを教えます。これは日本人に対する成人教育を
明確にするということにもつながります。

そして、きちんと教育を受けて合格をしたら、
グリーンカードを発行します。永住してもらってもいいし、
もちろん正式に就職してもらってもいいでしょう。
現行の技能実習制度のように、せっかく教育をしたのに、
5年間で制限する意味は全くありません。

少子高齢化社会の日本としては、
こうした取り組みは非常に重要になると思います。
日本のターゲットとして、ドイツを参考にすると良いでしょう。
ドイツでは人口の15%程度の外国人労働者を受け入れています。
そう考えても、日本では1000万人規模の外国人労働者を
受け入れる必要があると思います。こうした準備もせずに、
「とりあえず50万人」などと言っているのは、
付け焼き刃に過ぎず、問題の本質を全く理解していないと言えます。


---
※この記事は6月3日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、働き方改革の話題を中心にお届けいたしました。

安倍政権が今国会の目玉法案と位置づける
働き方改革関連法案が、衆院本会議で採決されました。

これに対して大前は、働き方改革関連法案の中身を見ると、
今国会で議論されている高度プロフェッショナル制度などよりも、
労働生産性の改善の方がよほど重要な問題と指摘しています。

問題解決を行うにあたっては、課題を定義し、
課題の構造化をした上で、実現可能性と効果のインパクトから
検討の優先順位づけを行う必要があります。

取り組みの効果が最もあがるように、
取り組み資源をどこに配分するか決め、そのために何を優先するか、
また、何に時間を使ってはいけないかを決めた上で、
解決策を立案していくことが重要です。

2018年06月01日(金) 

■ [1]〜大前研一ニュースの視点〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

中朝関係/米中貿易/米通商政策 〜北朝鮮の安い労働力を狙い、やや先走っている中国

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

中朝関係 遼寧省丹東で住宅価格上昇
米中貿易 中国製品への追加関税を保留
米通商政策 自動車関税の引き上げ検討

─────────────────────────
▼北朝鮮の安い労働力を狙い、やや先走っている中国
─────────────────────────
NHKニュースウェブは先月20日、
北朝鮮と国境を接する中国東北部の遼寧省丹東で、
新築住宅の販売価格が上昇していることがわかったと報じました。
中朝が関係を強化し経済協力が進めば、
中朝貿易の拠点である丹東が活性化するとの期待が膨らんでいるものです。
4月の上昇率は中国の主要70都市で最も高くなっているとのことです。

中国と北朝鮮の長い国境の両端の重要性が増しつつあります。
豆満江の端でロシアに接するデルタ地帯は、
ロシアが虎視眈々と狙っています。
日本との関係を含め、平和条約が締結されて、
まともな付き合いができることになれば、
重要度が増してくる地域です。

一方、遼寧省丹東は中国側から見て北朝鮮の入り口に最も近い場所です。
すでに住宅だけでなく会社の事務所なども埋まってきていると聞きます。
中国としては、橋を渡って通勤してもらえれば、
北朝鮮の安い人件費を使いたい放題だと考えているのかもしれません。
こうした動きは、中国のIT企業などにも広がっており、
私としては若干先走っている状況だと思います。


─────────────────────────
▼中国との貿易戦争をすっかり忘れ、さらに暴走するトランプ大統領
─────────────────────────
ムニューシン米財務長官は先月21日、米中両政府が17、18日の貿易協議で
「追加関税の発動を保留することで合意した」と発表しました。
米国が抱える対中貿易赤字の削減に、
中国が取り組んでいる間は中国製品に高関税を課すことを棚上げするもので、
農作物など中国への輸出を増やす具体案を詰めるため、
6月にはロス米商務長官が中国を訪問するとのことです。

トランプ大統領の記憶力の無さには、驚くばかりです。
あれほど「中国と貿易戦争だ」と叫んでいたのに、
「今回は追加関税をしない」と言い出しました。
全く以て私には理解できません。

同時に、中国ZTEへの制裁緩和も決定したようです。
米国は4月に、米企業がZTEと取引をすることを
7年間禁止すると発表していました。
米国からの部品提供がなければ成り立たないため、
ZTEは5月には主力事業を停止したことを公表。
このままでは倒産するしかない状況で、
中国政府にとっても非常に大きな悩みの種になっていました。

これに対する解決策としてトランプ大統領が
提示したのは、1400億円の罰金の支払いでした。
このような無茶苦茶な「ディール」は、私も見たことがありません。
トランプ大統領のやりようには呆れるばかりですが、
中国政府もZTEも条件をのみました。
ZTEが倒産して大きな問題に発展するよりはマシということでしょう。

ムニューシン米財務長官もロス商務長官も、
強い態度でトランプ大統領を諌めるわけでもありません。
二人とも十分すぎるほど資産も持っていますし、
一線を退いた老後のような意識なのかもしれません。


─────────────────────────
▼日本の自動車メーカーの米国への貢献を誰も主張できない日本の情けなさ
─────────────────────────
側近たちも歯止めにならないトランプ大統領の暴走は、
さらに日本にも飛び火してきそうです。
トランプ米政権が安全保障を理由に自動車の関税引き上げを
検討していると複数の米メディアが報じました。
現在2.5%を課す乗用車の関税を最大25%に上げる案を
視野に入れているということで、これが実行されれば、
自動車輸出で成長してきた日本に大きな打撃となりそうです。

基本的にトランプ大統領は、
自動車業界の現状について全く理解していません。
例えば中国市場について言えば、
確かに一番売れているのはフォルクス・ワーゲンです。
しかし、2番目に売れているのはGMです。
フォードはそれほど売れていませんが、
それでもトップ10には入っています。
中国市場において、米国の自動車メーカーが
もてはやされているのは間違いありません。

一方、日本に対しては「安全保障上の理由」で
自動車に課される関税を引き上げる可能性があるとのこと。
ミサイルなどの兵器でもない自動車が、
なぜ「国家の安全保障上=ナショナル・セキュリティ」
の理由になるのか、もはや意味不明です。

そもそも米国において、GMもフォードも自動車メーカーは
すでに国家戦略の中枢ではありません。
このことすらトランプ大統領は認識できていないのでしょう。
米国で販売される新車メーカーの内訳を見ると、
米ビッグ3で44.5%、日経メーカーで39.1%となっていて、
ほぼ同じ水準になっています。

この30年間、日本の自動車メーカーは
米国にいじめられながらも生産拠点を米国に移してきました。
今、日本の自動車メーカーは米国内で400万台生産しています。
エンジンの生産台数は470万台です。さらに、工場は24箇所あり、
研究開発・デザイン拠点は43箇所にのぼります。

労働者数を見ても、直接工場で働いている人数が9万人。
ディーラーなどを含めた数では150万人に達します。
そして米国への累計投資額は456億ドルで
5兆円を超える規模になっています。

これだけ米国内での生産や雇用に貢献しているのに、
それでも不満というのでしょうか。
米国で販売される日本メーカーの車の75%は米国製で、
日本製の輸入車は25%に過ぎません。
おまけに、米国製の日本車は41万台輸出されています。
この中には日本に逆輸入されるものもありますが、
それを差し引いても米国の貿易に貢献していると言えます。

先ほども述べましたが、日本の自動車メーカーは
米国のビッグ3とほぼ同額まで米国内で自動車を生産しています。
この30年間で米国内の生産を伸ばしてきたのは日本勢です。
米ビッグ3ではありません。

日本の自動車メーカーは、日本国内での生産を犠牲にして
米国での生産を伸ばしてきました。その一方で、
先日フォードは「マスタング」「フォーカスアクティブ」
の2車種を除いた乗用車の北米販売を今後数年間で
取りやめることを明らかにしています。
私に言わせれば、トランプ大統領はこの情けない
自国の自動車メーカーの尻を叩くべきです。

この一例を見ても分かる通り、問題は
「ナショナル・セキュリティ」ではありません。
この様な事実を認識できていないトランプ大統領には呆れますが、
日本の経産省あるいは安倍首相が、トランプ大統領に対して
とことん説明する必要があります。

30年間、日本の自動車メーカーは米国にいじめられながらも、
対米進出を成し遂げてた事実を徹底的に周知することが重要です。


---
※この記事は5月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



─────────────────────────
▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
─────────────────────────

今週は、世界情勢の話題を中心にお届けいたしました。

北朝鮮に最も近い中国の町、丹東市では、
最近の南北首脳会談や北朝鮮の非核化をめぐる動きから、
新築住宅の販売価格が上昇しています。

こうした動きは、すでに住宅だけでなく
会社の事務所なども埋まってきているとされている一方、
若干先走っている状況だと大前は指摘しています。

自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)が、
現在または将来にどのような影響を与えるかを
把握・予測することは、事業を成功に導くために不可欠です。

政治・法律的環境要因は
企業では制御できない前提条件となってきます。

新たな政治的な動きや法律が施行された場合は、
市場や自社に対してどのような影響が与えられるかを
事前にシミュレーションしておくことが重要です。

過去ログ 2010年12月 
2011年01月 02月 03月 04月 05月 
2012年05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2013年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2014年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2015年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2016年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2017年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2018年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月